56. 相互
「お待たせ。熱いから気をつけて飲んでね」
「ありがとうございます。いただきます」
私は自分の分のコーヒーも入れてソファーに座り、ゆっくり飲む。そしてアリッサに話し始める。
「アリッサから騎士になりたいって言ったんだってエレンから聞いたんだけど、そうなの?」
「はい。意外ですか?」
「そうね。アリッサはもっとこう……なんていうのかしら?大人しい子なのかと思ってたから」
そう言って微笑むと、アリッサは少し頬を赤くする。
「良く言われます。あとエレンから聞いたかもしれないんですけど、一応あたしの方がお姉さんなんですよ」
「あー。それも聞いたわ」
「あたしはいつもエレンと一緒でした。そしていつもエレンは私を守ってくれた。でもそのせいで……エレンは本当にやりたいことまで我慢しているんです。それで思ったんです。自分がしっかりしないとダメだって。もうあたしは1人でも大丈夫だよって」
私はアリッサの話を聞いて素直に感心していた。アリッサもエレンも自分のためではなく、大切な双子の相手の事を思って頑張っているのね。それなら必ず騎士にしてあげないとね。
「あのイデアさん」
「なにかしら?」
「明日はあたしとも一緒にお風呂に入ってください。エレンだけズルい!」
「へ?ええ。いいけど……」
そう言ってアリッサは飲み終わったカップを片付けて、部屋に戻ろうとする。
「おやすみなさいイデアさん!」
「おやすみなさい」
私はアリッサを見送る。まさかあんなお願いをされると思わなかったわ。やっぱり可愛いわね、あの子は。そして私も就寝することにした。
翌日。最終試験が行なわれる王都の北の山に私たちは来ていた。また討伐試験かしらね?北の山は結構危険な魔物が多いって聞くけど大丈夫なのかしらね?
「ふわあああ……」
「あのさお姉さん。そんな大口開けてはずかしくないの……?」
エレンが呆れた様子で私に言う。なによどこかのお姫様と同じこと言っちゃって!
「恥ずかしくない!だって眠いんだもの!」
「威張って言う事じゃないと思うんだけど?お姉さんってだらしないよね?そんなんじゃモテないよ?」
「あのあの。試験官の人が来たから!」
アリッサが私たちの間に入る。まったく、余計なお世話よ。そして私たちの前に騎士団の試験官たちがやってくる。そこにはあのレオニードの姿もあった。
私は軽く手を振ると、レオニードは私に気づいたようで一瞬驚くが手を振ってくれた。
「ではこれより、最終試験を開始する。今回の目標はAランクの魔獣ガルーダの殲滅。期限は3日間。以上だ。」
「なっ!?」
「ええええぇ!!」
「ちょっと待ってください!!無理です!いくらなんでもAランクは……」
周りにいた受験生たちが騒ぎ始める。これは……かなり厳しいわね。ガルーダ。確か上位の鳥型の巨大な魔獣だったわね。その強さもそうだけど、空を飛ぶから倒すのが戦闘も困難だと言われているわ。さすがに私も空を飛べるわけじゃないし単騎じゃ無理だろうな。それよりどういうつもり?合格者を出さないつもりかしら?
「静まれ。説明はしたはずだぞ。それに君たちは騎士団に入るためにここにいるのだろう。これくらいできないようでは話にならない。それともここで帰るかね?」
試験官が騒ぐ受験生たちを睨みながら言う。するとみんな黙ってしまった。
「では開始する。各自散開しろ。制限時間は3日後の日没までとする」
そういうと受験者たちはバラバラになり、山の探索を始める。私はとりあえずレオニードに挨拶がてら真意を聞いておこうかしら。
「レオニード。お久しぶり」
「イデア。帰っていたんだな!オレはお前と手合わせをするのを待ちわびていたぞ」
「それはまた今度ね。一つ聞くけど、この試験は何がしたいの?ガルーダ討伐なんてほぼ不可能だと思うわ」
「国王と団長の意向だ。日々魔王軍の勢力は力を増している。勇者ルイス殿が旅だったのにだ。だからこそ即戦力が欲しいらしい。ガルーダを倒せるほどの人材を」
「……そう。わかったわ」
私はそれだけ言うと、レオニードから離れ、アリッサとエレンの元に戻る。
「どうするのお姉さん?正直、ボクやアリッサのレベルじゃガルーダには敵わないと思うよ?」
「すいませんイデアさん……」
「……ガルーダはそもそも単騎で倒すのは困難な魔物よ。そして、この試験は『制限時間は3日後の日没まで』というルール以外何もないわ。つまりそれさえ守れば何でもいいと言うこと。大丈夫。私に考えがあるわ」
そう言って私はアリッサとエレンに考えを話す。この試験、普通にやっても不合格になるだけ。そんなことはさせない。必ずガルーダを討伐して、騎士団に入団するんだから!