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80. 運命

80. 運命




 ここは王都ローゼリア。荘厳な城壁と活気に満ちた市場が織りなす、まさに王国の心臓部とも言える場所だ。しかし、その賑わいの裏で静かにだが確かに、一つの大きな動きが始まろうとしていた。


 1人の女性が、その重い足取りで城門へと向かう。彼女の名はフレデリカ=ローゼリア。この国の第一皇女であり、その美貌と聡明さで国民の尊敬を集める存在だ。しかし、今の彼女の表情は、いつもの穏やかな微笑みとはかけ離れていた。その瞳にはどんなことがあろうと前へと進もうとする強い意志が宿っている。


「準備はよろしくてイデア?」


「はい……」


 イデア=ライオット。騎士団最強と謳われる彼女もまた、その表情を硬く引き締めていた。長い金髪を赤いリボンで結び、腰には磨き上げられた剣。その姿は、まさに戦場へと赴く女騎士そのものだった。しかし、その瞳の奥には、わずかながらも迷いの色が浮かんでいた。


 魔王を討伐するために出発した勇者が倒れた。その知らせは、王都ローゼリアに衝撃を与えた。希望の象徴であった勇者の敗北は、国民に深い絶望をもたらした。しかし、そんな中で、フレデリカは自ら立ち上がった。彼女は王女として、この危機を乗り越えなければならないと強く感じていた。


「では他の仲間と合流して出発しますわよ」


「はぁ。はい……」


 そして、2人は仲間たちが待つ場所へと向かった。しかし、イデアの心は重く沈んでいた。なぜなら、彼女には誰にも言えない秘密があったからだ。


 それは、彼女がこの状況になることを誰よりも恐れていたという事実。


 イデアは、心の中で呟いた。『どうしてこうなった?なんのための2度目なのか』と。


「あら?そんな浮かない顔してどうしましたのイデア?」


 フレデリカ姫様の声が、少しだけ沈んでいた私の心を現実に引き戻す。私は広がる青空から視線を外し、彼女の顔を見つめた。そこには、いつものように太陽のような明るい笑顔が咲いていた。


「いや……やっぱり簡単には割り切れませんよ、今までこうならないように生きてきたはずなんですから」


 私は、自分の言葉に少しだけ自嘲気味に付け加えた。前世の記憶と力を持ちながら、勇者としての運命から逃れようとしてきた。


 しかし結局はこうして、再び戦いの道へと足を踏み入れることになってしまった。その事実に、心のどこかで諦めのような、そして安堵のような、複雑な感情が渦巻いていた。


「ふふっ運命には逆らえないと言うことですわね?でもこう考えたらどう?あなたは私に出会い、姫騎士になるために産まれて来たのですわって!」


 フレデリカ姫様は、屈託のない笑顔でそう言った。その明るさに、私の心も少しだけ軽くなった。その言葉はまるで、私の中にあった葛藤を、そっと包み込んでくれるようだった。


「あはは……」


 私は思わず笑みをこぼした。でも本当にそうなのかもしれない。この人のためなら、私は命を懸けて戦える。心の底からそう思っている。そして、その覚悟は私の中で確固たるものへと変わっていった。


「それよりも他の仲間って誰なんですか?」


「さぁ?お父様やレイヴンが決めてくれてるでしょ?とにかく馬車が止まっているはずですから、そこへ向かうわよ」


 そう言って、フレデリカ姫様は歩き出した。私も、彼女に続いて歩き出す。すると、前方に一台の豪華な馬車が見えてきた。その周りには、見知った人物たちが立っていた。


「お待ちしていました。私はこの度フレデリカ様の旅のお供をさせて頂くことになりました。騎士団のレオニードと申します」


「同じく騎士のアリッサです」


「エレンです。よろしくお願いします」


「なんでみんなが……?」


「お前より最強の剣士になる。だから同行に立候補したんだよイデア」


「借りはきちんと返さないとだから。ボクやアリッサがついていくんだから感謝してよねお姉さん?」


「そんなこと言ってますけど、あたしもエレンもイデアさんともう一度一緒にいたくて立候補したんです!」


「ボクは違うから!その……本当に違うって……」


 彼らの言葉を聞いて、私は胸が熱くなった。こんなにも私のことを思ってくれていたなんて。彼らの言葉は、私の心を温かく包み込んでくれた。


「あらあら?私ではなくてイデアと一緒が良いなんて妬けちゃいますわね?」


 フレデリカ姫様が、少しだけ拗ねたように言った。その表情は、まるで子供のように可愛らしかった。


「嫉妬ですかフレデリカ姫様?」


「ふふっどうかしら?でも……あなたの人望があってのことでしょ?主君としては嬉しい限りじゃない?」


 そう言って微笑むフレデリカ姫様。本当にこの人には敵わないなと思う。そして、私たちは馬車に乗り込み出発した。まず目指すは勇者の試練の場所。この世界にいる六属性の精霊の加護を得ることが目的だ。とりあえず、このローゼリアから近いのは、水の精霊の加護がある場所だった。


 馬車が王都を出るために西の門を通り抜けようとした時、馬車は急停車した。外を見ると、私とフレデリカ姫様の知っている人物たちが立っていた。


「防御魔法や回復魔法はいりませんか?今なら親友価格でタダですよ?」


「ほら。そっち詰めろよイデア。オレの特等席空けておいてくれないと困るだろうが?」


 オリビアとアルフレッドだった。2人はまるで当然のように馬車に乗り込んできた。私たちもそれを自然と受け入れた。


 だって……そんなような気がしていたから。それにしても、なんだかんだで大所帯になってきた気がする。前世と同じパーティーが揃ってしまったのね。


 私は窓の外を見た。外はどこまでも続く清々しい青空が広がっていた。結局、私の運命は変わらなかった。


 でも、違うことが一つだけある。



 それは……



 私の隣に、大切な人がいること。


「ん?なんですの?」


 フレデリカ姫様が、不思議そうに私を見つめた。


「いえ。なんでもないです。これからよろしくお願いしますねフレデリカ姫様」


「えぇ。よろしく頼むわイデア」


 私はこの運命を決して後悔しない。その道は、茨の道であり、困難が待ち受けていることも分かっている。


「……大丈夫ですわ……」


「え?なんですかフレデリカ様?」


「……ふふ。なんでもありませんわ!さぁ行きますわよ!」


 それでも、私たちは進む。自分が信じた未来に向かって。



 1部完

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