運命的な出会いを果たした元兄妹は、今回もまた些細な事で運命的な出会いを果たす。
「やっぱり居た」
「今日は僕がみつかっちゃったみたいだね」
つい昨日、先に声をかけたのはアルクスだった。
しかし、今回は先に声をかけたのは明るい表情と声色のルイヴィスだった。
「なんでかわからないんだけど、今日も会えると思ったの」
「奇遇だね。僕もこれといった理由はないのに、ルイヴィスと会えると思ってたんだ」
「何それ凄いねっ」
「ルイヴィスと一緒に居ると、楽しいし自然と表情も明るくなっていくんだよね」
「きゃーっ、嬉しいー!」
アルクスの無邪気に放った嬉しい言葉を浴びたルイヴィスは、頬を手で包んで左右に顔を振っている。理由は簡単、ただの照れ隠しである。
「それで、実は今日も探し物をしているんだけど」
「私が手伝えそうなもの?」
「どうだろ。今回は一緒に暮らし始めた人に合うような剣を探す事になってるんだよね」
「剣かぁ~……ご覧の通り、武器に関しては全然わからないかな」
「まあ大丈夫。こればっかりは僕もそこまで詳しくないけど、お店の人に相談したら大丈夫だと思うから」
お互いに満面の笑みで話を終え、歩き出す。
「でもせっかくなら、用事は最後にした方がいいよね?」
「だね。前回の事を考えるとその方が良さそう」
「じゃあ、アルクスもあまり立ち寄らないお店に行かない?」
「おーそれいいね。僕はこの街に通い続けて長いけど、ほとんど立ち寄った事のない場所が多いからちょうどいいかも」
「それなら、アルクス任せにしちゃおうかな」
「いいよ」
そしてまずは一件目の野菜店へ足を踏み入れた。
「はぁ……俺達、これからどうなっちまうんだろうなぁ……」
「金に釣られて依頼を受けちまったんだから、今更あーだのこーだの言っても仕方がねえだろ」
潜伏を命じられている男達は、肩を落しながら何度も何度もため息を零しながらパイス村を歩いている。
「それにしてもよぉ、いつになったら俺達の依頼主は顔を見せてくれるんだろうな」
「この際それはもうどうだっていいだろ。余計な詮索をしたら消されるかもしれないぞ」
「はぁ……ため息しか出ないよな。ここで暮らせって話だけど、どれだけの期間を過ごさないといけないんだって話」
どうやっても明るい未来が待っていない事を不安視している二人であるが、だからといって時すでに遅すぎる現状に絶望するしかない。
「幸いにも、この村は食べ物がおいしいからな。お金はたんまりと貰ってるからたらふく堪能するしかない」
「楽しみがあるだけ恵まれてるって事だな」
「そういう事だ。てなわけで、さっそくターガーでも食べに行こうぜ」
「だな」
活気溢れる声でにぎわう村を歩いている最中、男達は咄嗟に足を止めて視線が奪われた。
「なあ、あれって……」
「き、きれいだ……」
男達が目線を奪われていたのは、ルイヴィスとアルクスだ。
アルクスについてはそこまで気になることはなかったが、ルイヴィスの方に男達は興味が沸いてしまっていた。
ルイヴィスからしたら、自分の地位に詳しい人間が現れてしまったという事は警戒をしなければならない。
だが、男達は至って単純な動機だった。
「あの子、ここら辺に住んでる子なのかな……」
そう、ただ容姿に見惚れてしまっているだけだ。
アルクスとルイビスを尾行し始めた二人は、ほぼ一定の距離を空けたままである。
店に入った時は、出てくるのを別の飲食店などで次男を潰し、楽しそうに話をしている時は物陰に隠れて休憩しているようにして周りから不審者と思わせないように立ち回った。
「それにしても、可愛いっていう言葉だけで済ませるにはもったいない子だよな」
「わかる。でもなんだかなぁ、なんだか頭の端っこで引っ掛かるものがあるんだよ」
「なんだよ、あんなかわいい子とどこかで会ったとか言い始めるなよ?」
「それだけはないだろ。俺達はずっと一緒に行動しているんだから、そんな抜け駆けみたいな事ができる……わけ……」
「どうしたんだよ」
言葉を詰まらせる相方に声をかけるも、返ってきた言葉はあまりにも予想外な言葉であった。
「人生で一回もお目にかかった事はないが、帝国の第二皇女って銀髪じゃなかったか……?」
「んあ? そうだったか? 俺も観た事はねえし、噂の一つも聴いた事はねえが。てかよ、普通に考えたらそんなお姫様がこんな辺境の地に居るわけがねえだろ」
「もしかしたらお忍びで来ているとかってあるんじゃねえのか? 辺境の地だったら、気兼ねなく過ごせるとか」
「説得力のある事を言ってくれるじゃねえか。だがな、平和でしかない時にその可能性はあるかもしれねえが――今は、第一皇女が姿をくらましているんだぜ? 呑気に観光なんでしているわけがねえだろ」
「それもそうだよな。しかも、護衛もつけずに捜索しているはずもないし、そもそもこんなところまで来られるわけがねえもんな」
「そうだそうだ。闇雲に捜索していたとしても、ここに辿り着くのは運が良すぎだろ」
「だな。こんなに早く辿り着けるはずがねえ。首都から尾行されてなけりゃあ、絶対に無理だな」
男達は『ガハハッ』と腹から笑い、アルクスとルイヴィスが店から出てきたのを確認してストーカー行為を続けるのであった。