9. 決闘宣言
私はその日の学園から家に戻ってきた夜のこと。もう一度ステータスカードを確認することにする。驚きすぎて細かいところまで確認できてなかったから。部屋の明かりを落とし、静かにカードに魔力を込める。
【名前】イデア=ライオット
【年齢】15
【種族】人間
【性別】女性
【属性】水
【クラス】転生勇者
【レベル】118
【スキル】『剣術LV.MAX』『水属性魔法LV.5』『全属性耐性』『精霊の加護』『状態異常耐性』『気配察知』『統率力』『カリスマ』
うん。やはりこのステータスカードが壊れているわけではなさそうだ。つまり私は前世の能力をそのまま受け継いでいて、この人生で更に魔法を習得したから剣と魔法が使えると。しかも本来勇者の試練を乗り越えた者しか持たない『精霊の加護』まである。
「…………」
ということは、私は現状この世界で最強の存在になっているのではないだろうか?そもそもレベル100を越えている人間はいないから。それなら魔王にだって……。
はっ!!いやいや!危ない危ない!これはトラップね。私にまた魔王を討伐させようとあの女神がわざとこういう風に設定したに違いないわ!
……でも、今回は絶対に魔王とは戦わない!そう決めたから『女』として転生したんだし。
じゃあ何のために……私はそこまで考えて思考を停止する。
「はぁ……考えるだけ無駄ね」
こうなったらとにかくこのステータスのことは誤魔化さなきゃいけない。もしバレたら私の平穏な学園ライフが終わってしまう。
大丈夫。魔法だけならまだ私はそこまで目立つような能力じゃない。このままうまく立ち回ればいけるはず……。
私は自分にそう言い聞かせてベッドに入り眠りについた。明日の学園生活が、どうか穏やかに過ぎますように。そう願いながら。
次の日の朝、いつも通り登校する。教室に入ると、クラスメートたちがこちらを見てヒソヒソと話しているようだった。まだ私に対する印象が最悪なんだろうなぁ……本当に迷惑よねあのお姫様。
「おはようオリビア」
「あ。イデアさん……おはよう」
オリビアは私に気づくと少し気まずそうな顔をしたあと、笑顔で挨拶をしてくる。私もそれに返すと、オリビアは私に小声で話しかけてきた。
「あの……今日の授業のこと聞いてる?午前中は座学で、午後からは演習場で学年の実技の授業があるみたいなんだけど……」
「うん。それがどうかしたの?」
なんだろ?私がそう答えると、今度は困ったように眉を下げて申し訳無さそうにしている。すると勢いよく扉が開いて1人の貴族の男が私に近づいてきた。
「おい。お前かフレデリカ様とやりあった女は?姫様に逆らってこのクラスでやっていけると思うなよ平民風情が!」
は?私はいきなり高圧的な態度を取られムッとする。というかこいつ誰よ?いきなり出てきて偉そうに……。あ!思い出した。確かこいつは公爵家のボンクラ息子だったかな?
名前は……マークスだっけ?確か一応フレデリカ様の婚約者候補の1人。前世では勇者の試練を何度も邪魔してきた奴だ。まさかここでも邪魔する気なのかしら?
「なになに?あんた誰?」
私は内心イラつきながらも、なるべく冷静さを装いながらマークスに向かって質問する。
「オレはローゼリア王国四大公爵家のひとつロックレード家の当主の息子。マークス=ロックレードだ。いいか?今からオレの言うことをよく聞け。姫様に楯突いた不届き者の貴様に決闘を申し込む!!」
ほら来た。やっぱりね。予想通りの答えが返ってきたことに、私は思わずため息をつく。
「なんで私がそんな面倒なことをしなくちゃならないのよ?大体その決闘って誰が決めるの?学園長かしら?それともそれこそ王家?どっちにしても私は受けるつもりはないから。お断りよ。わかったらとっとと消えなさいよ。目障りだから」
私はこれ以上話すことはないとばかりにシッシと手を振る。
「き、貴様ぁ~!!生意気な口を利きやがって!後悔させてやる!今日の午後の演習場の授業のときにだ!」
「は?なんでわざわざ?」
「うるさい!黙れ!お前が負けたらこのクラスごと父上に頼んで学園から追放してやるからな!逃げるんじゃねぇぞ!」
「はいはい。わかりました~。じゃあね~」
私は捨て台詞を残して去っていくマークスを見送る。厄介なやつに絡まれたわ。そして気がつくとクラスメートが全員こちらを見ていた。あれ?どうしたの?