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76. 事実

76. 事実




 ローゼリア王国は今、魔物の軍勢に襲われ、まさに滅亡の危機に瀕していた。しかし、私には信頼できる仲間がいた。大切な人がいた。だから、きっと勝てる。そう信じて私は前を向いた。


 この先の原因は、私がなんとかする。そう決意し私たちは魔物を倒しながら、『ゲート』の場所へと向かった。すると、前方に巨大な岩山が見えてきた。そこには、見るもおぞましい、大きな真っ黒な穴が口を開けていた。そこから、絶え間なく魔物が産み出されようとしている。


「なんですのあれは!?」


「あれが『ゲート』です。魔族が作り出した空間の歪み……そして、あそこから大量の魔物が生み出されている。まずは、あれを何とかします」


「何とかって……イデア、あなた……」


「大丈夫です。心配しないで下さい。とりあえず、フレデリカ姫様は下がっててください」


 不安そうな顔のフレデリカ姫様に、私は微笑んで見せた。そして、私は剣を抜き、両手で構えた。


「『―――我が呼びかけに応え、顕現せよ。光の刃、聖天の輝き』!」


 私は剣を構え、魔力を解放する。すると、剣に聖なる力が宿り、眩い光を放ち始めた。あの大きさは、少し厄介かもしれない。私は更に魔力を込めた。


「穿て……『精霊の審判』!!」


 私は大きく振りかぶると、輝く光の聖剣を振り下ろした。その瞬間、光が集まり、巨大な光の斬撃が放たれ一直線に『ゲート』に向かって飛んでいく。その威力によって、巨大な爆発が起こり、辺りは土煙に包まれた。


 これでどうだろうか?しかし、私は油断なく身構えた。何があるかわからないから。しばらくして土煙がおさまり、視界が良くなると、そこには巨大なクレーターができていて、『ゲート』は消えていた。


「イデア!!」


 えっ?安堵したのも束の間、フレデリカ姫様の声が届くと同時に、背後に気配を感じ振り返ろうとした。しかし、次の瞬間には私は吹き飛ばされ、地面に転がっていた。


「うっ……」


「うーん……おかしいですね?確か勇者はこの前、尻尾を巻いて逃げ出したはずなんですがね……?」


「違いますよシュバイン様。魔王様の手によって粛清されました。」


「シュバイン全然話きいてないじゃん!あはは」


 私を吹き飛ばしたのは、貴族風の魔族とそのメイドらしき2人。確かこいつは……


「大丈夫ですのイデア!?」


「はい……フレデリカ姫様は下がってください」


 私は立ち上がると、フレデリカ姫様を下がらせ、前に出た。勇者ルイスはもう……それよりも、ここで私が負ければ、みんなが……フレデリカ姫様が……それだけは避けないと……!


 私は再び剣を構えた。そんな私を見て、シュバインと呼ばれる魔族の男は、何かを悟ったかのように嘲笑いながら口を開いた。


「おやぁ?もしかして……5年前にカトラス王国でグラドを始末したのはあなたですか?」


「グラド?あー……あのデカブツならそうよ。魔公爵シュバイン。次はあなたの番よ!」


「ほう?これは驚きましたねぇ……まさか人間ごときに倒されるなんて……まあいいでしょう。ではあなたを殺せばいいだけのことです。さっきの攻撃といい、普通の兵士とは違うようですし……まさかとは思いますが……勇者だったり?」


「……」


 私は黙って剣を強く握りしめ、相手を見据えた。


「ふむ……だんまりですか……まあどちらでもいいです。どのみち殺すのですから。」


「シュバイン様。魔王様の話をきちんと聞いててください。目的は『ゲート』を使用しての侵攻作戦。そのために『ゲート』の解放と維持をする。無駄な戦いは避けるようにと仰せつかりました。その『ゲート』が壊された以上、長居は無用かと」


「うるさいですよ。メルヴィー。あなたは何も分かっていない。この女の強さが分からないのですか?この強さなら勇者の代わりは務まる。それに……」


「シュバイン。メルヴィーの言うこと聞いたほうがいいよ?アタシは戦闘してもいいんだけどさ!あはは」


「煽らないでください。エスティナ。まったく……ここは退きますよ」


 そう言って、シュバインたちは魔法陣を展開し、そこから闇が現れた。


「お楽しみはお預けにしましょう。ですが忘れないことです。必ず殺しますからね?」


 そして、その闇の中に消えていった。あのまま戦闘になっていたら、間違いなく勝てなかった。でも、勝たなければいけなかった。だから、私はまた剣を握る手に力を込めた。


「イデア……一体……何が起きているんですの……?それにあの『ゲート』を壊した力は……」


 私は、フレデリカ姫様に向き直り、真剣な表情を浮かべた。もう、すべてを話さなければいけない……


「これから話すことは、全て本当の事です。信じられないかもしれませんが、どうか最後まで私の話を聞いて下さい」


 そのまま私は、フレデリカ姫様にすべてを語り始めた。

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