37. トロッコ爆上がり!
私たちはロデンブルグに向かうために山越えではなく、使われなくなくなった鉱山の洞窟の廃坑を通るルートを選択した。そして今まさにその洞窟を歩いている最中だ。
「あー暗すぎ問題なんだけど?ルシルがいれば神聖魔法で明るく出来るんだけどなぁ~。あたし暗いの嫌いだし」
あなたはアサシンでしょうが……。私はため息をつくと自分のカバンからランプを取り出した。
「これでよし」
「おお~!さすがエステル姉さん。準備万端だね!」
「ありがと。キルマリア勝手に先に行かないでよ?」
「分かってるよ!それじゃあたしに続け~!」
キルマリアはそう言うと先頭に立って歩き始めた。私もその後に続く。この洞窟はかなり広いらしく、道幅は3メートルはあるだろうか。天井も高い。だから歩く分には問題ないけど、戦闘になったら少し動きにくいかもしれない。しばらく進むと分かれ道に差し掛かった。
「あっ分かれ道だ!どっちだろう?」
「エステル姉さんどうする?」
「うーん……」
さすがに私でも正解の道を当てるスキルなんて持ってない。こういう時は風魔法の魔法職なんかの風の流れを読む「風読み」のスキルがあれば楽なのにと思う。まあないものねだりしてもしょうがないか。ここは勘で行くしかないかな。
「おいエステル。索敵したか?」
「はい。しましたよ。」
「どっちが反応が強い?」
「えっと……右ですね。でも左の方が数が多い気はしますけど……」
「なら左に行くぞ。反応が強いなら強敵の可能性が高いし、縄張りを持っている魔物の可能性もある。」
ゲイルさんは私にそう言った。このおじさんは一応剣聖『ソードマスター』、上位職だもんね。それに熟練の冒険者だし、頼りになるわ。……何もしないけど。
「それじゃ左に行きましょう」
「本当に大丈夫なのゲイルのおじさん?適当に言ってない?」
「お前と一緒にするなキルマリア。オレだって冒険者としての経験を積んでいるんだ。それくらいの判断はできる。」
そして私たちは左側の道を選んで進んだ。すると広い空間に出る。おそらくここは鉱山の採掘場だった場所だろう。大きな岩やトロッコの線路などがそのまま残っている。
「よし。エステルここで少し休むぞ。腰が痛い。座らせろ」
「そうですね。そうしましょうか」
「ねぇエステルちゃん。私あのトロッコ見てきてもいい?」
「ええ。気をつけてよリーゼ」
「なら、最強美少女アサシンのキルマリアちゃんも行こう!リーゼのことは任せなさい!ってことでリーゼ行くぞ!あたしに続けぇ!」
「あっ待ってよキルマリアちゃん!」
自分も見たいだけじゃない。単純でわかりやすいなキルマリアは。私は地面に座り込むと、背中を壁に預けて一息ついた。
「ふぅ……」
「疲れたか?」
「いえ、そんなことはないですよ。ただちょっと気が抜けちゃっただけです。」
「なら良かったな。お前は気を張りすぎだ。緊張してるといざという時に動けなくなる。適度にリラックスしろよ。」
「あっはい」
……何だろう。今日のゲイルさんは優しい。いつもこうだと良いのに……。でもゲイルさんっていつも何してるんだろう。私たちみたいにギルドの依頼を受けているわけでもないし、『妖精の隠れ家』の酒場で仕事をしているわけでもないし。もしかしたらなんか特別な任務みたいなことやってたりして……。
そんなくだらないことを考えていると、キルマリアとリーゼが戻ってくる。そしてリーゼは輝かせた瞳で私に話してくる。
「ねぇねぇ聞いてエステルちゃん!あのトロッコ動きそうだよ!魔力を込めればバビューンッて感じに動きそうなの!私乗りたい!」
「古いトロッコが走るのはエモいじゃん。あたしは賛成だけど、どうかなエステル姉さん?」
「そんな危険なこと出来るわけないでしょ?魔物に襲われる危険性もあるし、それにレールがきちんとした形で残っている保証もない。万が一脱線とかしたら危ないし……」
確かにトロッコが動くならそれを使った方が早く出口に辿り着けるのは確かだ。でもさすがにこの洞窟の中を走らせるのは危険すぎる。だから私は反対したんだけど……。
「おお!いいじゃねぇか、歩くより大分マシだ。トロッコ動かすか」
「私も……トロッコ乗ってみたいです」
なぜかゲイルさんとレミーナさんも賛成した。いきなり私だけアウェイになってしまう。
「ちょっ!なんですか二人とも!私の話を……」
「あのなエステル。そんな起こるか分からないことを言っても仕方ないだろ?」
いや、あんたは歩きたくないだけだろ。
「エステルさん。もう2度とトロッコに乗れる機会がないかもしれません。後悔したくありません。」
レミーナさんまで毒された!?どうしよう……。私は頭を抱える。この人たち全然人の言うこときかないんですけど。
「おいエステル!トロッコを動かすぞ!」
「はい……」
結局押し切られてしまった。私たちはトロッコに乗って移動することにした。
「さあ、出発進行~!」
キルマリアが魔力を込め、先頭でトロッコを動かし始めた。最初はゆっくりだったが徐々にスピードが上がる。
「おー速い速い」
「これ楽しいねキルマリアちゃん!」
「だねだね。テンション爆上がりよ!うりゃあああああ!」
キルマリアはさらに魔力を込め速度を上げる。私は振り落とされないように必死にしがみつくしかなかった。