15. 諦めませんわ
翌日、私はオリビアと一緒にいつもの席についていた。昨日のフレデリカ姫様の言葉が、まるで耳鳴りのように頭の中で反響している。
『側近になれ』だなんて、冗談じゃない。一体何を考えているんだろう。あんなことを言われたところで、私にはどうすることもできない。
色々と考えを巡らせてみたけれど、結局、何の解決策も見つからなかった。八方塞がりとは、まさにこのことだ。ただ一つ、幸いだったのは、私のステータスカードの色のことを知っているのが王家だけらしいということ。フレデリカ姫様が黙ってさえいてくれれば、この件は水面下で終わるはずだ。
「それで?昨日、お姫様から呼び出しを受けて、一体何があったんですか?」
オリビアが、好奇心を隠そうともせずに尋ねてきた。その瞳は、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。
「それがね……お姫様の側近になれ、とか言われたのよ」
「ええ!?すごいじゃないですか!お姫様の側近なんて、誰もが憧れる立場ですよ?王族の方の側仕えになれば、将来安泰ですし!私も……安定してお金が欲しいですから。ふふふ」
オリビア。今、思いっきり本音が漏れてるわよ?まあ、そんなに簡単な話じゃないんだけど。そもそも、フレデリカ姫様が勝手に言ってるだけで、国王が許可するとは思えない。だって、私はただの王立学園の生徒だし……今はね。
「隣、よろしくて?」
突然、頭上から声が降ってきた。顔を上げると、そこに立っていたのは、フレデリカ姫様だった。
「あっはい。……へ?はぁ!?フレデリカ姫様!?なんで私のクラスに!?」
「騒がしいですわ、大きな声を出さないでください。そんなの、編入したからに決まってますわ。昨日言ったじゃないですか、あなたが断ったとしても私は諦めませんと。それに、学園の許可はもらってますわ」
いやいや、そういう問題じゃないんだけど!?
「あの、あの!私はイデアさんの親友のオリビアです。良かったら仲良くしてください!」
「あら?イデアの親友なら、私の親友でもありますわ。もちろん、こちらこそ仲良くしてくださいね?」
フレデリカ姫様は、優雅な微笑みを浮かべながら、オリビアの手を握り返した。私の目の前で、二人が楽しそうに会話をしている。一体、何が起こってるの?
「ところでイデア。昨日の話ですけど、あなたは一体どうするんですの?受けるんですの?受けないんですの?はっきりなさい」
「えっと……その……」
うぅ……困ったことになった。ここで断れば、この国の王女に恥をかかせることになる。最悪の場合、問題になって、私の人生が終わってしまう。
「あの、フレデリカ姫様?ありがたい話だけど、私はまだ学生だし、国王が認めてくれないでしょ?」
「うーん……それもそうね。それなら、今は我慢してあなたとの仲を深めていくことにするわ。まずはお互いのことをよく知るべきですし」
なんで、こんなに気に入られてるんだろう、私?この姫様、初対面の時に私にファイアボールをぶちかましたことを忘れてるの?というか、別人じゃないかと疑うくらいなんだけど。
「はぁ……もう、好きにしてちょうだい」
私は、疲れ切った声でそう答えるのが精一杯だった。こうして、私はなぜかフレデリカ姫様と友達になってしまった。まあ、悪い気はしないけど、変なフラグだけは立てないように気をつけないと。
フレデリカ姫様が私のクラスに来てから、1ヶ月が経った。なんだかんだでクラスメートとも仲良くしているし、意外と社交的で慕われている。私のステータスカードのことは、さすがに誰にも言っていないみたいだけど……。
ある日のお昼休み、フレデリカ姫様が私たちに話しかけてきた。
「イデア、オリビア。今度の実技訓練のことなんだけど、私と一緒に組んでくれますわよね?」
「あー。そんなのがあるって先生が言ってたわね」
「私も誘ってくれるんですか?ありがとうございます」
「もちろんよ。オリビアの光の魔法や回復、補助魔法は私より優れていますし、将来は教会騎士か……賢者とかになれると良さそうですわね?」
はい!?一体、何を言い出すの、このお姫様は!変なフラグを立てないで!私はフレデリカ姫様の言葉を聞いて、オリビアの肩を掴んで必死に説得した。
「オリビア!賢者なんか絶対にやめといた方がいいよ!」
「えっ……?」
「なんでイデアが必死なんですの?」
「えっ!?ほら!オリビアは優しいから、人々のために回復魔法が活用できる場所で働いた方が向いてるって!」
今のうちから、危ないフラグは回避しておかないと。本当にまずいことになる。
「そ、そうですよね!私みたいな落ちこぼれが賢者になって、戦ったりしても意味ないですもんね……」
オリビアは、しょんぼりと肩を落とした。違うのぉ!!そんなこと言ってないし!!
「イデア?何を言ってるんですの?オリビアには賢者になる才能があるんですよ?なのになぜそんなことを言うんですの?」
あなたは黙ってて。私の気持ちも知らないで!私はこの人生を、前世と同じようには絶対にしないんだから!