14. 嵐のような自信家
私はアリシアさんと共に『王都の地下迷宮』の6階層に来ている。この辺りからは魔物も強くなってくるはず、そして凶悪なトラップも。気を引き締めていかないと。
「ねぇねぇエステルちゃん。」
「なんですかアリシアさん?」
「みんなのことどうかしら?個性が強くて自分勝手なところはあるけど良い子たちだと思うんだけど……?『妖精の隠れ家』でやっていけそう?」
あー。そういう事か。私のこと心配してくれてたんだ。だからわざわざ2人きりでダンジョン攻略なんかに来たのか。なんかアリシアさんに気を遣わせてしまって申し訳ないな……。
「大丈夫ですよ。それに昨日思ったんです。意外にみんなは良くお互いのことを見てるって」
「え?」
「確かに私がみんなに指示を出してましたけど、キルマリアは自分の速さを生かしてリーゼの逆に動いていたし、リーゼは力が強そうな魔物を優先に倒していた。そしてルシルは2人の動きを見ながら防御魔法や神聖魔法で援護してましたし」
「初めてでそこまで……良く見てるわねエステルちゃん。」
「まぁ私も一応冒険者ですからね!それに『スカウト』ですから、観察力には自信があります!」
「ふふっ。それは頼もしいわね。じゃあそろそろ行きましょうか」
「はい!」
そう言ってマッピングをしながら進んでいく私たちだったが、さすが地下迷宮と言われるだけあって中々先に進めずにいた。しかしそこはSランクの冒険者であるアリシアさんがいるおかげでスムーズに進むことができた。やっぱりすごいよな~。
しばらくすると開けたところに出る。そこにはたくさんの宝箱が置かれていた。
「あらあら。いっぱい宝箱があるわね!少しでも資金の足しになるかしら?」
「……調べて見ますね『鑑定眼』……」
私は宝箱を一つ一つ確認していく。しかしどの宝箱もトラップが仕掛けられている。しかも強力なヤツだ。
「うーん。どれもこれもトラップ付きですね……。これは迂闊に触れませんね」
「そうね……。でもせっかくここまで来たんだし少しくらい開けてみたいわよね~」
そんなことを言いながらニヤリと笑うアリシアさん。あっこれ何か企んでる顔だ。絶対罠だって分かってるくせにわざと開けようとしてる。
「ダメですよアリシアさん。」
「大丈夫よ!エステルちゃん。解除できるでしょ?お願い!やらないと殺すわよ?」
……まだ生きたいです。ここで断ったら本当に殺されそうだし仕方ないか。
「分かりました。その代わり危なくなったらすぐ逃げてくださいね?」
「もちろんよ!ありがとうねエステルちゃん!」
そして私は慎重にトラップを解除していく。そのたびに宝箱の中に入っていたものを取り出す。中には貴重な素材や鉱石となかなか有益なものばかりだった。これなら『妖精の隠れ家』の経営資金の足しになるか。
「よしこれで最後っと。アリシアさん終わりましたよ」
「お疲れ様エステルちゃん。本当に助かったわ」
「ふぅ。少し休んでもいいですか?さすがにこれだけのトラップを連続で解いてたら疲れちゃいます。」
「いいわよ。じゃあちょっと休憩にしましょうか」
私たちはその場に座り込む。ここならモンスターも来ないだろうし安心して休むことができそうだ。しばらくアリシアさんと話しながら休んでいると、そこに1人の冒険者がやってくる。
「あら?先客がいましたの?」
その女の人は私よりは年下だろうか。綺麗な黒髪の髪が特徴の子で身長は165センチくらいかな。そして胸が大きい。肩に銃を担ぐように持っている。ジョブは『ガンナー』だろうか。
「あら美人な子ね。ソロで攻略してるのかしら?あなた名前はなんていうの?」
「人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものではございませんこと?」
うわぁ。初対面なのに随分と失礼な態度を取る女の子だなぁ。こういうタイプ苦手かも。
「ごめんなさい。そうだったわね。私はアリシア=フォン=ルーザリア。でこっちの女の子がエステルちゃん。」
「初めまして。エステルと言います。よろしくね」
「私はミルフィ。悪しき者を根絶やしにする由緒正しき正義の銃騎士『ブレードガンナー』ですわ!」
えぇ……。何それ恥ずかしい……。また変な人がいた。
「へー。カッコイイじゃない!」
「当然ですわ!この剣と銃弾があればどんな敵も一撃必殺ですわ!!」
「ふふっ面白い子ね」
……いや。私は普通のはず。周りが変わっているだけだ。そう信じたい。
「ところでそちらは何故ここに?もしかして地下迷宮の最下層のボスを討伐に?」
「いや目的は違うの。今日は7階層までをマッピングするつもりで……」
「そうでしたの。まぁせいぜい頑張ることですわね!私の目的はただ一つ、地下迷宮の最下層にいるボスを倒すことですわ!」
「ふふっ頑張ってね。でも気をつけてね?ここは結構強い魔物が出るから」
「大丈夫ですわ!私にはコレがありますから!」
そう言って彼女は肩に担いでいた銃を見せる。あれは良く見たら……『魔導式銃剣』しかもかなり使い込まれているように見える。
『魔導式銃剣』それは魔力を込めた魔法の弾丸を放つことが出来る武器で扱いが難しいとされている武器。そんなものを扱うなんて、この人本当に強いのかも?すごい自信ありそうだし、立ち振舞いなんかも強キャラ感出てるし……。
「それは『魔導式銃剣』ね。良い武器を持っているのね?」
「ふふん!まぁ私の実力に相応しい武器というだけですわ!おっと。時間がなくなってしまいますわ、これで失礼しますわね!」
そう言ってミルフィは先に進んでいった。私とアリシアさんはその背中を見送った。まるで嵐だなあの人……
「なんか面白い子だったわね?」
「そうですね。でも悪い人では無さそうな気がしました」
「ふふっ。エステルちゃんは優しいのね」
「いえ。そんなことはありませんよ」
それから私たちは少し休憩をして再び探索を始めることにするのだった。