36. 強さ
なぜかローゼリア王国最強の女騎士と名高い副団長のクリスティーナさんと模擬戦をすることになった私。
そして訓練所には大勢の騎士が私とクリスティーナさんの模擬戦の様子を見ようと集まっている。その中にはお父様の姿もあって、そして会話が聞こえてくる。
「まさか娘が副団長と模擬戦をする日が来るとはな……感慨深いな」
「副団長はこの前レベルがなんと70に達したらしいですよ?」
「娘さん大丈夫ですか?」
「まぁ勝てないだろうな。何事も経験だ。おーいイデア!遠慮なく副団長の胸を貸りてこいよー!」
お父様まで……。とりあえず無様な姿は見せられないよね。そう意気込んでクリスティーナさんの方を見ると、彼女は微笑みながら言った。
「ふふっ。やる気満々ね。手加減はしないわよ?」
「はい。望むところです。」
こうして私にとって初めての本格的な模擬戦は始まった。私とクリスティーナさんは訓練所の真ん中に移動する。他の騎士たちは少し離れたところから私たちを見ている。
「それではこれより、フレデリカ姫様の御前の模擬戦を開始する。ルールは魔法無し、剣技のみとする。両者構えて……」
「ちょっと待ったぁ!」
審判役の人が始めようとする中、突然1人の騎士が大きな声を出して止め、そのまま私の前に立つ。
「副団長を相手にする前に、このオレと戦え。このオレがお前の力を見てやる」
えぇ……いきなり何この人……。そしてその騎士はフレデリカ姫様に話す。
「フレデリカ姫様。まずはオレが手合わせしても構いませんよね?」
「そうね。よろしくてよ」
「ありがとうございます」
私がよろしくないんだけどさ。勝手に決めないでよ……。そんなことを思っていると周りにいた騎士たちから驚きの言葉を聞くことになる。
「おい。あいつ今年入ったばかりの新人だろ?」
「でも確かあの男って……この間の制圧戦で大活躍したっていう、期待のルーキーだよな?」
「ああ。『烈風のレオニード』確かレベル60超えたとか。すごいな……」
は?今なんて?私の聞き間違いじゃなければ『烈風のレオニード』とか言ってた気がするんですけど?私は目の前の人物を良く見る。
……草。レオニードってあのレオニードじゃん。こんなところで出会うなんて、もうフラグ立ちまくりなんだけど。
レオニード。前世では私と共にパーティーを組んで魔王と戦った人物。剣聖レオニード。剣の腕なら私よりも上だったかもしれない。彼は勇者である私の背中を任せられるほど優秀な剣聖でもあった。
「なんだ?今さら怖じ気づいたのか?」
「いえ。ただ驚いていただけです……」
まさか元パーティー全員と出会うなんて思ってもいなかったし、しかもこのタイミングで遭遇するとか……。神様のイタズラかな?そうよあの女神の仕業よきっと。
とりあえず今はレオニードと戦うしかないか。レベル60でも私の半分以下だし、ちなみにクリスティーナさんのレベル70も私の半分以下だ。
「はじめ!!」
「うぉおお!!」
合図と同時にレオニードが斬りかかってくる。威力はあるみたいだけど問題はない。レオニードはそのまま素早い斬撃を繰り出すが、私はそれをすべて捌く。でも、さすがは剣聖だけはあるわね。集中力を切らしたらすぐにやられるわよこれ。私は一呼吸おいて再び剣を構える。
「くらえオレの全力だ!旋風斬!!!」
レオニードの持つ片手剣が緑色のオーラに包まれ、横薙ぎに振るわれる。だが、私はそれを容易く受け止める。
するとレオニードは動きを止め、私に話しかけてくる。
「……お前名前は?」
「え?イデア=ライオットよ」
「そうか。オレはレオニード。この勝負オレの負けだ」
「は?」
急に何を言っているのこいつ?というかさっきまでの威勢はどこへいったのよ?
「何を言い出すのよ?そっちこそ怖じ気づいたの?」
「いや。その逆だ。お前の強さに感銘を受けたんだよ。オレはまだまだだ。邪魔をしてすまなかった」
「別に私は何もしてないわよ?」
「オレは全力で戦った。……見てみろ。お前はオレの攻撃をすべてその場所から一歩も動かず防いだ。これ以上は時間の無駄だろう。イデアお前の勝ちだ。」
そう言うとレオニードはどこか満足したような表情を浮かべて後ろに下がる。そしてフレデリカ姫様の方に向かって言った。
「姫様。無粋な真似をして申し訳ありませんでした」
「いえ。あなたレオニードだったかしら?覚えておくわ」
「はい。ご迷惑をおかけしました。それでは失礼します。」
こうしてレオニードとの模擬戦は終わった。素直に負けを認める辺り、やっぱり強い。これがレオニードの強さだったわね。次はもっと強くなってるに違いない。
変わらないなぁ……。そのレオニードの姿を見て、懐かしさを覚え少し嬉しく思うのであった。