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21. 私もないよ

21. 私もないよ




 実技訓練の前日。放課後、私はオリビアに呼び出されていた。夕日に染まり始めた教室で、オリビアは不安そうな表情を浮かべて立っている。


「あ、あの、イデアさん……」


「どうしたの?何かあったの?」


「いえ……あの……えっと……イデアさんは、魔物と戦ったことありますか?ほ、他のクラスの子は、みんな戦ってるって聞くんですけど……ど、どんな感じなんでしょう……。私、少し怖いんです」


 オリビアは、目を伏せながら震える声で尋ねた。確かに、実技訓練は学園が所有しているダンジョンで行われるらしいからね。魔物とは、この人生では戦ったことがないけれど、多分大丈夫だと思う。


 それにしても、オリビアは相変わらず可愛い。守ってあげたくなるタイプだ。これは、男どもにはモテモテだろうな……まぁ、私が守るんだけどね!オリビアは、胸の前で手を組みながら、不安そうな顔をしている。うーん。私がオリビアの立場だったら、きっと同じように怖がっていたと思う。


 だけど、私は前世でギルド冒険者もやっていたし、魔王討伐の旅に出たときも魔物と戦っていたし。まぁ、慣れっこだ。それに、魔族や魔物との戦いは日常茶飯事だったし、今さら怯えたりなんかしない。


 でも、今のオリビアは普通の女の子だ。いきなり戦いなさいと言われても無理だろう。


 ……待てよ?この実技訓練で、魔物の怖さを実感すれば、オリビアも魔王を倒しに行こうなんて思わないんじゃないだろうか?よし!ここはひとつ、オリビアにしっかり現実を知ってもらって、諦めさせよう!そう決意すると、私は笑顔を浮かべた。


「あの、イデアさん?」


「え!?あー……うん。私も戦ったことないよ」


「え!?そうなんですか?なんだ……私だけじゃないんだ……良かった」


 オリビアは、安堵した表情を浮かべた。あれ?なんか思ってたのと違う反応なんだけど……


「それなら、一緒に頑張ろうね、イデアさん!」


「あっ、うん」


 なんか逆効果な気がする。もっと怖がるかと思ってたのに。これだと、ますますやる気が出ちゃいそうだよ。そして翌日、実戦訓練当日となった。私たちは、制服ではなく動きやすい服装に着替えて、集合場所である校庭に集まった。生徒たちは皆、緊張しており、中には顔色の悪い子もいる。やはり、魔物と戦うという恐怖心があるのだろう。


「はい、皆さん揃いましたね。これより、実技訓練を始めます。今回はダンジョン攻略ですので、班分けを行い、それぞれのグループでパーティーを組んでもらいます。そして、ダンジョン最下層まで行ってもらい、そこで待機していた先生の指示に従って地上に戻ってきてください」


 先生が、生徒たちに向かって説明を始めた。この学園所有のダンジョンは、確か5階くらいまでのはず。低層階は、スライムとかゴブリンなどの低ランクの魔物しか出ないはずだ。だから、そこまで危険はない。


「イデア。あなた、緊張してませんのね?さすがですわ」


「そ、そんなことないよ。ちょっとはドキドキしてるよ!」


「そうかしら?私には、そんな風に見えませんけど?」


「あはは……」


 私は、愛想笑いを浮かべるしかなかった。そういうフレデリカ姫様も緊張してなさそうだけどね……オリビアは……やっぱり緊張しているみたい。顔が強ばっている。これは、私がしっかりサポートしないとな。


 その後、ダンジョンに行く前に、ダンジョンについての注意事項や各階層の特徴などを教えてもらった。そして、いよいよ出発だ。


 ダンジョンの入り口は山の中にあり、入り口付近は木々が生い茂っていて薄暗い。まるで、私たちを飲み込もうとしているように感じる。


「さぁ、着きましたわね。準備はよろしくて?イデア、オリビア」


「私は大丈夫」


「私も……です!」


 オリビアは、まだ少し緊張しているようだ。確かに、このダンジョンの外観は、なかなかの緊張感だよこれ。そして、先生の合図とともに、生徒たちは一斉に中へと入っていった。


「じゃあ、私たちも行こっか。私が前を行くから、後ろはフレデリカ姫様、オリビアお願いね」


「ええ」


「はい」


 そう言うと、私たちはダンジョンの中へ足を踏み入れた。


「へぇ~、結構明るいんだ」


 洞窟のような見た目だけど、壁自体が光っており、思ったよりも明るくなっている。これなら、松明やランタンは必要ないかもしれない。私は、周りを見渡しながら先頭を歩いていく。そしてしばらく歩くと、早速魔物が現れた。


 魔物の名はグリーンウルフ。レベルは5で、数は3匹。一匹はフレデリカ姫様に任せて、残り二匹の相手は私がしようかな。そう思いながら、私は剣を抜こうとすると、後方から大きな火の玉がグリーンウルフに襲いかかり、爆発する。そして、あっという間に丸焦げにした。


「フレアボールですわ。グリーンウルフごとき、こんなものよね?」


「一瞬で丸焦げに、凄いです。フレデリカ姫様!」


「ちょっと、フレデリカ姫様!ここはダンジョンんですよ。下手したら、私まで巻き込むかもしれないし、トラップも起動するかもしれない。あとは、大きな物音で他の魔物も……」


 私がそこまで言いかけると、二人はキョトンとしている。


「イデア……ダンジョンに随分詳しいんですのね?」


「なんか、ベテラン冒険者みたいです……」


「あっ。いや、本!本に書いてあったの!とりあえず、気をつけて!勝手に行動しない!」


「分かりましたわよ。なんで、そんなに怒ってるんですの?」


 危ない危ない。つい、前世の感覚で言ってしまった。でも、本当にフレデリカ姫様には気をつけてもらいたいものだよね!

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