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1. 序曲(オーバーチュア) ~マルセナside~

1. 序曲(オーバーチュア) ~マルセナside~





 眩しい光が私の顔に差した。そして、目を開けるとそこには、いつもと違う光景が目に映る。私は今、森の中の洞穴にいる。生まれて初めて野宿というものをしたけど、意外に悪くはなかった。外に出てみると皮肉なもので今の私の状況とは違い、誰もを祝福するような澄みわたる青空が広がった晴れ。その空を見て、ふと私はアリーゼと初めて出会った日の事を思う。


 もしかしたらアリーゼにまた助けてほしいと心の奥では思っているのかもしれない。





 ~1年前~

 カトリーナ教会。セントリン王国を代表する古い教会。今日私は新しい聖女として赴任することになっている。私は今15歳になったばかり。この年齢の聖女は史上最年少らしいけど。


 今までの慣例から言うと16歳になってから就任するのが通例だそうだけど、私が14歳の時に「聖痕」が発現し、そこからは聖女になるため努力を重ねた。あの大聖女ディアナ様のようになるために。


 まぁ……貴族令嬢である立場がありながら聖女になると言った私を、両親は最後まで反対していたけど……


 でも、聖女になりたいのだから仕方ない。はつけないからね。そんなことを考えていると窓の外には、風情ある町並みの中に一際目立つ真っ白い建物が目に入る。私は馬車の窓から顔を出してその荘厳な雰囲気に圧倒される。


「見えてきたわ。あれがカトリーナ教会ね」


 馬車が入り口正面に着く。馬車から私が降りると1人の女性が慌てて迎えにきてくれた。この方は?このカトリーナ教会の聖女アリーゼ様かしら?とりあえず挨拶をしましょうか。


「ごきげんよう。マルセナ=アステリアですわ。これからよろしくお願いしますわ」


 私が挨拶をするとその女性は私を凄い見てくる……私何かおかしいかしら?それとも……もしかしてこれが本の物語とかに書いてある先輩の洗礼ってものなのかしら?そしてその女性は私と目があうとやっと挨拶を返してくれた。


「こんにちは。アリーゼ=ホーリーロックなのです」


 この方が聖女アリーゼ様か。噂には聞いていたけれど本当に綺麗な方。そしてお互い握手をする。こうして私達二人の聖女としての生活が始まったわ。


 それから数日。アリーゼの仕事を見ていた私は彼女の仕事ぶりを見ていて気づいたことがある。それは彼女は私の知らない知識あるということ。たまによく分からないこともあるけど、同じ仕事をしていても彼女のほうが多くの量、早い時間でこなしている。これは見習わないと。私は一度出来なかったことは次には完璧にこなせるように努力していた。


(この人みたいなスマートな聖女にならないと。負けられないわね。)



 そんなある日のこと。



 朝起きて身支度を整えた後、朝食を食べようと食堂に行く途中、私はアリーゼを見つけたので朝の挨拶を交わす。


「おはようございますアリーゼ」


「おはようございますなのです。今日もいい天気なのです。ところで今日は何時からお祈りがあるのでしたっけ?」


「はい。今日は8時30分から礼拝がありますわ。それまでには礼拝堂に行かないとなりませんわね」


「そうなのですか!?︎急がないと大変なことになるのです!」


 大変?どういうことかしら……まだお祈りの時間までは全然余裕がある。まさか、アリーゼは隠れて何か聖女としての能力を高めているのかしら。私はアリーゼに聞いてみる。


「えっ?まだ6時……全然時間があると思いますけど?」


「お掃除をしないといけないのですから!あとお花の水やりもあるのです。それから薪割りもしておかないとなのですね……水汲みと畑で野菜の収穫もあるのです!」


 その言葉を聞いて私は唖然とした。どういうこと?この人は何を言っているの?


「えっと……アリーゼ……それは……聖女の仕事なんですの?」


「違うのです。私の日課なのです。それでは礼拝堂で!」


 そういうとアリーゼは駆け出して行った。アリーゼが言ったことは聖女の仕事ではないと思うのだけど……


 聖女とは神に仕えるものであって雑用係ではないはずだ。今の私にはアリーゼの行動が理解出来ない……こんなことをしている暇があったら少しでも多く仕事をしないとならないというのに……


 そして時間ギリギリになってアリーゼはやってきて私と共にお祈りを捧げる。実は私はいつもある事をしている。それはお祈りの時間を使ってアリーゼの事を考えている。


(アリーゼは毎日聖女の仕事以外にもこんなに色々なことを……私は聖女の仕事だけでいっぱいいっぱいなのに。この人凄いわ。)


 お祈りが終わるとアリーゼと一緒にお昼を食べる。野菜がたっぷりのサンドイッチか。一口食べる。うん美味しいわ!するとアリーゼが嬉しそうに私に話してくる。


「マルセナ。その野菜は朝収穫したものなのです!絶対美味しいのですよ!」


「はい。とても新鮮ですわね。それにこのソースが絶品ですわ!」


「それはマーシャさん特製のトマトケチャップなのです!凄いのですよ!」


「まぁ。この赤いスープのような物がですか?少し味見してもよろしいかしら?」


 アリーゼはコクりと首を縦に振る。スプーンを使い一口食べる。美味しい!こんなもの今まで食べたことないわ!私は気づけばそれを一気に食べてしまっていた。


 昼食後はまたお祈りの時間がくる。礼拝堂の祭壇の用意は聖女の仕事。アリーゼと二人でやるのが恒例になっている。そして準備が終わった後はアリーゼと共に祈りを捧げた。


 そしてその後、私は勉強の為に図書室へ行く。アリーゼはいつも通り、読書をすると思う。アリーゼは聖女の仕事以外にもこんなに色々なことをやっていて尊敬するわ。


 私はアリーゼには聖女としての務めだけは負けたくないとそう思い始めたの。

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