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第4話

 あれから何度かの季節が巡った。


 俺は法律に定められた通り、Ωの性転換を国に報告した。それと同時に俺の経営していた小さな会社は久慈グループ傘下に入ったが、経営陣は全員残留して会社のために働いてくれている。


 俺ももちろん会社に残った。しかし、今は産休中だ。




「圭司さん、ちゃんと家にいますか?」


「いるよ。」


「体調はどうですか?」


「いいよ。」




 1時間おきにかかってくる充からの電話におざなりに返事をしつつ、俺は自分の腹を撫でた。




 ――そこには俺と充の間の子どもが宿っている。




 いろいろとあったが、俺たちは間違いなく運命で結ばれていたらしい。発情期らしいものがなく、子どもは無理だと思われた俺が、なんと妊娠したのだ。これが運命でなければ、なんだというのか。




「毛布は掛けてますか?」


 俺は充の広すぎる屋敷の、広すぎるベッドに横になって、電話の向こうから聞こえる言葉に苦笑した。


 充の屋敷にはΩ専門の医者も常駐しており、呼べばいつでも駆けつけてくれる。心配する必要などないというほどの環境を与えてくれたというのに、それでもまだ充は心配らしかった。




 突発性Ω化症候群が現れるのは、100万人中1人だと言われている。この症状のあったΩは皆一様に子宮が十分に発達せず、流産の可能性が高かった。まして俺は現在46歳という超高齢出産だ。俺のように壮年期になってから突発性Ω化症候群になった例自体が少なく、俺が無事に出産できるかどうかは未知数だった。


 そのため、充をはじめとして周りの人間は俺以上に気を揉んでいるようだった。






 俺はそんな周りの人間たちの熱量に押し負ける形で、妊娠3か月という早すぎる時期に産休に入った。


「社長、あとは我々に任せてくださいよ。」


「そうですよ。そんなに我々が信用できないんですか?」


 全面的に俺の味方だと思っていた部下たちはいつのまにか充の味方になっていた。俺は在宅という形での仕事も認められず、暇を持て余しつつも、妊娠7か月を迎えていた。




 暇な俺の最近の趣味は、充をからかうことだ。俺は電話の向こうの充に呼びかけた。


「なぁ、充。」


「なんですか?」


「大好きだ。」




 俺の突然の告白に充は面食らったように黙り込んだ。


「~~~!!! 待っててください! 今日は早く帰ります!」


 そして彼はそう言ってあわただしく電話を切る。


 いつまでたってもかわいい充に俺は満足した。















 そうして3か月後には俺たちにかわいい赤ん坊が生まれた。赤ん坊は充によく似た切れ長の目をしていた。




 俺は赤ん坊をベビーベッドに寝かして、その寝顔を見つめた。


「幸せだ……。」


 俺のつぶやきを聞いて、おなじくベビーベッドを覗き込んでいた充が、顔を上げて俺の顎を掬い取った。


「一生、幸せにします。」




 出会ったとき、充はまだ18歳だった。彼もいまは21歳になって、大人としての色香がついてきた気がする。充の艶っぽくなった瞳に、吸い込まれそうになる。




 それを認めたくなくて、俺は年長者としての意地を見せた。




「俺が幸せにしてやるよ、充ちゃん?」


 俺が言うと、充は唇を尖らせた。


 すねた充を宥めるために、俺はその唇に自身の唇を重ねた。





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