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51. 新たな始まり

51. 新たな始まり




 -ー-ー時は過ぎていき5年の月日がたった。世界は今、魔王軍との戦いが各地で激化していた。とはいえ、幹部の一角を失った魔王軍の軍勢も慎重になっている状況だった。


 そしてつい先日、ついに勇者の試練を乗り越えた者が現れ、魔王討伐に向けて出発したのだった。


 ここはローゼリア王国。久しぶりにこの地に戻ってきた長い金髪を赤いリボンで結んだ女性は、少し遅めの朝食を取りながら新聞を読んでいた。


「勇者ルイス、魔王討伐に向かう。フレデリカ姫様と婚約……か」


「こら。お行儀が悪いわよイデア。もう大人なんだから気を付けなさい。いつまでたっても子供なんだから」


「そうだぞイデア。お母様の言うことを聞いておけ?」


「あなたもですよ」


 そう言ってお父様と一緒に怒られる私。なんだか懐かしい。ちなみにさっき新聞に書いてあった『勇者ルイス』は、前世でもかなりの実力者で私と最後まで勇者の試練をおこなっていた人物だ。


 まぁ……その時、私の方がレベルも高くて強かったし、オリビアたちも全員上級職だったから、先に精霊の加護をもらい、勇者の試練を乗り越えて勇者になっただけなんだけどね。だからこの人生ではルイスが勇者になるのは納得だ。


「それよりイデア。時間大丈夫なのか?今日の試験って何時からなんだ?」


「え?あれ試験って今日でしたっけ?やば!」


 私は急いで準備をする。この5年間自由に生活してきたからなぁ。本当にこういうところはダメな大人になってしまったかもしれない。そして準備を終えて、家を出ようとした時お父様に呼び止められる。


「イデア。これを持っていけ」


「これは……剣?」


「……騎士団の時のオレの剣をお前用に作り直してもらったんだよ。良かったら使ってくれ」


「お父様……。ありがとう。それじゃ行ってきます!」


 この剣はお父様の思いが詰まっている。あの時、私の選択で片腕を失ってしまったお父様。だからこそ私はその思いも背負っていく。


 そして馬車に乗り向かう先はもちろんローゼリア王城。今日は騎士団の入団試験の日なのだ。新たな一歩目を迎える大切な日。私は自分の『金』のステータスカードを見つめる。


【名前】イデア=ライオット

【年齢】22

【種族】人間

【性別】女性

【属性】全属性

【クラス】転生勇者

【レベル】175

【スキル】『剣術LV.MAX』『全属性魔法LV.MAX』『回復魔法LV.7』『魔法剣LV.MAX』『全属性耐性』『精霊の加護』『状態異常耐性』『気配察知』『鉄壁』『神速』『威圧感』『統率力』『カリスマ』


 この5年間で全属性の魔法と魔法剣を極めることができた。今更ながら私は元から全属性の素質があったらしい。


 あとは攻めることよりも守ることを意識していたら『鉄壁』のスキルを習得した。そしてあのローゼリア王国最強の女騎士と言われていたクリスティーナさんの動きを参考にしたら『神速』というスキルを手に入れた。おそらくクリスティーナさんも同じスキルを持っているのかもしれない。


「よし!着いた。さて、行きますか!」


 私は馬車を降りて城門をくぐる。するとそこには大勢の受験者が集まっていた。


「結構多いのね……。それに私より若い子ばかり……」


 どうやら皆、受験しに来た王立学園の卒業生のようだ。私は受付を済ませると、指定された訓練場へと移動する。


「あの人すげぇ美人だ」


「胸デカいな。スタイル良すぎだろ」


「髪の色と瞳が綺麗だね」


「なにあの赤いリボン。ダサいわね」


「なんか強そうには見えないんだけど」


「オレ、声かけようかな」


「抜け駆けするんじゃねぇよ」


 こらこら。ここは出会いの場じゃないわよ……そんな声を聞き流しながら私は用意された場所へと向かう。


 そして開始時刻になり、1人の女性が声を上げる。


「それではこれより騎士団の入団試験を始める。まずは筆記テストからだ。全員、速やかに移動しろ」


 そして私たちは案内された場所で座学のテストを受ける。内容は簡単なものですぐに終わった。その後は各グループに分かれ実技の試験が始まる。


「次、イデア=ライオット。前へ」


「はい」


 私は立ち上がり前にいる対戦相手を見る。その男は私の姿を見てニヤリとする。


「相手は女かよ。まあいいや。さっさと終わらせるか」


「あなたが私の最初の相手ね。よろしく」


「あ?なめてんのか?すぐにぶっ飛ばしてやるよ!」


 そして審判役の教官が合図を出す。


「はじめ!」


 相手の男がいきなり飛びかかってくる。私はそれを軽く受け流す。


「はぁあああっ!」


「遅いわね。それじゃこんな攻撃当たらないわよ?」


「な……!?ならこれでどうだ!」


 そう言って今度は連続で斬りつけてくる。でもそのどれもこれも単調で避けやすいものばかりだった。所詮学生あがりなんてこんなものよね?


「……飽きたわ。そろそろいいかしら」


「なんだと……うぐぅ!?」


 男の首に手刀を入れ気絶させる。これで終わりか。思った以上に簡単だったわね。これなら騎士になるのは問題なさそうね?

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