31. オフィーリアの剣③
オフィーリアさんに会った後。私たちはエルメスさんの好意で泊めてもらうことにした。正直オフィーリアさんを止めることは出来るだろう。それでも私は迷っていた。旦那さんの形見のあの「剣」。あそこまでボロボロになってまであれを使い戦っていたのだから。それに意味があることくらい私でもわかる。
きっと、オフィーリアさんにとってあの剣はただの武器じゃない。大切な思い出、そして信念が詰まったもの。だからこそ、私は迷っている。
ミリーナは泣きつかれてしまったのかもうベッドで寝ている。私はエイミーに相談をすることにした。正直エイミーに相談したところでって感じだけど、それでも自分の判断に迷っているのは事実だから。
「エイミー。この依頼どうしたらいいと思う?」
「どうって?あぁ……迷ってるんだアイリーン?」
「まぁね。その魔物を討伐することがオフィーリアさんの為すべき事。それを私たちが止めていいのか。でもあの感じじゃオフィーリアさんの命が……」
そう言うとエイミーはしばらく考え込んでから言った。その言葉に思わず私は驚いてしまった。それは今まで聞いたことがないような真剣な言葉だったからだ。そして少しだけ寂しそうな顔をして。
「アイリーンはさ、私たちの『なんでも屋』ってどう思っている?正直な気持ちを教えてほしい。」
「エイミー……。最初はどこかの田舎娘が遊び半分でやってるんだって思っていたわ。お客様全然来ないしね。でもね。最近は『なんでも屋』という仕事に誇りを感じてるの。もちろんピースフルの人たちに助けられているのもある。私の魔法でみんなの為に何かができる。そう考えると毎日が楽しいわ」
私の言葉を静かに聞いてくれるエイミー。彼女は私の答えを聞いて満足したようで笑顔になった。そして少し照れくさそうにして私に答えてくれる。
「ありがとう。それなら話は早いよ。私はアイリーンが正しいと思うことをすればいいと思う。それが『なんでも屋』だからさ。私たちは仲間。そうでしょ?」
「そう。少し気が楽になったわ。じゃあ行ってくるわね?」
私はそのまま部屋を出る。エイミーは何も言わなかったけど私がどこに行くのかはわかっているのだろう。そして私はオフィーリアさんの家に行く。扉を開けるとそこには私が来るのがわかったかのように驚くどころか冷静な顔をしたオフィーリアさんが迎えてくれた。
「夜分遅くにすいません。」
「いや、来ると思っていたわよ。私の事を聞いたのかい?」
「はい。」
「そう。それで、あなたはどうするんだい?あなたも止めに来たのかしら?」
そう言って微笑むオフィーリアさん。やっぱりこの人は強い人だと思った。だって私が来ても焦っていないのだから。私は深呼吸をして覚悟を決める。そして私は口を開く。
「いえ、違います。お手伝いさせてください。」
「あら?どうしてかしら?」
「私たちは『なんでも屋』です。依頼はあなたを助けること。だからあなたを助けたい!」
「ふっ。おかしな子ね。別にあなたたちが気にすることないのに。でも、もう限界だねぇ。もう私は長くない。」
そう言いながら壁に立てかけてある剣を見るオフィーリアさん。その姿はとても悲しげだった。
「ごめんなさいね。こんな弱い私のために。もうすぐ死ぬ人間のために。危険な魔物を倒しにいくなんてなんの得にもならないのにねぇ」
私はそのオフィーリアさんの言葉を聞いて、みんながよく言っている
「損とか得とかそんなの関係ないわ。私はただの『なんでも屋』。私たち『なんでも屋』に出来ないことはないから。」
「……本当に不思議な子だよあんたは。吸い込まれるような真っ直ぐな目。まるで……あの人のように信頼できる優しく強い目。それならお願いしようかね魔物討伐を。私の最後のお願いだよ。」
「えぇ任せてちょうだい!私たちが必ず魔物を討伐してくるわ。だから必ず待っていて。」
不思議と口から言葉が出た。その言葉にオフィーリアさんは微笑んでくれた。私はもう『なんでも屋』なのだ。その言葉を胸を張って言えるように頑張ろう。
そして私はオフィーリアさんの家から出る。すると外にはエルメスさんがいた。
「やはりこちらでしたか。」
「エルメスさん?」
「あの。アイリーンさん、少し歩きませんか?」
そう言われて私は黙ってうなずく。それから少しだけ歩いて街外れの森に着く。月明かりが木々の間から漏れておりとても幻想的な光景だったがそれと同時に物悲しさを感じる場所だった。そしてそこにはお墓がたてられていた。その名前を見ると「ソル・ヴィエント」と書かれている。
きっとこれはオフィーリアさんの旦那様の墓だろう。私はしゃがみこみ手を合わせる。しばらくして立ち上がるとエルメスさんが話しかけてきた。
「ここはオフィーリアさんの旦那様のお墓です。彼女は毎日ここに来ていたんです。雨の日も雪の日も毎日ここに来ていたんです。最近は私が代わりに来てお掃除とかお供えとかしてますけどね。」
「そうだったんですね。」
「オフィーリアさんは、もう限界です。時々痛みに耐えている姿や声が聞こえることもあります。もう見ていられない。だから……」
それが何を意味しているのかはわかる。私は『なんでも屋』として依頼人のエルメスさんの依頼はこなすべきだ。私は一呼吸置いてエルメスさんに話す。
「私たち『なんでも屋』が必ずオフィーリアさんを救って見せますから」
私がそう言うとエルメスさんは目を閉じたままただ黙って静かに頷く。私たちがやるべきことは決まっている。そして私はまた決意を固める。絶対に魔物を討伐してオフィーリアさんを救うと。