2. すべては知識のままに。
教会を出て、森の街道を歩く私。もうお日様も真上にあるのです。どうやらもう何時間も歩いているのですが……隣町のルベルタはかなり遠いみたいなのです。昔に馬車で巡礼をした時はそんなに時間がかかった覚えはないんですけどね……
「お腹が空きました……」
と誰もいないのに独り言を話している。私にとっては、生まれて初めての自由な遠出なのですけど……『ワクワク』や『楽しみ』……というようなそれらしい感想が全く浮かばなかったのです。
ただ食欲に負けての言葉なのかは、謎であったりするのですけど……
それはどうでもよいとして、今日は何も食べてないです……この空腹感から私の中で昼食を摂ることに決定したのです。
でも……重要なことに気づいたのです。
そう私は「資金」がないのです。ずっと教会暮らしの私には必要な時以外はお金というものを持ったこともなかったのです。
さすがの聖女様でも、もっともらしく『お願い』だけでは食事代まで出してもらえないのです。そもそも今持っているのは青い宝石をあしらった鉄のロッドだけなのです。
えぇーっとぉー……。
これはもうアレですね!背に腹は代えられないですし、仕方ありません!
ここは多少強引だけども、聖女として誰かを助けて、ご馳走していただくしか無いみたいなのですね!そのためにはルベルタの街までなんとかたどり着かないとなのです。
でもさっきからこの森は同じような景色ばかりで困るのです。私がしばらく歩くと別れ道に遭遇する。
「また別れ道なのです。それなら……えいっ!」
私は地面に落ちている木の棒を空に投げ、落ちた木の棒の方向に進むことにする。これは昔読んだ物語でやっていたことなのです!
「こっちなのです!お腹すきましたぁ……早く街にたどり着くといいですね」
そう本の知識は優秀なのです!
迷う心配は無いのです。あ、もちろんその物語の主人公のように方向音痴とかではありませんよ?ただ、その物語の主人公は、確か街の人に拾われたはずですからね~。うまくそんな感じで誰かと出会えたらいいなって思うところはあるのですけれど……このまま進めばきっと大丈夫でしょう!歩みを止めてはいけないのです。私は聖女なのですから。
そして森の街道をしばらく歩いていくと本当に人と出会うことになる。しかし、その遠目からでも分かる真っ赤な髪の人物は何故か地面に倒れているのですが……。
私は恐る恐るその人物に声をかけることにしたのです。
「あの~……大丈夫なのです?ここで寝ると風邪を引くのですよ?」
その人物は格好は男物のツナギを着ているけれど、良くみると女性だとすぐにわかったのです。この格好は……鍛冶屋さんですかね?
鍛冶屋さんがこんなところにいるなんて……ん~おかしいのです。とりあえずこの女性は明らかに具合悪そうな感じですし、見過ごすことは出来ないのです。
「あのどうしたのです?具合が悪いのですか?」
「ポイズンビートルに……うっ……」
そう言う女性の顔は青ざめているのです。見てすぐに分かる。これは毒なのです。いつもなら聖魔法で解毒くらいちょちょいのちょいなのですが……まぁ聖魔法なんてなくても大丈夫なのです。というより聖魔法なんて知らないのです!それ美味しいの?ってやつなのです。
そんな下らないことを考えている場合じゃないのですね。この女性を助けないとなのです!確か……昔読んだ本の中に簡易的な解毒剤の作り方があったような……
私は周りを見渡す。そこに紫色をした小さな花を見つける。ハミハの花なのです。
「あったのです。あのお水持ってますか?」
「え。鞄の中に少しだけ……」
そして落ちている少し太めの木をナイフで削りコップを作る。そしてハミハの花をすり潰し、更に持っていたロッドも少し削り鉄もとる。それを水で薄めて飲ませる。
これで治ってくれればいいんですけど……と思いつつ様子を見守ると、その赤い髪の女性は苦しさが消えて行ったように顔色がよくなったのです。良かったのです。
やっぱり本の知識は優秀なのです!