67. 頑固
翌日、私はフレデリカ姫様の部屋にいた。姫騎士の仕事は、侍女の役割も兼ねている。朝の支度を手伝ったり、時には話し相手になったり。フレデリカ姫様とは親友のような関係なので、仕事というよりは、一緒に過ごしているという感覚に近い。
「イデア。今日は街に繰り出したいわね!」
「ダメです。今日は夕方から有力貴族のお家とお食事会がありますから、それまではお勉強です」
「つまらないわね。こんなんだったら王立学園に通ってたほうがマシですわ」
「そんなこと言っても仕方がないですよ。このあとは舞踏会のダンスの練習、そして礼儀作法の勉強などたくさん予定はあるんですから」
私がそう言うと、フレデリカ姫様は露骨に嫌な顔をした。しかし、王族としての務めは避けて通れない。それをサポートするのも姫騎士である私の仕事だ。
「ならイデア。あなたは私がダンスの練習や礼儀作法をやってる間何してるのよ?」
「え?今日は騎士団の演習に参加しますけど……」
「ズルいですわ!私も演習に参加したいですわ!イデアばかり有意義に過ごしてズルいですわ!私も行きたいのですわ!」
「そんなこと言われても困ります。そもそもフレデリカ姫様にもしものことがあったらどうするんですか?」
「それを守るのがあなたでしょ?決めましたわ。今日は騎士団の演習に参加する。これは決定事項ですわ!」
フレデリカ姫様は、部屋の中央で仁王立ちになり、有無を言わせぬ態度を示した。こういう時のフレデリカ姫様は、本当に頑固だ。何を言っても無駄だろう。
(別に私としてはフレデリカ姫様が何をしようと構わないけど、どうせ叱られるのは私だ。何かいい方法はないものか)
私は、頭を悩ませた。そしてある名案を思いつく。
「じゃあこうしませんかフレデリカ姫様。私とフレデリカ姫様が演習で模擬戦をして、勝った方の言うことを1週間は素直に聞くというのはいかがですか?」
「それは面白そうね。乗ったわ。『爆炎の魔導姫』を相手にして勝てると思ってるのかしら?」
フレデリカ姫様は、挑戦的な笑みを浮かべた。
「負ける気はありませんよ」
こうして、私はフレデリカ姫様との模擬戦をすることになった。そして、そのまま騎士団の演習場へと向かう。
「訓練中申し訳ありませんわ!少し使わせてもらえません?」
フレデリカ姫様の声が響くと、訓練をしていた騎士たちが一斉に敬礼をした。姫様が直々に演習場に来ることは滅多にないので、皆緊張しているようだ。そして、訓練を指揮していた副団長のクリスティーナさんが、私たちに近づいてきた。
「フレデリカ姫様?どうかされたのですか?」
「ちょっと演習場を使わせてもらえません?今からイデアと勝負しますの」
フレデリカ姫様の言葉を聞いて、クリスティーナさんは呆れたようにため息をつき、私の耳元まで近づいて小声で話し始めた。
「勝負って……イデア困るわ。ちゃんとフレデリカ姫様の面倒を見てくれないと。」
「いやその成り行きで……」
「何をコソコソ話してますの?早く始めますわよ!」
私とクリスティーナさんの会話を遮るように、フレデリカ姫様が急かす。私は、渋々準備を始める。
「ではこれよりイデア対フレデリカ姫様の模擬戦を始めます。ルールは相手に致命傷を負わせる攻撃の禁止。制限時間は30分。どちらかの降参、もしくは戦闘不能になった時点で終了となります」
「わかりましたわ!」
「了解です」
「それでは……はじめ!」
クリスティーナさんの開始の合図と共に、模擬戦が始まった。フレデリカ姫様と手合わせをするのは、王立学園の時以来だ。あの時は、いきなりファイアボールをぶちかまされたっけ。
(いいでしょう。これは姫と姫騎士ではなく、親友として、2度と文句言わないように、ここは軽くボコっときますか)