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第9話『川散策、召喚ゴーレムを細切れに』

 いい感じに時間をかけて山を突破できた。

 その甲斐あって間隔を空けることができたんだけど、これはなんと面白いことになっている。


 最後は川地帯になっているんだけど、どうやらゴーレムっぽいものが数体ほど発見した。


「ここは能力を披露する場所になっているのかな。そんでもって、山が体力で、森が……判断力かな? じゃあ、川は総合力だったり?」


 足場が悪く体力の消耗も激しく、数体のゴーレムとの戦闘をするかどうかの判断力、討伐できる能力の有無ってところかな。

 全てを回避して迂回路を進んでもいいが、そうしたらゴールまで時間がかかってしまい順位を落とす。


 全てを無視して通過できる能力を持っていたらそれでよしであり、順位の得点を獲得する。

 だから遅れた人はゴーレムを討伐すれば、そこに加点という救済処置があるというわけか。

 実力を有する人間にとってはよくできたシステムだが、当然、俺のような人間には得点と獲得する手段を用意されていたい。


「呆れる。実にくだらない」


 実力主義と言えば聞こえがいいかもしれない。

 しかし、あまりにも下劣なやり方だ。


「そこまでして能力が低い人間を陥れたいのか」


 学園というシステムが腐敗しているのか、それともこの世界全てがその片鱗をみせているのか、それとも教師陣が特別なのか。


「動いているのは合計で20体。討伐されたゴーレムは10体――内、数体は通り魔にでもあったみたいな倒され方をしてるな。たぶん、リンとカナリなんだろう」


 どんだけ競い合ってるんだよ、というツッコミを入れたいところだが、他の生徒はその後ろを通って事なきを得たんだろう。

 いがみ合いつつも倒せるっていうんだから、実力はちゃんとある証拠だ。


「さて、まだまだいろいろと試したいことがあるんだ――【遮断聖域】」


 各個体の距離はあるけど、それら全てを覆う結界を展開。

 これをすることによって、ゴーレムに紐づけてあるなんらかの魔法だか魔術を遮断し、俺の存在と能力を悟られないようにする。

 異変に気付いた教師が何かしら行動を起こすかもしれないが、そんなに時間は使わない。


 そして『紐』からヒントを得て、極細に圧縮した魔力の紐を各ゴーレムへ飛ばして接着。

 一気に引っ張ると壊れそうだから、ジリジリと一ヵ所に集める感じで引っ張る、と。


「閃いちゃったんだよね。俺にとって一番必要なものが何かを」


 物語の登場人物は皆、活躍するヒーロも皆、全てのカッコいいが詰まっているそれ。


「そう! 必・殺・技!」


 壮大であっても、スマートであっても、目に見えないものであっても、武器であっても。

 総じてカッコいいが詰まっている!


 ゴーレムたちが合流するまで、まだ時間がある。

 あの世界ともはや別世界だから、丸パクリをするのだって問題ないはずだ。


「絶望的な状況を覆す攻撃、それが必殺技だと俺は思う。だが……なかなか難しいな」


 様々なバリエーションを知っているからこそ、その中から選ぶのはなかなかに難しい。


「迷う、迷う」


 だって、参考にしたい必殺技が全部カッコいいんだもん。

 もはや恋焦がれていると言っても過言ではないのだから、その中からたった一つだけ選ぶなんてできない!


「くっ……どうしたものか。うーん……」


 体をよじり、頭をこねくり回す。


「はっ! とりあえず、超近接と剣に乗せるやつと――これは、ここじゃ試せそうにないからお預けで」


 迷って決められないんだったら、複数個作ってしまえばいいじゃないか。

 必殺技なんだし、最後の一撃ってわけじゃないんだから、これでもいいよね。


「それに、結界の中とはいえ自分の力で自分の体が大丈夫かわからないし。ちょうど10と10でわけてやってみよう」


 決断したなら即実行。

 左手で紐を掴むように紐を束ね、一気に引っ張って目の前に持ってくる。


「一旦、右手の暇は解いておいてっと」


 10体のゴーレムは、それぞれ岩が繋ぎ合っている外観。

 探知で覗き見てみると、粗雑な魔力の綱みたいなもので繋ぎ止めてある。


 これを教師が作成したっていうんだから、アッシュの魔力操作の凄さが際立つもんだ。


「イメージは、拳に力をチャージして放つ感じで――ちょっと腰を落として、ダッシュでも飛び込むこともできる姿勢で――ダメだこりゃ」


 と、全くと言っていいほど名前が思い浮かばなかったため、全てを諦めて拳に貯めた力を前方へ突くように放つ。


「うっひょー」


 想像通りに白光する衝撃波が拳の突きで放たれたわけなんだけど、威力は想像を上回ってしまった。

 なんせ、ちょうど10体に攻撃を当てるつもりだったんだけど……延長線上にいたゴーレムも巻き込んで総勢15体を塵になっちゃったよ。

 正しくは塵も残ってないんだけどね。


「残り5体になっちゃったけど、せっかくだしこのまま試してみよう。第二の必殺技を!」


 次は剣を使った必殺技を考案してみる。

 漆黒の剣を召喚し、今度はゴーレムを引っ張らずに技を繰り出してみよう。


「名前は諦めようそうしよう」


 と、自分の不甲斐なさを噛み締めつつ、剣を両手で持ってみたり上段で構えてみたり下段後方で構えてみる。

 案外どれもいい感じで決めきることができない。


「だったらもう、後ろの方でチャージして上に持ち上げ――そこから振り下ろしてぶっ放すって感じでいいんじゃないか? それで、斬撃を飛ばすイメージで必殺技の名前を叫ぶ!」


 必殺技の名前はまだ決まってないけど即実行。


「こうして――チャージしてチャージしてチャージして――上に持ち上げて――おらぁ!」


 漆黒の剣にチャージされた光の斬撃が――広範囲、結界内ほぼ全てを射程に飛んでいってゴーレムたちは消えた。


「わ、わーお。我ながらヤバうぃよこれ。結界がなかったら、ここら辺一帯が消え去ってるじゃん」


 顔を引きつらせながら、すぐに地形を元に戻す。


「もう少し練習しないとさすがにマズーいよね。というか、どうせだったら波動拳と斬撃波も黒くした方がいいんじゃないか? なんだかそっちの方がかっこいいし。というか、もう全部色統一した方がいい感じになるよね」


 初実戦のとき、あんまり考えていなかったけど光を漏らさなくてよかったと安堵する。


「あーでもなぁ~。じゃあ、あのときの選択はミスったな」


 三人娘との邂逅したときのことを思い出す。


「できるかわからないけど、記憶操作してまでじゃないしなぁ~。もうこうなったら、防御とか回復みたいな攻撃系じゃないやつは白い力ってことにしておこう。いいね、攻撃の黒、防御の白――くぅ~、響きが堪んねぇ!」


 心の内側がくすぐられ、体が疼く感覚に襲われ、今すぐ叫びながら走り回りたいほどの高揚感に浸る。


「いけないいけない。みんなゴールし始めているから、俺も行かないと。まあ、あの二人以外からは存在自体を忘れ去られていそうだけど」

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