43. 蘇る記憶
「まずはどこに行こうかしら?」
「どこって言われても……」
私たちは宿屋を出ると、とりあえず街中を散策することになった。しかし、このカトラス王国の街は初めてなので、どこを見ても新鮮で目移りしてしまう。
フレデリカ姫様はずっとウキウキした様子で歩いている。その姿はとても嬉しそうで、見ているこっちも楽しくなる。
「ねえイデア!あそこのアクセサリー屋さんに行きませんこと?」
「はいはい」
私はフレデリカ姫様に手を引かれながら、ある小物屋の前まで来た。そこは装飾品を中心に販売している店で、色んなものが並べられていた。
「可愛いものがいっぱいありますわね!」
そう言いながら、店内に置いてあるものを手に取ると、私の方に見せてくる。それは花の形をした髪飾りだったり、猫や犬といった動物の形を模したブローチなど、様々な種類のものがある。どれも女の子が好きそうなデザインばかりだ。
フレデリカ姫様は目をキラキラさせながら、それらの品物を眺めている。そんな姿に思わず笑みが溢れる。こういうところは年相応というか、普通の女の子なんだよね。
普段は大人びていて、どこか威厳を感じさせるのだが、今はそんな面影は一切ない。まるでプレゼントを買ってもらう前の子供みたいにはしゃいでいる姿を見ていると、自然と微笑ましく思ってしまう。
「どれがいいかしらね~」
「こんな平民が買うような物でいいんですか?」
「あら?あなた私をそんな傍若無人な高飛車なお姫様だと思っているの?失礼ね」
「……『所詮平民は平民ね。身の程をわきまえることね!』って言われた記憶が私にはあるんですけどね?」
「そんなこと言ったかしら?覚えがないわね。」
言ったよ。間違いなく私にファイアボールをぶちかましたあの入学式のときにね!本当に都合の悪いことは忘れるんだから。
「でも……私もあなたのおかげで変われているのかもしれませんわね……」
「ん?なんか言った?」
「なんでもありませんわ」
フレデリカ姫様はそう言うと、再び商品へと視線を落とす。本当は聞こえてるけどね。私の方こそフレデリカ姫様のおかげだと思ってるんだよ。あの日、フレデリカ姫様と出会えなかったら、こうして王族の護衛なんて務まってなかったと思う。だから私は感謝してるし、これからも友達として支えていきたいって思ってる。
それからしばらくショッピングを楽しんで、街の広場で休むことにする。
「はー楽しいですわ!」
「そりゃよかったですね」
「あ、そうだ。イデア。あなたあの時計塔の鐘の音を聞いたことがある?」
「いえ……聞いたことはないですね」
「そう。実はね、あそこには鐘があって、毎日決まった時間に鳴るように設定されているの。このカトラス王国のシンボルみたいなものなのよ?」
へぇ。そんなものもあるのか。知らなかったな。というかあんなところに時計塔なんてあったっけ……。その時、私は不思議と違和感を感じる。そして胸の鼓動が速くなっていく。あれ?なんだろうこの感じ。嫌な予感しかしない。
私は無意識に周りを見渡す。しかし特に変わった様子はない。目の前には街の人たちが賑わいを見せている。
そうか……違和感の正体はこれか
「どうしたんですの?」
「いえ。なんでもない」
そして前世の記憶が蘇ってくる。私は知らないんだ。この平和なカトラス王国を。だって前世ではカトラス王国は魔王軍の幹部によって滅ぼされているのだから。