26. アリーゼ ~フィオナ視点~
ボクはフィオナ=マクスウェル。ボクの家は代々有能な魔法士の家系なの。自慢じゃないけど生まれた時から結構な魔力があって将来は王家に仕えるんじゃないか?ってよく言われてたんだ。でもボクは魔力はあったけど、魔法を使うのが苦手だったの。だから……認めてもらいたくて悪いことをしちゃった。
海賊に協力しちゃったのは、今でも反省している。アリーゼ様に旅についていく。そして自分の存在を認めてもらう!、そう自分の意志で決めたんだ。最近は魔法剣で魔物討伐できるようになってきたし、凄く楽しい。筋肉がついて体重が増えたのは悩みなんだけど……女の子だしね。
「うん。やっぱり素晴らしいなミルディさんは」
ボクは今日は魔物討伐を休んでアリーゼ様と共にマジカリア城の来賓の間にいるの。ボクはミルディさんが作ってくれたミスリルの剣の手入れをしている。アリーゼ様はというと、いつものように本を読んでいるみたい。アリーゼ様は大体毎日違う本を買ってきては読んでいる。あんなに「文字」を読めるのは本当に尊敬しちゃうよ。
ボクにとっては難しい本がいっぱいある。何だか読めない単語があっても字の意味を考えると自然と頭に入ってくるってアリーゼ様に前に教えてもらったけど……やっぱり読書は苦手。アリーゼ様は独自の解読法なんかを書き記して読んでいるけど……それはもう学者じゃないの?と思う時もある。アリーゼ様は少し変わった尊敬できるお姉さんみたいな人。
「フィオナ?」
そんなことを考えていると突然声をかけられて思わず身体がビクッとする。考え事に没頭し過ぎて全然気が付かなかったよ……
「何か用なのです?ずっと私の事見ているのです?」
「えっとアリーゼ様って本当に本が好きなんだなぁって思って」
「はいなのです!本の知識は優秀なのです!」
そういうと少し胸を張るような感じになってちょっとだけ幼く見えて可愛かったりもするんだよね……確かにアリーゼ様の……「世界書庫」?だったっけ。それには何度も救われているのは間違いないしね。一度読んだ本の内容を記憶しているって凄い特技だよね。
それから二人で雑談しながら過ごす時間は本当に幸せなひとときなの。こういう時間が何よりも大切なんだと思う。ボクはアリーゼ様の事何も知らないから。だから少しだけ歩み寄りたい。アリーゼ様が好きな読書……ちょっと興味はあるよね。ボクは思い切ってアリーゼ様に本を借りようとする。
「アリーゼ様。その……ボクも本読んでみようかな……?」
ボクのその言葉を聞くとアリーゼ様は目を輝かせてボクに言ってくるの。
「そうなのです!?本はいいのですよ!なら私が選んであげるのです!何がいいですかね……フィオナは剣士なので『侍の心得』とか、甘いものが好きだから『世界のまだ見ぬスイーツ100選』とか、あとは恋をしたいと言ってたので『意中の人を奪うのよ!』とかも良さそうなのです!」
嬉しそうにはしゃぎながら、饒舌に本の物色を始めてボクに色々な本を薦める姿を見て思わず笑ってしまう。うん。やっぱり可愛い。というか最後の本は倫理的にダメなような気がするけどね。
「フィオナはどんな物語に興味があるのです?」
「そうだなぁ。ハッピーエンドで終わる恋物語みたいなのが読みたい……かな?」
「ふふっフィオナも女の子なのです。待っててくださいね、これなんかいいかもです。表紙も可愛くて絵も多いので読みやすいのです。『王子様のキスで目覚める眠り姫』これはお薦めなのです!この物語はですね……」
「ああ!アリーゼ様!ボク読むから!」
アリーゼ様は興奮して本の内容をボクにネタバレしそうになる。だから慌てて止めたんだけど……顔赤くなってるかもしれない。それを見たアリーゼ様はとても幸せそうにしてまた別の本を持ってきた。本当に本が好きなんだなぁ。
「じゃあこれなんてどうです?冒険譚ものだけど最後はみんな幸せになる話なのです!」
結局この日は日が暮れるまでアリーゼ様と色々な話をした。とても楽しくて充実した一日になった。
そして夜。ボクはアリーゼ様に借りた本を読むことにする。内容は悪い魔王を物語の国のお姫様と王子様が倒すというもの。よくありがちな内容だけど、読んでみるとその世界観に惹きこまれて、ボクはドキドキしながらもそれを最後まで読んだ。結構あっという間だった。ボクは本を閉じ、あとがきを見る。そこにはこう書かれていた。
―――――この本は実話を元にして書いています。どうかこの本を読んだ方々にも素敵な出逢いが訪れますように――――――
「実話……へぇ。そんなことがあるんだ。」
と思いながらも少しだけ嬉しい気持ちもあったりするわけで……でもこんな恥ずかしいことは誰にも言えないけれどね。アリーゼ様から凄いいい本を借りれたかもしれない。このまま本を読み続けたら段々ボクも本が好きになっちゃうかもね。なんとなくアリーゼ様が本が好きな理由がわかったかもしれない。
そして、ボクはもう一度物語のページをめくってみる。今度はゆっくりと読むために。