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1. 追憶

1. 追憶




 魔法船の甲板。心地よい日差しが降り注ぐ中、1人の魔女がいた。腰まで長く伸びる水色の髪。そして少し大きめのスカート型の黒を基調とした、星形のマークが散りばめられたローブ。その見た目は10代半ばの幼き少女。


 その魔女はぼんやりと海を眺めていた。陽射しも温かく風も優しいので、このまま目を閉じれば、すぐにでも睡魔に襲われてしまうような絶好の昼寝日和だ。


 魔女の名前はロゼッタ=ロズウェル。かつては『竜殺しの魔女』『極悪非道の魔女』として世間からは恐れられていた。そして『世界大戦』と呼ばれる厄災を大聖女ディアナと共に止めた立役者でもある。ただ後世にはそのように伝わっていないのだが……。


「ふむ。あれからかなりの年月がたったのう……ギル坊のやつももう天寿か……長いようで短い時間じゃった」


 そして目を瞑り、彼女は思い出していた。あの日のことを。


《最後に1つ……言っておきます》


《なによ?》


《あなたの未来に……女神様のご加護があらんことを……》


《……やめてよ。そんなこと言われたら、これから先、ふとした時にあんたのこと思い出すでしょうに》


《柄にもないことを言ってしまいましたね。では……私はあなたが嫌いです。だから私があなたのことを忘れるまでは絶対に来ないでくださいね?》


《あんたと同じところなんてお断りよ。なんでまたあんたと一緒にならないといけないのよ》


《あら……残念です。……もう時間ですね……楽しかったですよ気まぐれの魔女さん?》


《ええ。……またね無表情聖女様?》









「……ディアナ。ワシは元気でやっとるぞ」











 時は遡り、『世界大戦』が始まる前のこと。彼女は各地の魔力を集める魔女の巡礼の旅を続けていた。そう……あの時までは……。


 ~過去~

 世界の中央の大陸『アネモス』の西端に位置する、魔導国家リーベル・アイル。私は拠点となる宿屋に宿泊していた。私の名前はロゼッタ=ロズウェル。大魔女になるために今は修行中。


 もう太陽がてっぺんにある。私は遅く起きてから、ブランチを優雅に楽しみながら新聞を読んでいる。これが最近の日課だ。そして読み進めていくと、心から気に入らないと思っている人物の名前に目が止まる。


「ふーん。『聖女ディアナ。レルドムント帝国の戦乱を止める』……ご立派なこと。聖エルンストの聖女様は違うわね。まぁ魔女の私には関係ないけど」


 聖女ディアナ。こいつとは過去にソルファス王国で一悶着あった。たいした理由じゃないんだけど、単純にその広場に売っている最後のクレープを横取りしたのよ!私が楽しみにしていたクレープをね!しかも変な防御魔法の使い手で、あとから聖エルンストの聖女だと知った。まぁ私の魔法を防ぐ以上そこそこの実力者だとは認めているけどね。


 魔女の修練。私は各地を周り魔力を集め、糧としていく。その旅ももう5年ほどになる。さっきのディアナ以外には私は負けたことがない。というよりディアナにも負けてはいないけどね。次にあったら私の爆炎魔法で黒焦げにしてやるわよ!


「今日も天気がいいわ。そろそろ魔導国家リーベル・アイルに来て3ヶ月か……そろそろ次の街に行こうかしらね。とりあえず資金確保の為に今日もギルドにでも行きましょうか」


 新聞を畳み、カバンに入れ、宿屋を出る。宿屋は街の端にあり、大きな木がある公園の横の道を通り抜けていく。この道をまっすぐ行くと大通りに出るのだ。


 大通りに出たら左へ曲がり、しばらく歩くと大きな建物がたくさんある通りに着く。この街で一番大きい建物だ。その建物は冒険者ギルドと呼ばれる場所だ。私はギルドに入り、依頼書の貼ってある掲示板に向かう。


「えっと、薬草採取の依頼はあるかしら?」


 受付嬢に話しかける。


「はい!ありますよ。こちらです!」


「ありがとう。それで薬草はどこで取れるのかしら?」


「ここから南に1キロほど行ったところに森がありまして、そこに生えています。今日は魔物討伐じゃないんですね?」


「まぁね。じゃあ早速行ってくるわね」


「はい!気をつけてくださいね!」


 まぁ、今日はあまり気がのらないし、たまにはこのくらいの依頼でいいでしょう。そんなことを思いながら歩いていく。すると森が見えてきた。


「強そうな魔力も感じないし、楽勝でしょう。さて、ぱぱっと終わらせますか」


 そう言って森の中に入っていった。森の中を歩きながら考えていた。


(それにしても薬草採取なんて久しぶりね。いつもなら魔力の多い魔物を倒すんだけど……今回はやる気が出ないからね)


