66. 憶測
私はガルーダ討伐の時に見つけた、少し大きめの石をルージュさんに見せた。彼女は、その石を手に取り、光にかざしたり、魔力測定器にかけたりと、慎重に調べている。その表情は、いつになく真剣だった。
「まずはこの石について説明しましょう。この石は魔素を大量に含んでいて、魔物の体内に取り込まれると、理性を失ってより強力な力を手にすることができるの。そして魔石を取り込んだ生物はより凶悪になり他の生物の生命を貪る存在になる」
ルージュさんの説明を聞き、あの時のガルーダの異様な強さを思い出す。確かに、ただのAランク魔物とは思えないほど、凶暴で強かった。いくら私が『精霊の審判』を使えるからって、単騎では討伐はできなかっただろう。本当に、みんなの協力があって良かった。
とりあえず、今の話で気になったことを聞いておこう。
「あのルージュさん。それなら、これを使えば人間も暴走したりするんですか?」
「それは無理ね。魔石の魔力は強力だけど人間の器には耐えられないわ。」
「そうなんですか。安心しました」
私は、胸を撫で下ろす。魔石が人間に影響を与えることがないと聞いて、少し安心した。
「ただ……魔物から魔石が発見されるなら、この世界はかなり危険な状況ということでしょうね」
そう言いながら、ルージュさんはコーヒーを一口飲む。彼女の表情は、いつになく険しい。しばらく沈黙が続いた後、彼女は私の顔を見て話し始めた。
「イデア。これから話すのは私の憶測でただの独り言よ」
「え?」
「勇者ルイスが旅立ってから1ヶ月。最初のころはどこどこの街や国を救ったとかの情報が入ってたんだけど、ここ最近はめっきり情報が来なくなった。そして魔王軍の勢力は衰えない。更には魔石を取り込んだ魔物も現れ始めた。恐らく魔王軍はもうすぐ動き出すわ。それも今まで以上に大規模な」
ルージュさんの言う通りだと思う。魔族も出てきているし、このままだと本格的に戦争が起きるんじゃないのかしら。やはり、魔王軍の幹部の誰かを倒さないと、その勢力を抑えることはできない。まったく、勇者ルイスは何をしているんだ。
「でも……私はこの王国は大丈夫だと思っている。それはあなたがいるから」
「え?」
「……あなたは『ゲート』の存在を知っていた。その単語は私たち魔導科学研究所の人間しか知り得ない事実。あなたが知らないはずの知識を持っている時点でおかしい。それにあなたの能力はずば抜けているし」
……マジ?私『ゲート』とか言っちゃってたっけ?完全に無意識だったんだけど!どどどどうしよう。
「そうね……未来を知っている人物かその未来から来た人物。それか前世の記憶がある人物か同じ時間軸をやり直している転生者か。それとも本当にたまたま強いのか。いずれにせよあなたは特別なのよ」
「あっえーと……なんのことでしょうか?ちょっとよくわからないですねーあはは」
私は、必死に誤魔化そうと試みる。冷や汗が背中を伝う。
「……あなたが何者なのかはわからないし詮索するつもりもない。けどあなたがこの世界を救う存在になるかもしれない。だから、私にできることがあるのであれば何でも言ってちょうだい。私はあなたの味方よ。イデア」
ルージュさんの言葉に、思わず面を食らう。研究者だから、すごい追求されるかと思ってたんだけど、こんな風に言われるとは思わなかった。しかも……
「ふふっ」
私は、思わず笑みをこぼす。
「何かおかしいかしら?」
「いえ、なんでもありません!ありがとうございます!」
なんか嬉しかったんだもん!結構グレーな気もするけど、バレているわけじゃないし、ルージュさんは他言しなさそうだし。
「じゃあそろそろ帰ります」
「じゃあこの魔石は預かるわね。詳しく調査したら報告するわ」
「よろしくお願いします!じゃあ失礼しますね」
こうして、私の休日は終わるのだった。明日からはまた姫騎士としてフレデリカ姫様のために頑張らないと!