8. 歯車になれ
私たちは無事フォレストベアの討伐をし、ギルドから報酬をもらい『妖精の隠れ家』に帰ることにする。
「くそっ……リーゼの報酬半分よこせよ?腰が痛いのになんでオレがリーゼをおぶらなきゃならんのだ」
「文句言わないでくださいよゲイルさん。私じゃおぶれないじゃないですか」
リーゼは疲れてしまったのか寝てしまった。リーゼの寝顔を見るとあのフォレストベアの首をへし折った怪力には全然見えない。可愛い顔をしてる。
「どうだエステル。『妖精の隠れ家』は?まだ来て間もないが」
「はい。とてもいい場所ですね。私はここで雇ってもらえることになって良かったです」
「そうか。なぁエステル。おまえはこの『妖精の隠れ家』で時計と同じ歯車になれ」
「はい?」
「時計はな、色々な歯車が構成されて時を刻んでいるんだ。それを動かすための重要な全てを動かす歯車になれ。お前にしか出来ないことだ」
「私が?」
そんなこと言われたのは初めてだ。いつも私のジョブは時代遅れだし、役立たずと言われてきた。だけどゲイルさんもリーゼも私のことをそんな風に思ってなかったと知って嬉しかった。この人達と一緒にいるなら私は変われるかもしれない。
「私に期待してくれてるんですか?」
「まぁな。お前は『妖精の隠れ家』の中でちょうど年齢が真ん中だろ?だからリーゼやキルマリア、ルシオはオレやアリシアの言葉がわからないこともあるさ。その逆もある。だからお前がその歯車の役を受け持て。『スカウト』はサポート役なんだろ?」
私は今までずっと自分なんかダメなんだと思ってきたけど、そうじゃないみたい。だってこんなにも必要とされているのだから。それにやっと気付けた。だからこれからは自分の役割を見つけて頑張ろうと思う。
「はい!精一杯頑張ってみます!」
「おう。よろしく頼むぜ。さて、帰ったら夕飯でも食うかな。今日はロザリーの肉たっぷりシチューがたべてぇな。ありゃ絶品だからな!」
「……私は遠慮しておきます」
こうして私は今日初めて自分の役目を見つけた気がする。
そして時間は夜。『妖精の隠れ家』にはいつも通りお客様が一人もいない。
「あら?帰らないんですかゲイルさん?」
「アリシア。一杯付き合え」
「珍しい。ゲイルさんが誘ってくれるなんて。わかりました。では少しだけ付き合いましょうかね」
カウンター席に座ってお酒を酌み交わすことにした。するとゲイルはグラスに口をつける前に話し始めた。
「実はな、エステルのことなんだが」
「どう?すごく真面目で頑張り屋さんでしょ?みんなとも仲良くなってるみたいだし」
「そうだな。今日見て思ったよ。あいつはすごいサポート能力を持っている。状況把握、索敵スキル、罠魔法、アイテムでのサポート。どれも一級品だ」
「それで?」
「……そしてあいつはリーダーとしての素質もある。これからはギルドの依頼はあいつ中心で問題ない」
「ゲイルさんがそこまで言うの?これは良い子拾ったかしらね?」
「白々しいぞ。わかってたくせに。おい。もう一杯お前の奢りでよこせ」
「はいはい」
二人はまた飲み始めていく。
「また昔のように戻れるかもな。オレ達三人でパーティ組んでた頃は楽しかったよなぁ……」
ゲイルはしみじみと言う。
「そうね。そう考えるとあの子に少し似ているかもしれないわねエステルちゃんは。ちゃんと面倒を見てあげてね?」
「ったく。お前は昔から金にならんことを押し付けやがってよ?」
「そうかしら?ゲイルさんも楽しそうだからいいじゃない?」
「……まぁな。」
それから二人は昔話を始め、酒を飲みながら思い出を語り合うのであった。