16. 常闇の森の魔女
街を出た私たちはそのまま街道を歩いていく。しばらくするとここからさらに、森の方に行くみたいなので街道から外れていくことになるようです。
そのまま少し歩いていくと目の前に鬱蒼と木々が生い茂った大きな森にたどり着く。そして森の中に入っていくとだんだん暗くなっていくのです。でもちゃんと道があるので迷うことは無いというのが救いなのです。
しばらく歩くと開けた場所がありました。木々の間から太陽の光が差し込み、さっきまでの暗さが嘘みたいに明るくなっています。
目的のフルア草がこの辺りに生えていると助かるのですが……周りを見ると木の間にフルア草らしきものがチラホラ見えている気がするのです。本で見たことあるので間違いないのです!
「あったのですミルディ。早く採取して帰るのです……ん。ミルディ?」
「……家だ。あんなところに家がある」
ミルディが指を指す方向には確かに家と呼べるかはいささか不明ですが人が住んでいそうな小屋があったのです。
しかも煙突からは煙が出てるので誰かいるのですかね?近づいてみるとそこには1人の女の子がいた。歳は私やミルディより下に見えるけど、すごく可愛い子だった。髪の色は薄い水色で腰まで伸びており、サラサラである。顔立ちも整っており、将来美人になりそうな女の子なのです。
そんな子がどうしてここにいるのでしょう?その子はこちらを見て一瞬驚いている様子でしたが、すぐに何かを納得したように首をうんうんと縦に振り話しかけてきたのです。
「ほう。まさかワシの結界を抜けてくるとはのう。お主たち……聖女か?」
「ワシ?おばあちゃんなのです!?」
「いや。違うでしょアリーゼ。そういう喋り方なんでしょ?どう見てもあたしより若いし」
ワシって言う人に初めて会ったのです。それとも年寄りっぽい話し方をするのが若い子の間で流行っているのですか?私が混乱している間にも少女の口元はニヤリと笑みを浮かべていたのです。
「ほう……「聖痕」を失ったのか……通りでワシの結界を抜けて……」
「なぜそれを知ってるのです!?」
私がそう言うと、その少女は次の瞬間には先程の表情が嘘のように消え去り無邪気に笑う。そのギャップについていけず更に私は困惑してしまったのです。
「愉快愉快じゃ。ワシはこの常闇の森の魔女じゃ」
「魔女?この幼女が?冗談キツイんだけど……」
「誰が幼女じゃ!」
ミルディの言葉に怒った魔女(?)が杖を取り出してミルディに向かって振り下ろす。しかしミルディはそれをひょいと避ける。
「全く失礼な小娘じゃ。ワシはロゼッタ=ロズウェル。この名前を聞けば少しくらいはお主たちでもわかるじゃろ?」
「魔女ロゼッタ!?あの竜殺しの魔女の!?極悪非道の魔女の!?」
「本で読んだことあるのです!凄い悪い魔女なのです!怖いのです!」
「ほう……やはりまだまだワシも有名なもんじゃの」
ロゼッタ=ロズウェル。あの気高き竜でさえ凶悪な魔法で一捻りしたと言われている人物なのです……しかも目的のためなら手段を選ばない極悪非道の。教会でも語られている伝説の大聖女ディアナ様の天敵。それが私の目の前にいるなんて信じられないのです! まぁ魔女という存在自体が伝説みたいなものですからね。しかも目の前にいるのは明らかに幼い少女ですし……
「まぁ良い。せっかくだから少し仕事を頼みたいのじゃ。そこの赤い髪の。魔法鍛冶じゃろ?ワシの道具を直してほしい。もちろん金は払う。どうじゃ?」
「まぁ……あたしは仕事なら受けるよもちろん。いいよねアリーゼ?」
「もちろんなのです。ミルディの邪魔はしないのです」
「あとそこの聖女のお嬢ちゃんに話しもあるからの……まぁ中に入るのじゃ」
はっ!もしかして呪いをかけられてしまうのです!?それか毒!?私は恐る恐る家に入ります。すると中にはさっきまでの木々に囲まれた空間の殺風景とは違い、暖炉に火がついていてとても暖かい空間になっていたのです。そしてテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいます。そういえばお腹すきました……
私とミルディは常闇の森の魔女、あの極悪非道の伝説の魔女ロゼッタ=ロズウェルに招かれるかたちで家の中に入るのでした。