38. ド正論。そして相変わらず
トロッコは速度を上げて行く。キルマリアが調子に乗って魔力を込めて速度をあげている。ちょっと速すぎなんだけど!?
「やりすぎよキルマリア!?」
「このくらい平気だって!もうエステル姉さんは怖がりなんだから!」
「こ、怖いわけじゃないわよ!ただその……揺れてるのよ!揺れて落ちそうなんだってば!!」
「あはははっ!大丈夫だよエステル姉さん!落ちたら私が助けるからさ!」
「そ、そういう問題じゃなくてね……ああもうっ!!」
キルマリアがどんどん速度を上げていく。私は必死にキルマリアにしがみついているけど、正直相当余裕はないわよこれ……。
「あっ!」
「どうしたのキルマリア?」
「これブレーキないじゃん。トロッコ壊れてたわ。あはは。」
「えぇーーー!!?」
それでも、魔力を込めすぎたトロッコは暴走気味に加速していく。これはもう諦めるしかないわね……。
「もっと色々な事したかったな……さよなら。エステル。あなたのことは忘れないわ。短い間だったけど楽しかったわよ……。」
「何言ってんのエステル姉さん?冗談だよ冗談!」
「こんな時に冗談なんか言わないでよ!!」
「嘘だよエステル姉さん!本当にブレーキないよこのトロッコ。あはは。マジおわた。」
草。キルマリアが悪戯っぽく笑う。そして、次の瞬間、私たちは空中に投げ出されていた。
「驚いた?エステル姉さん?」
「き、キルマリア!!あんたねぇ!!!」
「あはははっ!ごめんごめ~ん!」
そしてみんなが華麗に着地する中、私は地面に叩きつけられた。凄まじい衝撃が全身を襲う。痛いし苦しくて息ができない。
「ゲホッゲホッ……うぅ……」
「ありゃエステル姉さん大丈夫!?」
「ギルマリア……おぼえどぎなざいよ……」
「わぁポーション飲もう!ポーション!10本くらい必要かな?」
そんなに飲んだらお腹タプタプになるわ。結局、私以外は全員無傷だったみたい。やっぱりみんな化け物だわ。というかレミーナさんはなぜ無傷なの?訳がわからない……。
それからしばらく休憩して、私たちは再び歩き始めた。
「あー楽しかった!また乗りたいねエステルちゃん!」
「もう乗らないわよ!あとキルマリア!次勝手なことやったら許さないから!」
「ごめんってば!エステル姉さんまだまだ若いんだから、そんなに怒るとマスターみたいにシワが増えるよ?」
そのキルマリアの発言で一瞬静寂に包まれる。
「……マスターに報告っと。」
「レミーナ姉さん!?今のは冗談で……違うんだよ!」
「違うとは?」
「ち、違くないけど違うっていうか……エステル姉さん助けてぇ!」
「自業自得よ。」
「うるせぇぞ!ふざけてないでさっさと歩けキルマリア。魔物が出てきたらどうするんだよ!」
「そっそんな……ゲイルのおじさんまで……ぴえん!」
もうキルマリアは放って置くことにする。そのあとしばらく歩いていくと光が見えてくる。おそらく出口だろう。皮肉にもトロッコのおかげでかなりのショートカットができているようだ。まあ、あんな危険な乗り物は二度とゴメンだけど。
外に出てみるとそこは広大な雪原だった。一面真っ白でまるで何もかもを飲み込んでしまいそうなほどの純白の世界が広がっている。
「とりあえず山を抜けたわね。ロデンブルグまでは……まだ少しかかりそう。まずここの近くの街『エルランド』を目指しましょう」
「了解。それじゃあ出発しよ!」
「キルマリアちゃん元気だね!」
「うるせぇだけだろ。おいキルマリア!ほら!」
するとゲイルさんはレミーナさんが持っているアイテムバックから赤いマジックポーションを取り出し、それをキルマリアに向かって投げる。
「魔力の管理くらい自分でやれ。トロッコごときに使いすぎだ。楽しいのは悪いことじゃねぇが、お前の役目はパーティーの前衛だろ。もっと責任感を持てよ。」
ド正論すぎる……キルマリアは何も言わず黙ったまま俯いている。やっぱりゲイルさんは良くみんなの事を見てるんだなぁ。こういうところは見習わないと。そしてキルマリアが話し始める。
「えっ……あー。もしかして……ゲイルのおじさんあたしの事好きなの?」
「キモッ!誰がお前のこと好きとか言ったんだよ!」
「えへへ~照れちゃうなぁ?でもあたしじゃ犯罪にならない?」
「黙れクソガキ!!」
相変わらずこの人たちは賑やかだな……。こうして私たちは途中色々なトラブルがあったけど、無事に鉱山の洞窟を抜けることができた。そして次の街に向けて歩き出すのだった。