5. 気まぐれ ~女神リディアside~
この世界の因果律を管理する女神。彼女の名前はリディア。彼女は静かに水晶玉を見つめていた。その瞳に映るのは、つい先日、気まぐれで世界の最難関ダンジョンに置いた魔法アイテムの遺物を使った勇者の姿だった。
今までも何度かその遺物を置いていたが、実際に使われることはなかった。というより、『本当に必要な人物』がいなかった。
しかし今回は違った。
「さてさて。今のところ順調に生きてますね。それにしても……まさか性別を逆に転生するとは思いませんでした。エルク……いや今はイデアでしたね。」
女神リディアの仕事は世界の秩序の管理。それは、まるで巨大な織物を織り続けるような、終わりなき作業だった。こうやって特定の人物の生涯を監視することは、本来あってはならないし、今までもなかった。だってどんなに抗っても結末は変えることなどできない。それが運命だから。
でもまさかあの時、『魔王とは戦いたくない』と言われると思っていなかった。予想外の回答に驚いたのも事実。しかしそれで不思議と興味が湧いたのだ。そしてもしかしたらその運命すら変えてしまうのでは?と期待を持ったのも事実。
「……あなたの人生はまるで黙示録」
黙示録とは、「隠されていた事を明らかにした」という意味がある。つまり「秘密の暴露」である。リディアは、イデアの人生が、まるで隠された秘密が暴かれる黙示録のようだと感じていた。
「でも、一度動き始めた因果は正しい道筋に修正しようとしていきます。あなたはその因果に抗い、今回の人生も精一杯輝きを見せてください。これは『イデアの黙示録』なんですから」
そう微笑みを浮かべ、女神リディアは水晶玉を覗く。そこには長い金髪を赤いリボンで結んだ少女が映っていた。その瞳には、強い意志と、未来への希望が宿っていた。リディアは、その瞳に、世界の運命を変える可能性を見た。