17. 感情
王立学園の実技訓練が近づき、私は自分の意思で剣を取った。魔法が得意なはずの私が、木刀を握りしめ、初めて素振りをしていた。そんな私の姿を、フレデリカ姫様が見ていたらしい。
そして今、彼女は私の隣に座っている。私に何か話があるらしいけれど一体何だろう?
「ん?……なに見てますの?私の顔に何かついてます?」
「えっ!?いや……ごめんなさい。つい見入っちゃって……」
私は慌てて顔を背けた。だって、仕方がないじゃない!フレデリカ姫様はこんなにも可愛いのだから!同性でもドキドキしてしまう。こんな美人が隣にいるのだから、つい見惚れてしまうのも無理はない。しかし、さっきからずっと見ていたのがバレてしまった……恥ずかしい
「ふぅん……。まぁ、いいですわ」
「そっ、それより、話って?」
「イデアはどうして剣の練習をしていたのかと思って。あなたは魔法の方が得意でしょう?」
「あー。それは……ちょっとね。それよりフレデリカ姫様こそ、なんでここに?」
私は、自分のことを誤魔化すように、逆にフレデリカ姫様に質問を投げかけた。
「私は……その……あなたに私のことを知ってほしくて」
フレデリカ姫様のことを知る?どういうことだろう?私が不思議に思っていると、フレデリカ姫様はそのまま話し始めた。
「あなたに何の説明もなしに、側近になってほしいと言ってしまったから。きちんと話をしておきたいと思いまして……」
「あー。うん」
「私はこの国の第一皇女です。そして今、世界は魔王の脅威と戦っている。日に日に魔王軍の勢力も強くなっていますわ。この世界を救うために、のちに勇者の試練を乗り越える者がこの国から必ず出る。そうなれば、私はきっとその勇者と婚約することになるでしょう」
「……」
確かに、そうかもしれない。フレデリカ姫様はフレデリカ姫様で、王族としての宿命を背負っている。
「でも、私はそんな決められたレールの上を歩くような人生を送りたくはないのです!自分のことは自分で決めて、自由に生きたいわ!だから私は、私のやり方で、私の意思を貫くために強くなりたい。ただ、それだけなの!」
フレデリカ姫様は、真剣な眼差しで私を見つめてくる。そして、私の手を掴んだ。
「フレデリカ姫様……?」
「イデア。あなたは将来、必ず私には必要になる。その『金』のステータスカードは裏切りませんわ。だから、今からあなたを予約しておくのです。必ず強くなってくださいまし。私と共に。そして、私を助けてください」
「うっ、うん」
私は、思わず返事をしてしまう。だって、フレデリカ姫様の目が、あまりにも真っ直ぐだったから。
「イデア……ありがとう。約束しましたわよ?絶対ですわよ?」
「う、うん」
「では、また明日。学園で会いましょう」
フレデリカ姫様は、そう言うと、夕日に向かって歩き出した。私は、彼女の姿が見えなくなるまで、その場で見送った。そして、手に握りしめた木刀を見る。これは、誰に言われたわけでもなく自分の意思で行ったことだ。
私は……何を迷っているのだろう?『魔王と戦いたくない』『勇者にはならない』それは、今でも思っている。それがこの二度目の人生に転生した理由だ。
それでも……
フレデリカ姫様のために……そう、心のどこかでは思っているのかもしれない。