「さて、かなり都合がいい展開になってきたな。複雑な心境ではあるけど」
道中、探知に把握していた設置されていた魔法が次々に消滅していっている。
これはつまり、最下位が確定している俺を監視する必要はないと判断されているということ。
教師が生徒を見捨てるような行為がまかり通っているのは、当然許されることではない。
ましてや下手をしたら死ぬような場所で。
だが、その目を気にしなくていいというのはいろいろと楽だ。
いろんなことが試したい放題ってわけだし。
「じゃあ足に魔力を貯めて――よっと」
見上げるぐらい――たぶん5メートルはある断崖を跳躍してみた。
結果は成功したわけなんだけど、こっちに関しては空で試したから要領は掴んでいる。
空中に魔力の皿を用意すれば足場にできるわけだし。
「でも、他の生徒は遠回りをして登山をしているのか、大変だなぁ」
とは思ったけど、さすがにみんな肉体的なトレーニングをしてなさすぎる。
授業中だけでもしっかりとやらないと、いつか体力面で後悔するからちょうどいいと思う。
「せっかくだし別のことも試しておきたいよね。このまま走ったら追いついちゃいそうだし。残念ながら敵になりそうな野獣は居ないからどうしよう」
ああ、そうだ。
「あんなカッコいい服装をしていて、肉弾戦オンリーっていうのはちょっともったいないよね」
やっぱりカッコよさを追い求めるなら武器!
「どんな武器がいいかな? トンファー、大鎌、大剣、無数のナイフ――迷う。どの武器もカッコいいしなぁ。うーん……ここはあえて心が昂る武器より、接戦を演じることのできる剣系がいいっか」
この世界の人間がどれぐらい強いのかわからないし、なんなら人間以外の人種も居るんだから、漏れなく力を観てみたい。
強力な一撃でドガーッとやっちゃうのもいいけど、幻想的な世界の幻想的な力というのは心がくすぐられるからね。
「しかし剣といっても沢山種類あるしなぁ、どうしよう。二方向に刃があるダブルセイバーとか短剣もあるし、二刀流なんてカッコよすぎて最高なんだけど……扱いが難しくなってくると手加減ができなくなっちゃうし」
転生する前、長い木の棒を削ってダブルセイバー擬きを作ったり包丁を逆手持ちしてみたりした。
もちろん斧や槍も作ってみたりしたし、木の棒に輪ゴムを連結させた弓だって作ってみたけど、そのどれもが扱いが難しかった記憶しかない。
辛うじていい感じだったのは、剣と弓と盾ぐらいだった。
「傘を剣に見立ててブンブン振ったりして練習してたなぁ。空想上の敵とも戦ったな~。こう、こう? こう――わお、できるんかい」
何も持っていない手で素振りをしてみるついでに、魔力とか光で剣を具現化できないかなって思っていたらできてしまった。
かなり眩しいぐらいの剣なんだけど、ほとんど重さを感じない。
「おぉ、おお! そうそう、こんな感じこんな感じ! うっひょー!」
傘を握って振り回した記憶が鮮明に読みがってくる。
幼稚園、小学校、中学校――最初は人目を気にせずやっていたけど、年齢を重ねていくにつれて秘密基地だけでしか素振りをしなくなっていたっけな。
そんなことより問題が。
「こんなに眩しかったら、あの服装とは合わないじゃんか」
ほぼ真っ黒い服装にビカビカ光っている剣を携えているなんて、あまりにも対照的すぎる。
「逆に考えたら、光と影を演出できているからカッコいいけど……どうせだったら漆黒の剣の方が――できた」
柄から剣身まで全部が真っ黒だけど、黒曜石みたいな、夜空を映し出しているような雰囲気がある。
光を反射することのない、というより、光を吸収し続けているような、そんな。
「ああなるほど」
力はそのままに、魔力でコーティングしている感じなのか。
アッシュがやり続けた努力の賜物である、精密な魔力操作が存分に発揮されている。
「なら、手から離れたらどうなるんだろう。えいっ」
剣の投げ方なんて知らないから、とりあえず放り投げてみた。
「わー」
ドッカーンと音を立てて、一帯に穴が開いて吹き飛んでしまった。
「修復修復っと。そういや、これもどういう仕組みなんだろう。光のは自己再生って感じだけど、地形の方は大気中に漂っている魔力を物質に変換して元に戻しているって感じなのかな。それなら超便利だけど、なんかいろいろと捻じ曲げちゃってない? 考えたら負けってやつか」
しっかしヤバいな。
剣を再出現させるには、こうなんていうか、疲れる感じに労力がかかると思ってたんだけど一瞬じゃないか。
これだったら、もしも剣が折れたとしても出し放題ってこと?
「投擲物としての役割もあることがわかったけど、そもそもの切れ味を把握しておかないと」
あまりにも軽すぎるから、剣を持っているというより長袖の延長みたいな感じで自由自在に操れる。
剣の修行をしていないからとてもありがたい。
「でも、どんな相手と戦うかわからないんだから練習はしておかないとね――よっと。あ、これアカンやつだ」
斧を数振りしたりチェーンソーで切断するような太い幹の木を、水を斬るみたいにスパッと切断してしまった。
「いや待てよ、この繊細な魔力操作を活かせば切れ味の操作も可能なんじゃ――よーし、いい感じ」
今度は、対象を斬らないようにと思いながら剣を振ってみた。
そうしたらガツッと気を叩いただけで終わったんだけど、これはこれでビックリ。
硬いものを殴ったら衝撃が腕に伝ってきて、ビビビっと電気が走ったみたいな感じに痛くなるところが、それが全くない。
「よくわからないけど、自分を護る対象にしたことによって衝撃吸収拡散も魔力と光が自動で抑制してくれているのかな。何それ凄すぎ、オートガードじゃん」
感心しながら切断してしまった木を修復。
「攻防一体の魔力操作、無限に出せる剣、オートヒール、オートガード。こんな感じで能力を確認できたのは大きな成果だ。あ、そういえばエリアバリアも使えたんだった。あれ、咄嗟だったとはいえいい感じだったなぁ。その内、いろいろと名前を考えたいな。いい感じにカッコいいのを」
なんかこう、カッコいいのを……。
「お」
これまた忘れていた、探知を思い出したと同時に俺より前の人が山地帯を通過し終えた。
当然、魔法の痕跡も消えている。
「あの様子だと、爆発音は聞こえてなかったっぽいな。よかったよかった」
さすがに相手の記憶を操作する、とかは試すのを躊躇ってしまうから選択肢に入れたくなかった。
「じゃあ俺もちょちょっと駆け抜けるか――」