1. プロローグ
ここは王都ローゼリア。荘厳な城壁と活気に満ちた市場が織りなす、まさに王国の心臓部とも言える場所だ。しかし、その賑わいの裏で静かにだが確かに、一つの大きな動きが始まろうとしていた。
1人の女性が、その重い足取りで城門へと向かう。彼女の名はフレデリカ=ローゼリア。この国の第一皇女であり、その美貌と聡明さで国民の尊敬を集める存在だ。しかし、今の彼女の表情は、いつもの穏やかな微笑みとはかけ離れていた。その瞳にはどんなことがあろうと前へと進もうとする強い意志が宿っている。
「準備はよろしくてイデア?」
「はい……」
イデア=ライオット。騎士団最強と謳われる彼女もまた、その表情を硬く引き締めていた。長い金髪を赤いリボンで結び、腰には磨き上げられた剣。その姿は、まさに戦場へと赴く女騎士そのものだった。しかし、その瞳の奥には、わずかながらも迷いの色が浮かんでいた。
魔王を討伐するために出発した勇者が倒れた。その知らせは、王都ローゼリアに衝撃を与えた。希望の象徴であった勇者の敗北は、国民に深い絶望をもたらした。しかし、そんな中で、フレデリカは自ら立ち上がった。彼女は王女として、この危機を乗り越えなければならないと強く感じていた。
「では他の仲間と合流して出発しますわよ」
「はぁ。はい……」
そして、2人は仲間たちが待つ場所へと向かった。しかし、イデアの心は重く沈んでいた。なぜなら、彼女には誰にも言えない秘密があったからだ。
それは、彼女がこの状況になることを誰よりも恐れていたという事実。
イデアは、心の中で呟いた。『どうしてこうなった?なんのための2度目なのか』と。
◇◇◇
~遡ること20数年前~
目の前に広がるのは絶望的な光景だった。強大な負の魔力が、大地を揺るがし空を黒く染め上げていた。
「どうした勇者エルクよ?その程度か?」
魔王の嘲笑が静寂を切り裂く。その声は、勝利を確信した者の余裕に満ちていた。
「ぐっ……魔王め……調子に乗るな……」
エルク=レヴェントン。世界を救うと期待された勇者は、今や地に膝をつき、必死に剣を握りしめていた。しかし、その身体は既に限界を超え、わずかに震えるだけだった。
「ふはは!まだそんな口をきけるとはな!だが、もう終わりにしてやろう!」
魔王はそう言い放つと、その手を振り上げた。そして、禍々しい闇の波動が、エルクたちを飲み込もうと迫りくる。
「うわぁぁあああ!!!」
エルクの絶叫が、闇の中に吸い込まれていく。
(どうしてこうなった……?どこで間違えたんだ……?)
エルクは、朦朧とする意識の中で自問自答を繰り返していた。最強の武器、最強の仲間。全てを手に入れたはずだった。しかし、それでも魔王には勝てなかった。
(いや、オレはそもそもなんで魔王と戦ってるんだ?)
エルクは自分の過去を振り返る。幼い頃から剣術を学び、ギルド冒険者となり、いつしか最強のパーティーを結成した。そして勇者の試練を乗り越え魔王と対峙した。しかし、その道のりは決して平坦なものではなかった。
剣聖のレオニード、アサシンのアルフレッド、賢者のオリビア。彼らはエルクと共に戦い、数々の困難を乗り越えてきた仲間たちだ。しかし、今の彼らは、満身創痍で、もはや戦える力は残っていなかった。
「ほう。まだ立っているか勇者エルクよ?」
魔王の声がエルクの耳に届く。エルクは自分がまだ立っているのかどうかさえ分からなかった。身体の感覚はなく、視界もぼやけていた。
(もうダメだ。体が動かない。こんなところで死ぬのか?みんなごめん。オレのせいで……)
エルクは、仲間たちに謝罪の言葉を呟いた。そして自分が勇者になどならなければ良かったと心から後悔した。
「これで最後だ!死ねぇぇええ!!!」
魔王の最後の一撃がエルクたちを襲う。その時、エルクはポケットの中にあった何かを掴んだ。それは、最難関のダンジョンの最奥部で見つけた、謎の魔法アイテム『スイッチ』だった。
(どうせ死ぬのなら、最後に一矢報いてやる!)
エルクはそう覚悟を決め、そのボタンを押した。すると目の前に白い光が溢れ出し全てを包み込んだ。光が収まった時、エルクは全く違う場所に立っていた。そこには、魔王も仲間たちもいなかった。
「……ん?ここはどこだ?」
エルクが呟くと、背後から声が聞こえた。
「ようこそいらっしゃいました」
「誰だ!?」
「私は女神です」
「女神様……?」
「はい。あなたは神の遺物を使い、過去に戻ってきたのです。ここはあなたが産まれる前の時間軸の世界です」
混乱しながらも、自分が過去に戻ってきたことを理解した。そして、女神はエルクにもう一度人生をやり直す機会を与えた。
「エルク=レヴェントン。あなたは男に生まれて、幼いころから剣術を学び、ギルド冒険者となり、いつしか最強のパーティーを結成。そして危険な勇者の試練を乗り越え、魔王の幹部を倒し、魔王と対峙しましたがその力の前に敗れた……かもしれない。というのがあなたの人生でしたね?」
「そ、そうだ……」
「残念ながら私の管理する世界では、あなたの人生はこれにて終了しています」
「そうか……やはりオレたちは負けたらしいな……」
「でも安心してください。あなたはもう一度『やり直す』ことができます。その神の遺物を手にできた者だけの特権なのです」
「やり直す?」
女神は、そう微笑みかけた。しかし、エルクの心には、別の思いが芽生えていた。
「もう一度赤ん坊からやり直して、勇者になって魔王を倒せばいいってことか?」
「……それがあなたの望む人生ならば」
「え?」
「勇者になり、魔王を倒したいのならそうすればいいということですよ?」
エルクは、自分が本当に望む人生について考え始めた。そして、一つの結論に辿り着いた。
「ふふ。そう言う選択肢がまた色々あります。今度こそあなたが望む人生を歩んでください。あなたにはその『権利』があります」
「ああ。せっかく2度目をやり直せるんだからな。後悔しないようにするさ」
「では。生まれ変わりの時です。」
女神はそう言い、エルクに最後の選択肢を与えた。
「さて……『性別』を選んでください」
「ありがとう。女神様。おかげで気づけたよ。オレは―――」
エルクは、自分の本当の気持ちに従い、新しい人生の選択をした。
「もちろん今度は
こうして、エルクの新しい人生が始まった。