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39. 忠告

39. 忠告




 とりあえずフレデリカ姫様に巻き込まれた模擬戦を終えて、私はフレデリカ姫様と共にお城の中にあるフレデリカ姫様の部屋へと向かっていた。


「フレデリカ姫様。それでさっきのお話の続きなんですが」


「ああイデア。敬語なんてやめてちょうだい。フレデリカで構わないわ。私たち親友でしょ?」


「え?いや、それはちょっと……」


 いくらなんでも姫様を呼び捨てにはできないでしょうに。学園ならともかくここは王城なんだから。


 そんな会話をしていると、目の前から見たことのある人物が歩いてくる。忘れもしない眼鏡に白衣、そしてやや強調気味のお胸。


「あら?お久しぶりねイデア=ライオット。2年ぶりくらいかしら」


「ルージュ所長?」


「イデア。ルージュと知り合いだったんですの?」


 知り合いというほどじゃないけどね。この人は魔導科学研究所の所長ルージュ=ベルベットさん。


 王立学園の初めての実技訓練の時『ゲート』を壊したことで、少し追及されたんだっけ。あのあと警戒していたけど、特に何もされなかったんだよね。もう会うこともないと思っていたけど。まさかこんなところで出会うなんて。


「はいフレデリカ姫様。以前学園で一度だけ会ったのよ……」


「そうでしたのね。それで、ルージュはどうしてこちらに?」


 フレデリカ姫様がそう尋ねると、ルージュさんは不思議そうな顔で答える。


「もちろん仕事ですよ。少し気になることがあって。先程終わって帰るところなんですよ。そう言えばフレデリカ姫様。国王がお探しになっていましたよ?勝手に模擬戦をおこなったとかで」


「まぁ、父上がですの?まったく……面倒ね。ちょっと行ってくるわ。イデア先に部屋に戻っていて」


「え?」


 そう言ってフレデリカ姫様は行ってしまう。ちょっと待って……私をルージュ所長と2人きりにしないでよ……。


「……暇になったわね?」


「えっと……」


「少しあなたに話したいことがあるの。時間をもらえないかしら?」


 ……最悪だ。なんだろうこの展開。私はこの人のことが苦手だ。できれば関わり合いになりたくないんだけど。でもここで断るわけにもいかないか。仕方ない、覚悟を決めよう。


 私たちはお城の庭園にあるベンチに腰掛けると、ルージュさんは早速本題に入った。どうせあの時のステータスカードのことでしょ。わかっているんだよ私は。


 私はそのステータスカードのことを根掘り葉掘り聞かれるのだろうと予想していたが、彼女の口から出てきたのは全く違うことだった。


「あなた。一時的にフレデリカ姫様の『姫騎士』になったのよね?」


「え?あっはい」


「なら気をつけて。カトラス王国の王都から強力な魔力を感知したわ。そうね……あの時以上の魔力。だから何かあると思ってこうして警告に来たんだけど、謁見は中止にはできないと言われたわ」


 このままじゃもしかしたらカトラス王国に『ゲート』が現れてしまうってこと?それなら早くなんとかしないと。


「……名前イデア=ライオット。年齢17。種族人間、性別女性、属性炎水光……」


「え?」


「……私は鑑定のスキルを持っているわ。あの時、もちろんあなたのことは調べさせてもらった。だからこそあなたが頑なにステータスカードを見せない理由が分からなかった」


 そりゃそうだ。ステータスカードの色が『金』だからね。絶対に見せることはできないよ。でもまさかこの人が私のことを鑑定していたなんて……。やっぱり苦手かも。


「でも、そんなことはどうでもいい。あなたは私たちの希望なのかもしれないから」


「希望?大袈裟です。それにまだ本当に『ゲート』かどうか分からないじゃないですか」


「……そうね。とりあえず忠告はしたわよ?」


 そう言うとルージュさんは立ち上がり、そのまま振り返らずに立ち去って行った。一体何が言いたかったんだろうか。ただの注意喚起ならわざわざ私にまで言う必要はなかったと思うけど。まぁいいか。とりあえずフレデリカ姫様の部屋に戻ろう。



 ◇◇◇



 研究所へ戻る道中。ルージュは先ほどの会話を思い出していた。


「……『ゲート』か。なぜその名前を知っているの?その名前は魔導科学研究所の中でしか使われないはず。誰かから聞いた?いえそれはないはず。やっぱり彼女には……いえ、ありえないわね。あの子が……イデアが『鍵』である可能性は十分高いのだし」


 ルージュはそう呟きながら、研究所へ戻って行くのだった。

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