36. 気持ちは同じだから
とりあえず私たちは山越えの準備をするために途中の『スノーデン』と呼ばれる村に泊まることになった。さすがに冒険者が立ち寄る時期ではないようで、部屋が空いていたので良かった。
ちなみに私はレミーナさんと同じ部屋だ。キルマリアとリーゼ。ゲイルさんは一人の部屋割りだ。
「レミーナさんお風呂一緒に入りますか?」
するとレミーナさんは軽く頷く。この人本当に無口なんだよね。でも最近はレミーナさんのこともある程度理解はしてきたつもりだけど。私は着替えを持ってレミーナさんと一緒に浴場へと向かう。
「……あの」
「なに?」
「私の過去のこと……マスターから聞いたんですか?」
「うん……」
私がそう答えると彼女は少し悲しそうな顔をした。そして私を見つめる。
「そうですか。あなたにならマスターは話すと思ってました。私は本当にマスターには感謝しています。そしてマスターのクラン『妖精の隠れ家』も皆さんも私は好きです。」
「私も好きよ。レミーナさんと同じく『妖精の隠れ家』のことも、みんなのこともね」
「だから……『妖精の隠れ家』がなくなるのは嫌です。私は戦えないですけど、精一杯お手伝いはします。エステルさんたちは必ず依頼を達成してください。お願いします。」
そう言うレミーナさん。レミーナさんはいつも酒場の仕事をしている。私たちとは一緒に戦ったりはしないけど、『妖精の隠れ家』を思う気持ちは同じだ。もちろんロザリーさんも。だから彼女なりにできることをして『妖精の隠れ家』を守ろうとしている。それがすごく嬉しかった。
「大丈夫!絶対に私がサポートするから。安心してね」
「はい。ではお風呂に入りましょう。背中流しましょうか?」
「あ、うん。じゃあお願いしようかな」
私たちはそんな会話をしながら浴場へと向かった。レミーナさんはやっぱり優しい人だった。
というか、『妖精の隠れ家』に住んでいるのは未成年のキルマリア、リーゼ、ルシル、ミルフィと未成年じゃないけど私とアリシアさん。レミーナさんたちは別に家がある。
だからレミーナさんのメイド服姿以外を見るのが初めてだったんだけど……。
「……」
「どうしました?エステルさん?」
「いやぁ……そのぉ……」
レミーナさんは今バスタオル一枚の姿である。普段は隠れている彼女のスタイルの良さが良く分かる。胸の大きさは私よりあるみたいだし。というかなんだろうこの敗北感は……。
「そろそろ上がりますか?それとももう少しゆっくりしていきますか?」
「うーん。もうちょっとだけ入ろうかな」
「わかりました。それではお先に失礼しますね」
そう言ってレミーナさんは脱衣所へと消えていった。むぅ。なんか負けた気分。でも、負けてられないわ。だってまだ成長期なんだもん。これからもっと大きくなるはずだし。21歳だけどさ……。うん。きっとそうに違いない。
「ふぅ……いい湯だった」
そう呟きながら私は部屋に戻る。今日は早めに寝よう。明日は朝早く起きないといけなさそうだし。私はそのままベッドに入って眠りについた。
次の日。私たちは朝早く起きて朝食を食べてからすぐに出発した。
ここからロデンブルグまでは山越えが必要になる。ただ今の時期は道の状態によっては山越えが難しいかもしれないそうだ。うーん。これは運次第になるわね。もっと効率よく進めれば良いんだけどなぁ。そんなことを考えているとゲイルさんが私を呼ぶ。
「おいエステル。ちょっと地図を貸せ」
「はい。どうぞ」
「あそこだな。お前らここ見てみろ」
そう言われて私たちは地図を見る。ロデンブルグとスノーデンを区切る山の麓に、これは洞窟かしら?
「ああ。あそこに見える洞窟は昔鉱山として使われていた場所で今は使われなくなって放置されているらしい。しかもそこを通るルートはかなり危険でな。オレたちみたいな冒険者も滅多に使わない。でも間違いなく最短距離でロデンブルグへ行ける」
「ゲイルさんそんなこといつの間に……」
「昨日の夜中だ。お前らが風呂に入っている間に調べたんだよ。感謝するくらいなら酒でもおごれよな」
そう言うとゲイルさんはまた前を向いて歩き出す。本当に抜け目がない人だなぁ。まあそういうところも嫌いじゃないけどね私は。
不確定要素の多い山越えをするよりは間違いなく鉱山の洞窟を通る方が安全で早い。でも問題は魔物が住み着いているということだけど。
「エステル。索敵はお前に任せる。あと罠にも警戒しろ。使われない廃坑なんざ、魔物の巣窟だ。しかも長い年月で変異している可能性もある。」
「分かりました。前はキルマリアと索敵をする私。その後にリーゼ。魔物が出たら私と隊列を交代。レミーナさんはアイテムを持ってください。そしてゲイルさんがレミーナさんを守る。これで行きましょう!」
「「了解!」」
こうして私たちはロデンブルグへ向かうために使われなくなった、廃坑の洞窟に行くのだった。