9. いつかは猫に
今日はギルドの仕事は休みだ。私は『妖精の隠れ家』に来て初めての休日をとることにする。
私は、お店で一人朝食を摂っていた。しかし、どうも落ち着かない。そわそわしているというか、気になっているというか……。
「……?なんですか?」
「え?いやなんでもないです」
レミーナさん。本当にこの人は何を考えているかわからない。さっきから私のことずっと見ているし……そんなことを考えているとロザリーさんがやってくる。
「あれ?レミーナ。今日は休みのはずなの。どうしたの?」
「……忘れてました」
え?休みを忘れてたの!?それはそれで問題だと思うんだけど……レミーナさんは頭を深く下げてお店を出ていく。というか着替えないのか……あんなメイド服じゃ目立つのに。
「本当にレミーナは抜けているの。困るなの」
「そういえばロザリーさんは休みあるんですか?厨房を1人で任されてますけど?」
「休みはあるの。その時はマスターが代わりに切り盛りしてくれてるの。だから安心して休めるの」
……なんかアリシアさんのほうが料理が美味しそうだけどなぁ。まあ、私が考えることでもないね。私はそのまま店を出て街を歩くことにした。
そしてあてもなく歩いていると、見覚えのあるメイド服が見える。レミーナさんだ。うーん。趣味悪いけどあの人のこと何も知らないしな……私はそのまま隠れて様子をみることにした。
すると、レミーナさんは途中のお店でパンの耳とミルクを買ってどこかにいく。一体どこにいくんだろう?しばらく尾行をしていると、街の端にある小さな教会の裏手にたどり着く。こんなところがあったんだ……。そしてそこには何匹かの猫がいた。
「……」
彼女は無言で猫たちにパンの耳やミルクを与える。その表情はいつものレミーナさんからは想像できないとても優しいものだった。私は思わず彼女の後ろ姿を眺めていた。
「あら?覗きは感心しないわねエステルちゃん。」
「え?」
声をかけられ振り向くとそこにいたのはアリシアさんだった。まさかここで会うなんて……
「すみません。覗いていたわけでは……」
「ふふっ。わかってるわよ。私もたまに来るもの。でもレミーナには内緒にしておいてね。」
「あんな顔をするんですね。初めて見ました」
「普段はクールな子だけど動物だけは特別みたいね。ところでエステルちゃんはどうしてここにいるの?」
「えっと……散歩ですかね」
「そうなのね。なら一緒にお茶でもしながらお話しましょ?」
こうして私たちは街のカフェにいきお茶を飲むことになった。そこで私は、アリシアさんからレミーナさんの過去について聞くことになる。
「レミーナは元々孤児だったの。物心ついたときには孤児院にいたわ。そこでは生きるために必死に働いて。お金がない時は盗みだってやっていたみたい。それでも生活は苦しかったそうよ。」
「すごい過去ですね……」
「そしてそんなある日、レミーナはたまたま通りかかった貴族の馬車の前に飛び出してしまったらしいの。もちろん捕まって奴隷商人に売られそうになったけどなんとか逃げ出して貧民街に逃げ込んだの。そして私と出会った。」
「そんなことがあったんですね……全然知りませんでした。でもなんで私にその話を?」
「エステルちゃんが一番レミーナに歳が近いし、あなたならレミーナと仲良くなれると思ってね?」
「私とですか?」
「えぇ。あの子、ああ見えて接客したり人と話すのが本当は好きだから、感情表現が下手なだけなの。だからお願いね。」
そうアリシアさんは私に微笑む。まぁ自信はないけど、少しずつ頑張ってみるかな。
「わかりました。できる限りやってみます」
「ありがとう。それじゃあよろしくね。あと、このことは秘密にしといてね?一応、私たちだけの秘密ということで」
「はい。」
その後、私はアリシアさんと共に『妖精の隠れ家』に帰るのだった。
そして翌日。朝起きてからすぐに店の開店準備を手伝うことにする。今日もギルドの仕事は休みなので、とりあえず掃除をすることにした。
「……あの」
「あっレミーナさんおはようございます」
「掃除は私の仕事ですが?それと敬語は必要ありません。」
「あ、うん。わかった。あの……」
「……いえ、なんでもありません」
レミーナさんは少し不機嫌になった後、仕事に戻る。なんか怒らせちゃったのかな?私はそのまま掃除を終え、座って休んでいるとレミーナさんが朝食を作って持ってきてくれる。
「これは?」
「朝食です。……お口に合うかわかりませんが」
「う、うん。いただきます」
私はパンを頬張る。うん。おいしい!それにこのスープもいい感じ。レミーナさんを見ると黙々と食べている。やっぱりかわいい人だなぁ。でもなんか顔が赤いような……気のせいかな?
「ねぇレミーナさん。もしかして照れてる?」
「……黙って食べてください」
「あ、ごめんなさい」
それからしばらく沈黙が続いたが、レミーナさんの顔はどことなく穏やかで微笑みを浮かべていた気がした。私にもいつかは、あの猫たちに見せたように笑顔を向けてくれればいいなと思うのだった。