「……」
外に出てみると、地面に穴が開いていた。
そして、少女……だと思われる、フードですっぽりと頭を隠している三人の姿。
「どういったご用件かな」
「ごきげんよう。気配を辿ってきたのだけれど、間違いはなさそうね」
け、気配!?
魔力的なやつを追跡できる魔法か魔術の類なのか。
俺としたことが不覚だった。
こんなにも早く正体がバレてしまったなんて。
執念に後を追ってくるということは、ショッピングモール的な場所で懲らしめてやった強盗的なやつらの仲間……もしくは雇われ人ということか。
「……復讐か」
「な!? な、なぜそれを!?」
「くっ、情報が筒抜けだったの!?」
「ど、どうするのですか!?」
え、今の一言ってそんなに驚かれるようなことだった?
経緯を考えたら、ある程度は誰だって行き着く答えだと思うんだけど?
とんでもないほどの名推理だったってこと!?
「あなたはどっちなの」
「ふん、答えるまでもないだろう?」
「ということはやはり」
殺し屋ということなんだろうけど、なんで数的有利がありながら攻撃を仕掛けてこないんだろう。
あ、もしかして会話を通して少しでも情報を探りつつ、油断させて隙を突こうとしているのか。
なるほどなるほど、それは常套手段だよね。
だけどそれだったらそこにできている、彼女たちを中心に広がっている穴はなんでなんだろう、わからん。
「俺も暇ではない。用件が済んだのなら――」
「待って!」
こちらも探りを入れようとしているんだけど、どうにもさっきから中央の少女しかあんまり喋らないな。
「世迷言だな」
「そうよね……散々無礼と働いたわね、ごめんなさい」
謝意が欲しかったわけじゃないけど、少女はいきなりフードを下ろして顔を露にした。
オーマイガー!
あらゆる世界で尊き存在として認識されている、長寿が代名詞ともなっている【エルフ】じゃないか!
人間の耳よりも少しだけ横長く――ぐらいしかないか。
あと、魔力操作が上手とか精霊と仲良しとか……実際にこの世界ではどうなのかわからないけど。
それにしても美人さんだな~。
黄金の髪色で、たぶんストレートロング。
全身が見えないからなんとも言えないけど、たぶんスタイルは抜群、他二人も。
ぜひともコートを着ていない姿を拝んでみたいものだ。
でも、彼女たちは刺客っぽいから、いろいろと残念だなぁーもったいない。
「やっぱり実力行使じゃないと埒が明かないって!」
「私も同意見です」
「ちょっと二人とも、余計な事を言わないで」
「ふふ、ふははははは! 俺の実力が目の当たりにしたい、だと?」
「い、いえ違うの! 無礼に無礼を重ねてしまい、本当にごめんなさい!」
「いいだろう、では力の一片を披露するとしよう」
「え! ちょっと待って!」
何かを伝えようとしているのはなんとなくわかる。
でも、いい機会だからちょっと試したいことをやってみようと思う。
「安心するがいい、手加減はする」
「2人とも逃げて!」
「もう全てが遅い――聖領域展開」
「きゃあ!!!!」
おお、成功だ。
自分の力をブワーッと広げる感じにして、その中に回復するような効果を加えてみた。
要するに範囲内を回復し続ける結界なんだけど、まさかボカッと空いていた穴まで塞がってしまうとは。
どうやら、肉体的な回復だけではなく地形や建物も回復できてしまえるらしい。
ここまできたら、もはや回復というより再生させていると言った方がいいのかな? だって、回復しようと思って展開したのにこうなったわけだから。
まあ、ちょっと驚かせようとしただけなんだけど……三人とも尻もちをついちゃってフードも取れちゃってる。
向かって右の子は、髪の毛が真っ赤で目も赤い。
なんていうんだっけ、クリムゾンレッド的な感じ?
向かって左の子は、髪の毛が真っ白で目も白い。
なんだっけ、なんかこう、光合成がどうのメラニン色素がどうのっていう……アルビノ、的な感じのやつなのかな?
