61. 義務
そして翌日。私はアリッサとエレンに叩き起こされて、北にある山へと向かうため家を出てオリビアとの約束の街の門の前に向かっていた。
「眠すぎ……」
「大丈夫ですかイデアさん?」
「自業自得じゃないの?自分でオリビアさんに日の出と共に来てくれなんて言ったんだからさ」
「それは勢いで言っちゃったのよ……」
「それよりお姉さん。ガルーダ討伐の時に足引っ張らないでよね?」
「分かってるわよ」
そんなことを話しながら歩いていると、街の入り口である門のところにオリビアの姿が見えてきた。
「おはようございます皆さん」
「オリビア、早いわね」
「はい。今日は気合いを入れてきましたから!」
オリビアは昨日まで着ていた神官服ではなく動きやすい服装をしていた。髪も邪魔にならないように後ろで束ねている。
それから私たちはオリビアを加えた4人で街を出る。目指すは北の山。そこで私たちを待つのはAランクの凶悪な魔物、ガルーダだ。万全とまではいかないけど、準備はしてきた。あとはなるようにしかならないわね。
街を出て数時間、私たちは目的の山の麓までやってきた。もう日は昇り、朝日が出ている。今日の天気は晴れのようだ。とりあえず、いるであろうアルフレッドを探すことにする。
「アルフレッドのやつ遅刻かしら?寝坊とか笑えないんだけど」
「お姉さんが一番笑えないよね?ボクとアリッサが起こしてあげたの忘れたの?」
「あたし何回も身体を揺すりました」
「私は起きたでしょ!とにかくアルフレッドはシメるから!」
そんなことを話していると、アルフレッドがやってくる。
「おいイデア。誰をシメるって?先に様子を確認してたんだよ。お前と一緒にするな」
「アルフレッドさん。お久しぶりです」
「おお。オリビアか。ずいぶんいい女に成長したな。どこかの金髪赤リボンとは大違いだ」
誰が金髪赤リボンだ。それに私はいい女よ!アルフレッドと合流した私はアリッサとエレンを連れ、まずは昨日の騎士団がいる場所に向かう。
そこには負傷した受験者やそれを手当てしている騎士団員たちがいた。
「ガルーダにやられたんですかね?あたし……大丈夫かな……」
「安心して。アリッサはボクが守るから」
「エレン。ありがとう」
「残念だが、あれはガルーダにやられたんじゃねぇよ。それ以前の問題だ。この山は凶暴な魔物が多くいるからな。ギルド冒険者も用事がなきゃ近づかない。つまり、ガルーダにたどり着くのも厳しいってことだな」
アルフレッドは周りを見渡してからそう答えた。やっぱりそうよね。この山に生息している魔物の強さは、予想以上だと思っておいたほうが良さそうだわ。となると……
私がそんなことを考えていると、レオニードがやってくる。ちょうど良かったわ。なんてタイミングがいいのかしら。
「イデア。受験者はほぼ離脱している状況だ。それでもガルーダ討伐に行くつもりか?」
「当たり前でしょ。そのために助っ人を呼んだんだから。別にルールは破ってないわよ?」
「そうだな。別に問題はない」
「というより、この試験初めからガルーダなんか討伐させるつもりないでしょ?この凶暴な魔物が多くいる北の山で、どうやって行動するか見るつもりなんでしょ?」
そう。騎士団は王国を守ることが重要。時には無事に離脱しなきゃいけないことだってある。もちろん戦闘をすることが条件だけど、その判断ができるか見るつもりなのだろう。でも……それじゃダメなんだ。
「ならお前はどうするイデア?」
「愚問ね。ガルーダを討伐するに決まってるでしょ?私は最強じゃなきゃいけないから。……約束したから。必ず守るって。だから私はどんな相手も倒すし、誰にも何にも負けるわけにはいかない。もちろん、それにはみんなの力が必要だけどね?」
前世の私はそれに気付けなかった。心のどこかで『勇者』という最強の称号に溺れていたのかもしれない。
「そうか。それがお前の強さなのかもしれないな。なら気をつけて行くんだな。無事に戻ってくるのを待っている」
そう言ってレオニードは去ろうとする。それを私は呼び止める。
「こらこら!どこに行くの?」
「なに?」
「あなたにも協力してもらうわよレオニード。別にルールは破ってないから問題ないでしょ?私たちがガルーダを討伐するのを見届けるのも騎士団の義務でしょ?あなた別に試験官じゃないんだし。」
「……どこまで強くなったのか直接確かめるのもいいか。分かった同行しよう」
これで役者は揃ったわね。あとはガルーダを倒すだけだ。こうして私たちは山の中へと入っていくのだった