1. ただの聖女なのです。
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの『異端の魔女』が!」
時間は早朝。セントリン王国にある大きな街セルシアのカトリーナ教会にて怒号が1人の聖女に放たれる。
皆がまだ寝ている時間に『アリーゼ』と呼ばれている私は教会の執務室に話があると呼び出されていました。
しかも私を『異端の魔女』呼ばわり、相手は怒りに震えている様子。私何かしましたか……?心当たりが皆無なのです。よって、こんな不当解雇は認められないのです!
「ちょっと待ってくださいなのです!オイゲン大司教様。私がなぜ破門になるのです!?理由がわからないのです!こんな不当解雇、大聖女ディアナ様が許さないのです!バチが当たるのです!」
「理由?よくも私に向かってそんなことが言えたな。なら聖女の役割りはなんだアリーゼ?」
「それは人々を救うための力になりなさいと子供の頃からお母様やお父様に言われた通り。人々を導き平和を保つために努力するのです。それが聖女なのです」
「その人々を救うための力とは『聖魔法』の事であるなアリーゼ?ならば問おう。お前は聖女の証である「聖痕」が消えたと聞いたが?それはどう説明するのだ?「聖痕」が消えるのは『異端の魔女』の証だと言われているだろう!」
ああ……確かに消えましたけどもう痛くないんで気にしないでいたんですよね……まさかそれが原因なのですか困ったのです。しかも『異端の魔女』なんて、私は別に異端ではないのです。
いやまて落ち着くんです私。ここで反論すればますます状況が悪化してしまいます!!昔読んだ物語のように冷静に対応するのですアリーゼ!!
「こほん。大司教様。たぶん気づかないうちに消えていたのかと思いますよ?気づいたら消えていたのです。それが何か?」
「なら「聖痕」がないのは認めるのだな?それでは人々を救うための聖魔法が使えんな?そんな聖女などいらん!」
聖魔法。この世界の聖女のみが許される、神の与えし魔法。悪しき魔物と戦うための力、人々を癒す力という優れた魔法なのです。そして聖女の証として「聖痕」という痣が身体のどこかに刻まれている。まぁ私は何故か消えてしまったのですけど。
「でっでも!私は聖女の任としてこの教会に尽くしてきたのです!それだけじゃありません!この教会の運営のために色々私はやってきたのです!それなのに……」
「それ以上口を開くな!『異端の魔女』が!!」
オイゲン大司教は私の言葉を遮るように机を叩きつけ言い放ちました。これは本気で怒っています。これでは話し合いにならないじゃないですか……
でも……聖魔法がなければ、聖女は務まらないのですかね……そんなことを考えても無駄なくらい目の前の大司教様はお怒りになられてますし……
「わかりました……出て行けと言うことですね……」
「そうだ。お前の顔などもう見たくない。今すぐ出ていくのだ!」
はぁ。本当になんでしょうかこの状況。理不尽すぎるのですよぉ~!!もういいのです!
そして私は教会の執務室を出るとそこにはいつも私に突っかかってくるあの3人組がいたのです。
1人はいつでも私に対して喧嘩腰の長い金髪の有力貴族出身の私と同じ聖女マルセナ。
もう1人は見習い修道士ラピスでしたっけ?どことなく見た目幼さが残る女の子っぽい顔の。いわば童顔なのです。
そして最後の1人は同じく見習修道士のエルミンと言いましたか、皮肉屋で生意気な赤毛のおさげ姿の。
とにかく私よりは全員年下なのですけどもね。しかし今は彼女らを見てると少しイラッとする感じを覚えるだけなのです。
「あらご機嫌ようアリーゼ?朝早くから執務室にいるなんて……もしかして何かありました?例えば「聖痕」が消えたのがバレて聖女の任を解かれたとか?」
「!?」
やっぱりマルセナの仕業だったのですね……
えぇそういえばあなたってこういう性格の女だと思い出したのです!腹が立つのです!私がどんな気持ちになったかわかっているですよね!?それによく言うものですよ全く。
こんな風に人の足を引っ張る事が得意な嫌味女め!!……なんて事は言わない方が良いだろうと思う程度の分別くらいはあるのです。ふふん。
だって下手をしたら面倒になりそうな気配を感じるのですから。まだ朝ですし、嫌なことが重なるのは気分的に嫌なのです。そして私は余裕があるようにマルセナたちに言うのです。
「あらおはようなのです。マルセナ、ラピス、エルミン。心地の良い朝ですね。」
「!?うざ!何強がってんのよ!この『異端の魔女』が!」
マルセナは私の態度が気に入らなかったのか早朝とは思えない声量で私に言い放つ。まぁそのために余裕をみせたのですけど。
するとその私の態度を見た残りの2人も一緒になって騒ぎ立てるように喋りだしましたし。ああ!めんどい人達に囲まれてるなぁと思っているとマルセナたちが私に言う。
「これからどうするつもりかしらねぇ~『聖魔法の使えない聖女様』は。と言ってもできる事はないとは思うけども?」
「この教会にはマルセナ様がいるから、あんな使えないやついなくても安心ですしね?」
「聖魔法がないんじゃただの雑用だし。本当にただの雑用」
そう露骨に私に言ってくる。まったくこの三バカトリオときたらいつまで経っても変わらないなと思いつつ、でも一応相手を立てなければ行けないと思ってはいるのですよ実際。あの本にも書いてありましたどんな相手でも敬うようにと、それに私は聖女なのですから。
「ご忠告ありがとうなのです。マルセナのその優しさに感銘を受けます。私は大丈夫ですのでお気になさらず」
「!?ムカつく……あんたムカつくのよ!さっさと消えて!」
そう言われなくても出て行くのです。私はもうこんな小さい教会なんかに未練はないのです!こうなったら教会に在籍しない世界を救う聖女になってやるのです!絶対に私を追い出したことを後悔させてやるのです。
『聖魔法?そんなの知らないのです!』
それに……毎日忙しい聖女の任の合間に、少ない自由時間の趣味の読書で、読んでいたあの物語のような勇敢な冒険をしながら旅をする……あんなストーリーや登場人物達に憧れるではないですか!よし決まったのです。
これで心置きなく旅立つことができるようになったのですから早く荷物をまとめて街へ出るのです!
私は部屋に戻り旅支度をする。鞄の中にナイフやランタン、空いているスペースには大好きな本を入れられるだけ詰め込み荷物を背負う。あとは教会の倉庫に置かれていた青い宝石をあしらった鉄のロッドを拝借する。
「これくらいバチは当たらないのです。きっと大聖女ディアナ様もお許しになるのです。これは私の今までの働いてきたお給料として持っていくのです」
そしてすべての準備が終わり教会の外に出る。もう日が昇り始めている。嫌なことがあったのに、まるで初めて旅立つ私を祝福してくれるかのような朝日。
本来であれば仕事の引き継ぎなどをしていくのが礼儀なのですが、そんなこともう私には関係ないのです!そして大きく息を吸い込み私は教会に向かって叫ぶ。
「皆さん今日もいい天気ですよ!元気出して頑張ってくださいなのです!ほーほっほほ。さよなら~!!」
そう私は教会に別れを告げ歩いていく。
目的はそう……まだない。
とりあえずこの街の外に出てみましょうかね……。
「隣街のルベルタなんか良さそうです!知らないですけど」
まずどこに行くかを考えてそこから目的地を決めればいいんです!うん。それがいいはずなのですと独り考えながら歩いていくことにする。
そう一歩ずつ前に前に。
何があっても大丈夫なのです。
私は聖女なのですから。