41. 多めにもらうがな
私たちは『エルランド』で魔物の軍勢と対峙することになった。ここにはルシルもミルフィもいない。サポートと後方支援はすべて私がやらないと!
「来るぞ!!」
ゲイルさんの掛け声と共に私たちは動き出す。まずはキルマリアがいつもと同じように飛び出して先制攻撃を放つ。
「切り刻むよ!」
素早い動きで魔物たちに襲いかかり次々と魔物を倒していく。それに続いてリーゼもを回しげりを放つ。
しばらく戦ううちに徐々に敵の数が減り始めた。あともう少しで殲滅できるだろう。そう思ったその時だった。突然巨大な火の玉が私に向かって飛んでくる。私は慌てて回避するがそれを見ていたリーゼが私を突き飛ばす。
「うぐっ……」
「大丈夫!?エステルちゃん!?」
「うん……。平気だけど……」
まさかあの魔物たちが連携を取るなんて……。一体誰が……。私はそう思いながら先ほどまでいた場所を見る。そこには真っ赤に燃え盛る炎のような毛並みをした虎型の魔物がいた。
「あれは……。フレイムタイガー!?どうしてここに!?」
「なんであんな奴がこの寒い中出てくるんだよ……。リーゼ!エステルを連れて下がれ!ここはオレがやる!キルマリア!雑魚はお前に任せる!」
「りょ!」
フレイムタイガー。この魔物はランクAクラスの魔物だ。本来なら雪山なんかにいるはずがないんだけど……。とにかく今は目の前の敵に集中しないと。
「エステルちゃん!早く下がってポーションで回復しよう!」
「ええ。分かったわ」
私とリーゼは後ろに下がりゲイルさんの戦いを見守る。さすがはSランクの冒険者だ。あのフレイムタイガー相手に一歩も引かずに戦っている。
そしてキルマリアも短剣で数多くの魔物を暗殺術で仕留めつつ、素早い動きで魔物を私が仕掛けた罠魔法へ誘導している。
しかし戦況は少しずつゲイルさんが押されているように見える。やはりフレイムタイガー相手だと厳しいのだろうか。私は焦っていた。このままではゲイルさんが……。
「ゲイルさん!援護します!」
「オレの心配はいらん!!それよりお前は戦闘全体を把握して自分の出来る事だけ考えろ!!」
「……はい!」
そうだ。私にはまだやれる事がある。私は自分に言い聞かせるように頭の中で考える。私が今やるべきことはなんだ?どうすればいい?私は必死に頭を働かせる。
そしてフレイムタイガーが大きく息を吸い込み膨らむと一瞬にして高熱のブレスが吐かれ、ゲイルさんがその紅き高熱のブレスに包み込まれる。
「ゲイルさん!!」
私は思わず叫ぶ。だが次の瞬間、視界からキルマリアとゲイルさんが飛び出してくる。間一髪キルマリアが助けてくれたようだ。良かった。
「あ~!あたしのお気にのスカーフが焦げた!もう!最悪まる!もうちょっとで丸焼きになるところだったじゃん!」
「悪いなキルマリア。」
「キルマリア、ゲイルさん無事ですか?」
「ああ。問題ない。」
とは言え。あの強力な高熱のブレスを何度も吐かれると厄介だ。私はさっき感じたことをみんなに伝える。
「あのみんな聞いて。思ったことがあるの。あの魔物の軍勢は連携が取れている。おそらくだけど、あのフレイムタイガーが指揮をしていると思う。だからあの魔物を倒せば……」
「魔物が連携なんて取るのエステル姉さん?確かにその考えは微レ存だけどさぁ?」
「いや。エステルの言ってることはあっているかも知れん。ランクの高い魔物ほど知性も高いし、統率力があるのもいる。」
「ならさ!あの燃えてる虎を倒せばいいんだよね?」
「そう言うこと。あのフレイムタイガーを倒せば、統制を失った魔物は逃げて行く。どう思いますかゲイルさん?」
「一理あるな。まぁこっちの大将はお前だ。お前が決めたならそれで行くぞ」
なんだかんだゲイルさんは私を信用してくれている。それが少し嬉しい。私の作戦が失敗すれば最悪みんなは……そんな重圧はあるけど、どこか気分は晴れやかだった。
「キルマリアとリーゼは魔物の軍勢をお願い。フレイムタイガーへのとどめはゲイルさんにお願いしますから。私が罠魔法で隙を作ります」
私は作戦を伝えすぐに行動を開始する。まずは私の罠魔法でフレイムタイガーの隙を作る。ゲイルさんの攻撃を確実に当てられる隙を。手が震える……でもここで怯んじゃいけないのに……。失敗した時の事を考えてしまう。
そんな様子を見かねたのかゲイルさんが私の頭に手を置く。
「エステル。オレはお前のことは信用している。もちろんキルマリアやリーゼもだ。」
「えっ?」
「オレはお前の指示通りに動いてやる。だからお前は自分が思うように動け。もし、失敗してもオレが必ずケツをふいてやるよ。もちろん報酬は多めにもらうがな?」
「……はい!」
私は覚悟を決め集中する。ゲイルさんはフレイムタイガーと再び戦い始めた。私の役割はただ一つ。この一撃でフレイムタイガーに隙を作ることだ。
こうして私たちの『エルランド』での真夜中の死闘も佳境を向かえようとしていた。