「こ、これは……」
「なんて凄まじい力なの」
「これ、もう助からないってことですよね……」
「いや――」
「ま、まさか!?」
え? 何そのリアクション。
俺は「いや、別に命まで取るつもりはない」って言おうとしただけなんだけど。
「2人とも私たちは今、試されているのよ。ここで誠意を見せなければ、私たちはここで終わりよ」
凄い見幕で二人に目線を配った真ん中の少女は、まさかの土下座をし始めた。
「大地を治め、空までも治める絶対なる王よ、どうか私たちに服従の権利をお与えください」
「え」
「ただ付き従うだけではなく、王の手足となり、必ずや満足のいく結果を出してみせます」
ど・う・し・て・そ・う・な・る。
「俺は別に――」
「も、もちろんっ! もちろん、いつ如何なるときでも馳せ参じ、この命が尽きるまで付き従います。一度の経験すらなく……まだまだ経験不足は否めませんが、よ、夜のお供も……」
「俺はそんなことを望んではいない」
「!? ですが、私たちにできるこれ以上は……」
なんだかどうしてこんな感じで話が発展していっているのかわからないけど、俺はそんな下僕とか奴隷が欲しいとか思ってはいない。
対等な仲間ができたら嬉しかったのに……でも、このままじゃ埒が明かないし、仲間が欲しいのは事実だしなぁ。
「――よかろう」
「ありがとうございます! では早速!」
「え」
「ボクにも!」
「わたしにもぜひお恵みを」
俺は思わずスッと目線を逸らした。
だって、急に美人三人が見えちゃいけないギリギリのラインで胸元をガバッと開け始めたんだよ? ワケガワカラナイヨ。
も、もしかして、こんなタイミングでハニートラップというやつを仕掛けられているのか!?
「契約の儀を」
「なんだそれは」
「な! ま、まさか契約なんて比にもならない、もっと上の何かが存在しているのですか!?」
「そんなことは知らん」
「想像を遥かに超えている、なんと素晴らしい」
いや、そんなの単純に知らないし、記憶を探っても出てこない。
まあでも、元々の世界での知識を活かすのなら、契約とはいろいろあるだろうけど奴隷契約の契約魔法みたいなやつなら心当たりがある。
でもあれって、相手の自由を奪うようなものだからあんまり好きじゃなかったんだよね。
大体は、関係を構築していっていい話になるんだけど。
うーん……なら、魔法を作っちゃう?
なんかこう、どうにかこうにかして、俺の力を少し分け与える的な感じで、命令の強制力とか発揮しないような感じで。
「よかろう」
魔力を糸状にして、この綺麗な肌に跡が残ったりしない感じで複雑そうな魔法陣的を描いて――よし、これでいいかな。
「う、ぐっ。うわっ!」
「どうかしたか」
「い、いえっ。くっ、きゃぁ!」
「え」
エルフ少女は、苦しんでいるような悶えているような声を上げて、跪いていたのに背中から倒れてしまった。
俺、もしかして攻撃魔法的なやつを作っちゃったのかな? それとも、俺の魔力が猛毒だったり? も、もしかして、いやらしい魔法を開発してしまったとか!?
「す、凄すぎる。あまりにも、常軌を逸している。ふ、二人も早く慈悲を承りなさい」
「つ、次はボクで!」
「ああ」
エルフ少女が大丈夫って合図を出しちゃったから、残りの二人もノリノリになっちゃったじゃん。
「いや」
「え!? ボクにもお願い!」
「わ、わたしも!?」
「ああ」
どうせなら二人一緒にやっちゃった方が効率いいからね。
「なんて凄まじい力なの。あれほど高度な魔力操作を二人まとめてなんて」
「何を驚く。俺にとっては造作もないことだ」
「な!?」
「終わったぞ」
「あ、ありがとう!」
「ありがとうございます」
白髪のボクっ子とですます口調の子も苦しんでいるのか悶え始めてしまった。
……なんだか、かなりイケないことをしている気分になってしまう。
だ、大丈夫だよね、俺の顔、真っ赤になってたりしないよね? 鼻の下とか伸びたりしていないよね?
そうだよ、彼女たちは苦しんでいるんだ、破廉恥な妄想をしてはいけない。
「もしよろしければ、王の名をお聞かせ願えないでしょうか」
「名前……」
そういえばそうだよね。
表名義は【アッシュ】でいいとして、裏名義は……【ユシア】なんてどうだろう。
アッシュを反対にしただけんだけど、いい感じなんだと思うんだよね。
「【ユシア】」
「ユシア…‥ユシア……わかりました。これからはユシア様と――」
「自由で構わない」
やっぱり仲間だからね。
上下関係が明確にありすぎると、ギスギスしちゃうだろうし。
「それで……ぜひ、私たちにもユシアの理想を訊かせてはもらえないかしら」
「理想――」
理想はある。
どれだけ力を手に入れようと、転生する前も今も『誰かを護れる強さを手に入れる』というのは変わらない。
それに、この体の元の宿主だったアッシュも同じ理想を抱えて生きていた。
でもここは、ちょっーとカッコよく言ったっていいよね。
「――世界の守護者」
「素晴らしい、素晴らしいはユシア!」
「ボス、凄すぎる!」
「主様の理想の一助になりたいです!」
「よろしく頼む」
なんだか呼び方がバラバラだし、ツッコミを入れたいところはあるけれど、俺が自由にしていいと伝えた手前どうにも訂正しにくい。
でもまあいいっか。
俺の理想を突き詰めた先である【世界の守護者】という立ち位置。
かーなーり盛っているけど、目標は高ければ高いほどいいってどこかの誰かが言っていた気がするし、いいよね。