1. プロローグ
ここは王都ローゼリア。今ここに魔王を討伐するために1人の女性が旅立とうとしていた。
「準備はよろしくてイデア?」
「はい……」
魔王を討伐するために出発した勇者が倒れたとの一報が入り、その勇敢な女性は自ら立ち上がった。彼女の名前はフレデリカ=ローゼリア。この国の第一皇女にして王位継承権も高く次期女王となる人物だ。
そしてフレデリカに付き従うは騎士団最強と呼ばれる女性騎士のイデア=ライオット。長い金髪を赤いリボンで結び腰には剣を携えている。その立ち振る舞いからして只者ではない雰囲気を醸し出していた。
「では他の仲間と合流して出発しますわよ」
「はぁ。はい……」
そして……なぜか乗り気ではない。それもそのはず彼女には理由がある。『魔王を討伐する』こうならないように生きてきたはずだったのだから……。
彼女はこの時こう思っていた。『どうしてこうなった?なんのための2度目なのか』と。
◇◇◇
~遡ること20数年前~
目の前に強大な負の魔力を感じる。まさか……まさかここまでの力の差があるなんて……。なんでこんなことに……。
「どうした勇者エルクよ?その程度か?」
「ぐっ……魔王め……」
「ふはは!まだそんな口をきけるとはな!だが、もう終わりにしてやろう!」
そう言うと魔王は手を振りかざし、禍々しい闇の波動を放った。
「うわぁぁあああ!!!」
そしてそれはオレたちを飲み込んだ――――
どうしてこうなった……?
どこで間違えたんだ……?
間違いなく魔王を倒せる力をつけてきたはずなのに。最強の武器、最強の仲間……全てを手に入れたはずだったのに……いや、オレはそもそもなんで魔王と戦ってるんだ?
オレの名前はエルク=レヴェントン。この世界を救う勇者として今、魔王と対峙している。オレが周囲を確認すると、そこにはここまで一緒に戦ってきてくれた最強の仲間たちの姿があった。剣聖のレオニード、アサシンのアルフレッド、賢者のオリビア。上級職にも関わらず皆ボロボロだ。
「ほう。まだ立っているか勇者エルクよ?」
もうダメだ。体が動かない。視界もぼやけている。こんなところで死ぬのか?みんなごめん。オレのせいで……。オレが勇者になんてならなければ……
「これで最後だ!死ねぇぇええ!!!」
魔王の最後の一撃が迫ってくる。オレたちはここで全滅してしまうようだ。この世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。今現状この世界で最強の存在のはずなのに。それでも魔王には敵わないのか……
その時、オレはポケットの中にある物を掴んだ。そう言えば、少し前に最難関のダンジョンの最奥部で見つけた、何かの魔法アイテムらしき『スイッチ』。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。
「くらえ!!これがオレたちの全力全開だぁぁあ!!!」
オレはそのアイテムのボタンを押した。すると次の瞬間、突然目の前に白い光が溢れ出した。あまりの眩しさに目を開けていられないほどだ。
そしてしばらくしてようやく目が慣れてきて、周りを見渡すことができるようになった。するとそこには先程までいたはずの魔王はいなくなっていた。
「……ん?ここはどこだ?」
「ようこそいらっしゃいました」
突然背後から声をかけられ振り向くと、そこには一人の美しい女性が立っていた。
「誰だ!?」
「私は女神です」
「女神様……?」
「はい。あなたは神の遺物を使い、過去に戻ってきたのです。ここはあなたが産まれる前の時間軸の世界です」
……過去?多少混乱してるが、あの『スイッチ』はつまりタイムマシーンのようなものだったということだろうか?混乱している頭でなんとか考えていると女神は話し出す。
「エルク=レヴェントン。あなたは男に生まれて、幼いころから剣術を学び、ギルド冒険者となり、いつしか最強のパーティーを結成。そして勇者の試練を乗り越え、魔王の幹部を倒し、魔王と対峙しましたがその力の前に敗れた……かもしれない。というのがあなたの人生でしたね?」
「そ、そうだ……」
「残念ながら私の管理する世界では、あなたの人生はこれにて終了しています」
やはりオレたちは負けたらしい。
「でも安心してください。あなたはもう一度やり直すことができます。その神の遺物を手にできた者だけの特権なのです」
「やり直す?」
つまり……オレはまた魔王と戦うことができるということか。この『スイッチ』すごい物だったんだな。それなら今度は……今度は?
「もう一度赤ん坊からやり直して、勇者になって魔王を倒せばいいってことか?」
「……それがあなたの望む人生ならば」
「え?」
「勇者になり、魔王を倒したいのならそうすればいいということですよ?」
それは……なんでオレは勇者になったんだ?それは魔王を倒せば最強になり、地位や名声、金持ちになれると言う安易な考えだ。でもあの時、選んできた選択肢に後悔はなかった。魔王と対峙するまでは。
だから『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、ただのギルド冒険者として平和に暮らしていたほうが良かった。そして、オレには他にやりたいことがあったはずだ。しかしオレは何のために強くなりたかったんだっけ?オレは自分の心の奥底にある本当の気持ちに気づいてしまった。
「ふふ。そう言う選択肢がまた色々あります。今度こそあなたが望む人生を歩んでください。あなたにはその権利があります」
「ああ。せっかく2度目をやり直せるんだからな。後悔しないようにするさ」
「では。生まれ変わりの時です。」
女神は真っ直ぐオレを見て微笑み、両手を広げた。するとオレの体は光に包まれた。そして女神は最初の選択肢をオレに与える。
「さて……『性別』を選んでください」
「ありがとう。女神様。おかげで気づけたよ。オレは―――」
オレは決意する。それなら、人生を左右するすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避しよう。そして後悔しないように2度目の人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!それならこの最初の選択肢も逆に。そしてそのまま最後の言葉を告げた。
「もちろん今度は女として生きる!魔王とは戦わない!」
こうして、オレの新しい人生の幕が上がった――