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3. 自信を持って ~ミルディ視点~

3. 自信を持って ~ミルディ視点~





 ロゼッタ様とアリーゼに叱られてその場で俯いているフィオナ。アリーゼはたぶんあたしにフィオナの事を任せていったのだと思う。魔物と戦えない境遇のあたしならフィオナの気持ちがわかると。


 そりゃわかるに決まっている。少し前のあたしも同じ気持ちだったし、もしかしたら今も何も変わっていないのかもしれない。


「フィオナ。とりあえず座ろう」


「うぅ……」


 フィオナは溢れでて流している涙を何度も袖でぬぐっている。それはアリーゼやロゼッタ様に叱られたこともあるだろうけど、一番は自分が何も出来なくて辛いのだと思う。あたしはフィオナが落ち着くまで待つことにする。


 しばらく沈黙が続く。あたしはその空気に耐えきれず話し始める。


「あのさ。あたしはフィオナの気持ちわかるよ。あたしも戦えないしさ?」


 あたしの言葉を聞いたフィオナがバッと顔を上げてこちらを見る。


 その目には涙を浮かべている。あたしはそれを拭ってあげながら言葉を続ける。


 本当はあたしなんかと比べてもしょうがないし、これがフィオナのためになるかはわからないけど、こうなった以上言うしかない。それにこのままだとフィオナの心が壊れてしまう。だから言うことにした。


「だからさ。本当に心の底から自分の無力さを嘆いてるんだよね。それでも頑張っているのを褒めて欲しいんだよね?」


「……うん」


 それからしばらく沈黙が続きようやく落ち着いたみたいだ。今度はしっかりと向き合って話をすることにした。


 まずあたしは何故戦うことが出来ないのか話した。これは嘘偽りのない真実だ。戦いたくないわけじゃない。むしろ強くなりたいと思っている。でも怖いのだ。もし怪我をした時とか、そんなことを想像してしまうと足がすくんでしまう。


「でもさ……フィオナは違う。フィオナはあたしとは違って魔物と戦える能力がある。だから逃げているだけじゃダメだよ」


「でもボク……怖いの。どうしても魔物と戦える自信がない……」


 そう言ってまた泣き出す。その姿を見ていると胸が苦しくなる。何とかしてあげたい。でも今のあたしにはどうすることも出来ない。これはフィオナ自身がなんとかするしかないから。


 すると外から物音が聞こえる。ああアリーゼとロゼッタ様が帰ってきたのか。それなら……あたしは大きな声でフィオナに提案をする。


「それならさ!明日はあたしと一緒に魔物討伐しない?さっきの感じだとロゼッタ様はアリーゼと一緒に朝早くからギルドに行きそうだし!」


 あたしがわざと朝早くと言ったのは2人がいるとフィオナが行動し辛いから。そんな事で行かなくなるのは困るし。ロゼッタ様が起きれるか不安はあるけど……そこは信じるしかない


「え。ミルディさんとボクで!?」


「うん!大丈夫!あたしだって、戦えるように魔法アイテム持っていくし!絶対に大丈夫!一緒に行こう!」


「……わかった。行く。ミルディさんと一緒に行きます」


「よし!約束!」


 小指を出してフィオナに見せる。するとすぐに理解してくれたようで同じく小指を出してくれた。そしてお互いの小指を結び合う。これで今日のところは大丈夫かな?


 そして翌日になる。昨日あたしが聞こえるように言ったのでアリーゼとロゼッタ様の姿はもうなかった。2人ともありがとう。


 準備も出来たので早速出発をすることに。とりあえずギルドに行かないとね。そして受付嬢の所にいく。あたしたちは砂漠にいる魔物討伐を受けるために依頼を受けに来たと説明して依頼書を見せてもらうことにした。


【依頼内容】

 ・サンドスライムを5匹倒す。

 報酬:1体につき銀貨3枚

 ※討伐証明部位を提出すること。

 場所

 ・ラインストーン周辺 推奨


 サンドスライムか……これなら私でも倒せるかも?スライムって強そうな攻撃してこないよね?あたしがフィオナを見ると、凄い心配そうな顔をしている。あたしは笑顔を作って依頼を受けてから、フィオナの手を引いて外に出た。さあここからはあたしたちの時間だ。


 あたしたちは今、街を出てから少し歩いた所にある砂漠に来ていた。まれに砂嵐が起きるらしいから気を付けないとね。あたし達は辺りを見渡し目的のサンドスライムを探す。


「おお!いたいた。あれがそうみたいだね」


「本当だ。なんかプニプニしてる。だっ大丈夫かな……」


「とにかくやってみよう。フィオナ」


 あたしはフィオナの背中を押して、そのままサンドスライムと対峙する。フィオナも観念したのか剣を抜き構える。


「せやぁ!!」


 フィオナの一閃がサンドスライムを襲う。しかし当たる気配がない、それもそのはずフィオナは目を瞑っているから。あれじゃ当たるわけがない。


「うぅ。ごめんなさい」


「いや謝ることないけどさ。フィオナ、それじゃ当たらないよ?まずは相手を良く見る!とりあえず見てて!」


 あたしはサンドスライムに向かって走り出し、そのまま金槌で殴りつける。おお!?金槌がめり込んだんだけど!! あたしは殴った反動を利用して後ろに下がり、サンドスライムの様子を見る。


 するとサンドスライムはプルンと震えながら小さくなっていた。全く効いている様子がない……そう言えばスライム系の魔物には打撃は通用しないんだっけ?


 するとサンドスライムは膨らんで口から液を吐き出す。あたしは思い切りそれをあびる。


「うわぁ!」


「ミルディさん!」


「何これ……泥?しかも最悪ベトベトしてるし……」


 痛くはなかったがあたしのお気に入りの作業着や髪の毛がベトベトした泥にまみれた。もう!ベトベトして気分悪いんですけど! 


 さらにサンドスライムはその丸い体を震わせながら突進してくる。あたし達はそれを避ける。その後サンドスライムは周りに飛び散る砂を食べ始める。それはまるで掃除機みたいな感じに勢いよく。またあの泥を吐くつもりみたい……


「ねぇフィオナ。この魔物に弱点とかあるの?」


「えっと……確かスライム系の魔物には核があるはずだと思う。その部分を攻撃するといいって聞いたことがあるような気がします」


「そうなんだ……あの身体の中にある青いやつじゃない?それならそこを狙うしかなさそうだね。あたしが囮になるからフィオナお願いできる?」


「えぇ!危ないですよ!」


 フィオナはすごく心配した顔であたしに伝える。あたしだって正直怖い。でも気づいたんだ。なんでアリーゼやロゼッタ様が危険なのに私を庇いながら戦うのか。


 きっとあたしが傷つくところを見たくないんだ。あたしも今フィオナに傷ついて欲しくないと思っている。それは自分が傷つくよりも嫌なことだ。あたしはもう一度、少し震えているフィオナの手を握る。今度は優しく。


「大丈夫だよ。サンドスライムはあたしの金槌じゃ倒せないし、核までダメージを与えられそうにない。だからフィオナの剣で倒して。自信持って。あたしだって戦えてるんだから!」


「ミルディさん……ううん。囮なんていらない!ボクがサンドスライムを倒すから!」


 フィオナはあたしに言うとサンドスライムの目の前に立つ。そう……あたしを背にして魔物の前に立っている。その後ろ姿はどことなく自信があるようにも見える。


 頑張れフィオナ。あたしはその頼もしい小さな背中を応援するのだった。

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