13. 私も楽しみたいから
私たちは初めてのダンジョン攻略を終えて『妖精の隠れ家』の酒場に戻った。キルマリアとリーゼとルシルは疲れてしまったのか早めに寝てしまったみたい。
私は今日のダンジョンのマッピングをより細かく記載して地図を作っている。この地図を元に次のダンジョン攻略を効率よく進める予定だ。
「ふぅ……」
地図の作成が一段落したので、椅子に座って一息つく。
「ご苦労様。エステル。ほら飲め。酒の方がいいか?」
そう言って私にお茶を差し出してくれたのはゲイルさんだった。
「あっいえ。お茶で。ありがとうございます。」
「ふーん。それがダンジョンのマッピングの地図か。本当に細かいな。」
「はい。昔からこういう作業は好きなんです。」
「そうか。どうだ初ダンジョンは?あいつら言うこと聞かなくて大変だろう?」
「あはは……。確かに皆さん個性的でちょっと困っていますけど、楽しいです!」
「へぇ。まぁあのガキ共もお前には懐いているようだし良かったよ。」
そんな話をしているとアリシアさんがやってくる。
「あらあら2人とも楽しそうね?私も混ぜてくれない?大人同士仲良くしましょ?」
別に私とゲイルさんは仲良くしていないけど、アリシアさんの笑顔に逆らうことはできない。
「明日はどうするつもりなのエステルちゃん?」
「明日は休むつもりです。私は大丈夫ですけど、みんなは初ダンジョン攻略で疲れていますし、魔力回復も必要なので。」
「そうね。無理は禁物だからね」
「攻略には少し時間がかかると思います。すいません、すぐに結果を出せなくて」
「いいのよ!焦る必要なんてないわ。ゆっくりやりましょう。『妖精の隠れ家』の存続がかかっているしね!」
そうアリシアさんは笑顔で言ってくれる。やっぱりこの人がマスターで良かった。そんなことを考えていると、突然アリシアさんが提案してくる。
「ねぇねぇエステルちゃん。みんなが休みなら明日は私とダンジョン攻略をしない?」
「えっ!?アリシアさんと!?」
「一応現役は引退した身だけど、戦闘経験はあるし、それにエステルちゃんとは一緒に行動したことないし、ダメかしら?」
いやアリシアさんはここ『妖精の隠れ家』のマスターだよ……。そんな人と一緒に初心者ダンジョンごときに行っていいものなのか……。でもこの人は私の命の恩人で信頼できる人だし……。
「いや……もちろん構いませんけど。いいんですか?」
「うん!もちろん!」
「じゃあよろしくお願いします。」
「やったー!じゃあ明日は楽しみにしてるからね!おやすみなさい!」
そう言ってアリシアさんはスキップで自分の部屋に戻る。なんだか嬉しそうだなぁ。
「ったく。子供かよあいつは……マスターならどんと構えとけばいいものを。」
ゲイルさんが呆れ顔で言う。
「あはは。でもアリシアさんらしいですね。だから『妖精の隠れ家』のメンバーはみんな優しくていい人たちなんですよ。変わってるけど」
「そうかもな。そろそろ帰るか。戸締まりよろしくな」
「はい。おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
そうして私は酒場の鍵を締め部屋に戻り眠りについた。
そして翌日。私はアリシアさんと共に『王都の地下迷宮』に行くことにする。
「何年ぶりかしらね?楽しみだわ!私こう見えても強いんだからね!」
「そうなんですか?」
「そりゃもう!昔は結構ブイブイ言わせてたのよ~。」
そんな会話をしながら私たちは『王都の地下迷宮』に向かう。『王都の地下迷宮』の前にたどり着くとそこには既に何人かのギルド冒険者がいた。そして私たち……いやアリシアさんを見ると騒ぎ始める。
「ん?おい!あの女アリシア=フォン=ルーザリアじゃないか?」
「マジ?あの元Sランクの冒険者!?なんでここにいるんだよ!?」
は?元Sランクの冒険者!?私聞いてないですよアリシアさん……。
Sランク。それは王都のギルドの中でもトップクラスの実力者のみが到達できる称号であり、その強さは単独で竜種を倒すほどと言われている。確か今の王都のギルドにはSSランカーはいないはずだから、現役なら事実上最強の存在と言えるかもしれない。
「あらあら?こんなところにまで有名になっちゃって困るわね~」
そう言いながらアリシアさんは照れたように頭をかく。やっぱり侮れないよこの人。
「なんで黙っていたんですか?そんなすごい人ならもっと早く言ってくれれば良かったのに……」
「だって言ったらエステルちゃんが遠慮すると思って。同じ『妖精の隠れ家』の仲間としてランクなんか関係ないでしょ?私もたまには楽しみたいしね?」
そう言ってアリシアさんはウインクをする。本当に敵わないなぁ。
「さて、おしゃべりはこのくらいにして早速行きましょ。目標は地下7階ね!マッピングは任せるわ」
こうして私とアリシアさんのダンジョン攻略が始まった。昨日5階層までのマッピングはできているのですんなりとたどり着いた。道中の魔物はアリシアさんが魔法で倒してくれたので問題はなかったけど……。とりあえず6階層に降りていくことにする。
「ふぅ。なんとか着いたわね。それにしてもこのフロアは少し雰囲気が違うみたいね?」
「そうですね。他のフロアより少し広くなっていますし、魔物も少し強めです。気を引き締めていきましょう」
「了解よ!エステルちゃんに任せるわ。バンバン私を使ってね?」
元Sランクの冒険者を使うのは気が引けるけど、私とアリシアさんはまだ見ぬ『王都の地下迷宮』の6階層の攻略に挑むのだった。