57. 真似
騎士団の最終試験がガルーダ討伐だと知らされた私たちはある考えの元、一度王都に戻っていた。
「あのさお姉さん。何で街になんか戻るわけ?その間にガルーダを討伐されたらどうするのさ!」
「それはないから安心しなさい。ガルーダはレベルが高くて、更に警戒心が強い魔物なの。それこそ近づくのが容易じゃないくらいに。騎士団の試験を受けている連中じゃ、そう簡単には倒せない。」
私の言葉に納得していないのか、エレンは不満そうな顔をしている。
「そう言えばイデアさんの考えって何ですか?」
「アリッサ。それはこの後説明するわ。とりあえず私についてきなさい」
私はそのまま王都の街並みを歩き続ける。すると目的の建物にたどり着いた。入り口には剣と盾の看板、そうここは冒険者ギルド。この人生では初めて入る場所なので、心なしか少しは緊張している。
そしてその建物の扉を開くと、中には多くの冒険者たちの姿があった。私はある人物を探すためにあたりを見回すと、奥の方に見覚えのある姿を見つけた。
「こんにちは。お久しぶりね。自称最強アサシンさん。元気してた?」
「イデア!?お前戻ってきてたのかよ!?」
そこにいたのは前世では私が魔王を討伐するためにパーティーを組んでいた元仲間、この人生では王立学園での同級生。
「相変わらずねアルフレッド?」
私の言葉に目の前にいるアルフレッドは苦笑いを浮かべる。
「まぁな……」
「あのイデアさんの知り合いですか?」
「もしかして男だったりして?」
「違うわよ。こいつはアルフレッド。王立学園の時の同級生なの。つまりアリッサやエレンの先輩よ。一応ね」
私は隣にいるアリッサとエレンにアルフレッドの事を紹介する。良く考えたら私も先輩なのよね……辞めたけどさ。
「それよりオレに何の用だよ?まさか顔を見にきただけじゃないだろ?」
「えぇもちろん。実はあなたに頼みたいことがあるのよ」
「頼みたいことだぁ?」
「実は今騎士団の入団試験の途中なの。内容はガルーダの殲滅。ガルーダは警戒心が強い魔物だから長期戦は難しい。そこでアルフレッドの索敵のスキルが必要なのよ。」
そう。騎士団を志す者の中には、索敵スキルを持つ者はほとんどいないし、ガルーダほどの強力な魔物を索敵するにはそれなりの能力が必要。私が知る限りじゃアルフレッドくらいしか思いつかなかった。
「あのさ。騎士団の入団試験にギルドの人の力を借りていいの?」
「ルールは破ってないから問題ないでしょ?それに、騎士団から直々にギルドへ要請することもある。何も不思議じゃない。」
「……なるほどな。まぁお前の頼みならやってやらないこともないがな?」
私の言葉を聞いてアルフレッドの顔色が変わる。やっぱりね。こいつならきっと引き受けてくれると思った。
常にガルーダの位置を把握しながら動かなければこの試験は合格できないだろう。それに相手はあのガルーダなのだ。不意討ちなど受けたら命に関わる可能性もある。ここは万全の体制で挑みたいところである。
「ありがとう助かるわ。それで報酬のことだけど金貨10枚でどうかしら?」
「……いらねぇ。お前から金を受け取るつもりはない」
私の申し出に対してアルフレッドはそっぽを向いてしまった。
「ちょっと!せっかく人が善意で言ってあげてるんだから素直に受け取りなさいよ!」
「うるせぇ!これはオレなりの意地みたいなもんなんだ!とにかく受け取らねぇぞ!ほら帰れ帰れ!明日早朝には北の山に行ってやるからよ!」
全く何頑固になってんのよこの男……。本当に可愛くないわね。まぁいいか。とりあえずこれで戦力の確保はできたし。そしてギルドをあとにする。
「まったく何なのよあいつ。」
「あの……イデアさん?」
「なに?」
私が振り向くとアリッサとエレンがジト目でこちらを見ていた。
「あたしが言うことじゃないんですけど、今のやり取りって、アルフレッドさんが好意で手伝ってくれようとしたんだと思いますよ?」
「え?そんな感じだった?」
「前から言おうと思ってたんだけど、お姉さんって男っぽいよね?しかも男のダメなところばかり出てるしさ。たまに格好いい時も少しはあるけど、年上なんだからボクやアリッサの見本くらいなってくれない?真似したらどうするのさ」
「……うるさいわね。分かってるなら真似するな」
仕方ないじゃん。前世は男としてアルフレッドに接してるんだから。今更どうやって女性らしく振舞えば良いのか分からないわよ。
こうしてなぜか年下のアリッサとエレンにお説教を受けながらも、ガルーダ討伐の準備は進んでいくのだった。