 そう、魔女は気まぐれだからさ。そんなことを考えていると前方にゴブリンを発見した。数は3体。


「ちょうど良いわ。試したい魔法があったのよね。ゴブリン相手に使ってみるわ」


 私は右手を前に出し魔法を詠唱し始める。


「火炎魔法・フレイムブリンガー!」


 そして、手のひらの前に現れた赤い魔方陣から生成された、炎の剣は真っ直ぐ飛んでいき、ゴブリンに当たった瞬間大爆発を起こした。


 ドォーン!!!!! 辺り一面煙に包まれる。しばらくして煙が晴れるとそこには黒焦げになったゴブリンの死体が残っていた。


「うーん、やっぱり威力の調整が難しいわね。これだと普通の人間相手だったらオーバーキルね。もっと上手くコントロールできるようにならないと……」


 その後、私は何事もなかったかのように森の奥へと進んでいく。それから2時間後、私は大量の薬草を採取して帰路につくことにした。ちょっと摘みすぎたかも……カバンがパンパンだわ。


「これだけあれば当分の間は困らないはず。とりあえず今日のところはこれぐらいにしておきましょうかね」


 そう言いつつ街に向かって街道を歩いていると前方から声が聞こえてくる。


「あっ誰か。助けてくださいっ!!」


 どうやら誰かが助けを求めているようだ。声の方向を見ると1人の少年が数人の男に囲まれていた。


「おい、金目のもん置いていけよ」


「そ、それはできません。魔法都市に行くためのお金なんです。どうか見逃してくれませんか……?」


「ダメだな。じゃあその高そうな紋章が刻まれた腕輪を置いていくんだな。」


「これはダメなんです。『賢者の証』で……」


「うるせぇ!早くしろ!」


「痛いっ!誰か……」


 私は状況を理解した。そのまま駆け出す。そして目の前にいた男を吹き飛ばす。


「弱い者いじめしてんじゃないわよ!」


「なんだお前は!?邪魔すんじゃねぇぞ!」


「おい。良くみたら可愛い顔してんじゃねぇか。まぁ身体は……特段あれだが?」


「はぁ!?このナイスバディの私になんてこと言ってんのよ!殺すわよあんたら!」


 こう言う失礼な奴には、爆炎魔法をお見舞いしたいけど、問題になったら面倒だし……というか、コントロールできなそうで殺しそうで怖い。つまらないことで人生を棒に振りたくはないわよね。


「威勢だけはいいな。やってみやがれ!」


 1人が殴りかかってくる。それを軽くかわし、みぞおちに杖を思い切り振り抜き一撃を与える。その衝撃で男は悶絶している。そしてそれを見ていた残りの男たちはその男を連れて逃げていった。ふん。弱いやつ程良く吠えるわね。


「大丈夫?怪我はない?」


「は、はい。助かりました。ありがとうございます。」


 手を差し出し起こそうとすると、さっきの男たちが言っていた、紋章印が入った腕輪が見える。この紋章は……賢者の証?


「あなた名前はなんていうのかしら。それとどうしてあんな奴らに絡まれてたの?」


「ぼ、ボクはギルフォードといいます。実はですね……ボクは賢者の血筋で……」


「ふーん。それってあの伝説の魔法使いの血筋ってことかしら?」


「そうです!それでボクは北にある魔法都市に行きたいのですが、その資金集めのために薬草採取の依頼を受けたんですよ。そうしたら絡まれてしまって……資金も貯まらないし、こんなんじゃいつまでたってもたどり着けない……」


 魔法都市か……まだ都市として認められていない集落みたいな場所、確か北にあるんだったわよね?魔法都市なら色々な魔法士もいそうだし、魔力の活性化が進んでいるかも。そうなると魔力が早く集まるかもしれないわね。


 というかなんかこの子放っておけないしね……私はそのままギルフォードに伝えることにする。


「なるほどね。事情は分かったわ。それなら私も魔法都市に一緒に行ってあげる」


「えっ!本当ですか!でも……ご迷惑では?」


「気にしないで。私もそろそろ違うところに拠点を動かそうとしていたところだし。それにあなたを助けたのはただの気まぐれだけど、何かの縁かもしれないから。私はロゼッタ=ロズウェル。魔女よ」


「魔女様!?初めてお会いしました……凄く美人な方なんですね!もっとお婆ちゃんをイメージしてました」


 この子……まぁいいわ。魔女のイメージってそういうものだから仕方がないけど。


「とにかく!私はあなたのお供をしてあげる。感謝しなさいギル坊!」


「ギル坊?」


「ギルフォードの坊やなんだから、ギル坊でしょ?あと、この薬草が入ったカバン持ってくれない?見て分からないかしら、気が利かないわね?そんなんじゃ男としてダメよ?まったく!」


「すいません……その……あ、ありがとうございます!よろしくお願いしますロゼッタ様!」


 こうして私は、この少年ギルフォードことギル坊と共に魔法都市に向かって旅をすることになった。さぁこれからどんな冒険が待っているのかしらね?

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