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68. ズルい

68. ズルい




 なぜかフレデリカ姫様と謎の模擬戦を行うことになった私。騎士団の演習場は、普段は騎士たちの訓練で賑わっているが、今は私たち二人のために静まり返っている。騎士たちは、固唾を飲んで私たちを見守っていた。


「あとで文句言わないでくださいよ?」


「あら、怖いわね。でもこの私に勝つつもりなのかしら?」


 フレデリカ姫様は、余裕綽綽といった態度でそう言いながら右手を前に突き出す。すると手のひらから火球が生成され、あっという間に大きくなっていく。その光は、演習場を昼間のように明るく照らし出した。


「じゃあ先手必勝ね。燃え尽きなさい!『フレイム・バースト』!」


 フレデリカ姫様が魔法を放つと同時に私は即座に木刀を振り抜き、その攻撃を弾く。火球は、木刀にぶつかると同時に勢いを失い、四散した。


「ふーん。やるじゃないイデア」


 フレデリカ姫様は、少し感心したように呟いた。


「はいはい」


「でもいつまで防げれるかしらね?」


 そして再びフレデリカ姫様が魔法を唱える。手から次々と火球を生成し、ファイアーボールを連続で撃ち込んでくる。その数は、まるで流星群のようだった。確かに一発一発の火力は強いけど、所詮は初級魔法のレベル。これくらいの攻撃だったら簡単に対処できる。私は何発も撃ち込まれる火球を木刀で打ち落としていく。


「ほらほら!まだまだ行くわよ!」


 フレデリカ姫様は、楽しそうに笑いながら魔法を放つ。


「はいはい。こんなもんですか?」


 私は、余裕綽綽といった態度で言い返す。


「なんですって!?」


 そんな様子を騎士たちは見て、唖然としていた。


「まさかあの『爆炎の魔導姫』と呼ばれるフレデリカ姫様の魔法を全て捌き切るとは……」


「オレたちじゃああのスピードについていけないのに……」


「しかも木刀で炎魔法を捌いてるんだぜ?よく燃えないよな?」


「バカ。あれを見なさいよ。水の魔力で刀身をコーティングしてるのよ。すごいわ」


 騎士たちのそんな声が聞こえてくる。そうでしょそうでしょ。もっと褒め称えなさい!それに私は元勇者なんだから、ただの姫様に負けるわけにはいきません。


 その後もフレデリカ姫様が放つ魔法は全て私が処理していく。というか……何発ぶちこんで来るのよこの姫様は。いい加減私も疲れてきたんだけど。このままだとキリがない。


「はぁはぁ……なかなかしぶといわね」


「そろそろ諦めたほうがいいんじゃありませんか?もう飽きましたよ、その火球」


「そっちこそ。いつになったら攻撃してくるんですの?守ってばかりじゃ私は倒せませんわよ?」


 ……本当は反撃をしたいんだけど、今の私の攻撃じゃ、フレデリカ姫様に致命傷を与えてしまうような気がしてならない。どのくらい手加減すればいいか分からないのだ。まぁだからと言ってこのまま守り続けるのも性に合わないし……


「……仕方ないか。氷の魔法剣『アブソリュートゼロ』」


「あら、ようやくやる気になりまして?」


「……はいはい」

 そして今度は私から攻撃を仕掛ける。フレデリカ姫様が放った火球を避け、一気に距離を詰めると、そのまま斬りかかる。


「……かかりましたわねイデア!」


「へ?」


 フレデリカ姫様は光の魔力を地面に叩きつける。これは魔力の閃光弾か。視界を奪われた隙に、フレデリカ姫様を見失う。


「どこ行った……」


「こっちですわ!」


 背後に気配を感じ、振り向くと、そこにはフレデリカ姫様の姿があった。


「5年間で強くなったのはあなただけではないですわ!」


 そしてフレデリカ姫様は無数の炎の魔法槍を私に向かって放ってくる。その数は、先程の火球とは比べ物にならない。


「ちょっ!?」


 さすがの私もこの数の魔法を1人で全て捌き切ることはできない。というよりやりすぎでしょこれ!私は氷の魔法剣で捌くが数が多すぎて捌ききれなかった。そしてその炎の魔法槍はそのまま爆発し、演習場を火の海に変えた。


「やりすぎです姫様!全員急いで消化活動!」


 クリスティーナさんの声が響き渡る。私は何とかその火の海から脱出する。


「あら?無事なのねイデア」


「私を殺す気ですか!?」


 消火活動をする騎士たちを横目に、フレデリカ姫様は私を心配するどころか不機嫌になる。まったくこのお姫様は人をなんだと思ってるのよ!というより……騎士団の人たち完全に引いてるじゃん。


 もちろんこのあとは騎士団団長のレイヴンさんとクリスティーナさんに私とフレデリカ姫様はお説教を受けることになった。


「あーあ。せっかくこれからでしたのに……興醒めしましたわ」


「はいはい。もう2度とワガママ言わないでくださいね!」


「分かったわよ。でも……楽しかったわイデア。ありがとう」


 そう言ってどこか嬉しそうな、可愛い微笑みを私に向けるフレデリカ姫様。……ったくズルいのはどっちよ。そんな顔されたら怒れないじゃない。こうして謎の模擬戦は幕を閉じるのであった。

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