29. オフィーリアの剣①
今日ものどかだ。私はいつも通り窓を拭いている。もう何度目だろうか。むしろこの窓を拭きすぎてなくしてやろうかとまで考えている。
ルーシーはいつものように爆睡してる。この前のは幻だったんだ。あのルーシーはルーシーじゃない。そんな訳の分からないとこを考えていると入り口のドアが開く。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
「あっ。すいません。郵便です」
「あっ。はい。」
お互い気まずくなってしまった。私は悪くないけどさ。そう思いながら、郵便物を受け取る。差出人は…………。
あれ?おかしいわね。書いていない。不思議に思って封筒を見ると、そこには、「なんでも屋様へ」 としか書かれていない。嫌な予感がする。恐る恐る中を見てみる。中には一枚の手紙が入っていた。
【なんでも屋の皆様へ 初めまして。私の名はエルメス・アステライトと言います。あなた方の噂を聞いて手紙を書くことにしました。どうかお願いします。助けてください。私はロンダルの村の住民です。私の村にいる、1人の女性を助けてほしいのです。詳しい話は会いに来てくれた時にお話します。どうかお願いします。】と書かれていた。
そして最後には住所も載っていた。どうやらイタズラとかではなさそうね。するとルーシーが起きてきてその手紙を覗き込む。
「あら手紙?依頼かしら?」
「ええ。内容は分からないけど人助けをしてほしいみたい。一応住所もあるし。」
「それなら夜みんなで話し合いましょうか。さて仕事仕事!」
そう言ってルーシーはまた奥へ戻っていく。ちょっと、あなたの仕事は昼寝じゃないからね?でもまぁいいか。私も仕事をしよう。そう思い、窓ふきを再開する。そして残念だけどそのあとは店の入り口のドアが開くことはなかった。
そして夜。この前と同じようにリビングに『なんでも屋』全員が集まっている。今回はエルメスさんについて話し合う予定だ。
「人助けか。オレもやりたかったが、村長の家の屋根を直すことになってるからな。」
「私はパス。眠いしさ。用事もあるし」
「ルーシーの用事ってなんなのよ?」
とりあえず手紙を読んでみた感じだと、かなり切羽詰まってる印象を受ける。一体どういうことなのかしらね?そしてこの前と同じようにエイミーが早速みんなに聞いてくる。
「それじゃこの依頼やりたい人挙手!はーい!」
すると今回はエイミーとミリーナが手を上げている。まぁミリーナは治癒魔法士だし病気や怪我で助けてほしいなら必要か。私は魔法しか使えないし、まだ若干疲労もある今回は2人に任せることにしよう。それに私は明日は休みだし。
「もう!みんなつれないなぁ!そんなパンプキンみたいな態度しちゃってさ!人助けだよ!」
またエイミーからいつものが出るが、ならなんで聞くんだと言う疑問もあるのだけどね……
「じゃあこの依頼は私とミリーナとアイリーンでやるしかないか。」
「えぇ!?待って!また!?いつ私がやるって言ったのよ!」
「そんな焼かれたラディッシュみたい怒らないでよアイリーン?シワが増えるよ?」
大きなお世話だ!私はまだ全然若いし!そう反論しようと思うと横からルーシーの声が聞こえてくる。これは助かったのか?そう思って振り向くとルーシーはなぜか笑顔を私に向けてくる。なんか嫌な予感しかしないけど……。
「アイリーン。子供だけで行かせるのは心配よ私は。」
「え?」
「誰か1人大人が行くべきよね?そうは思わないアイリーン?私の言っていることは分かるわよね?」
ずるい。これはもう遠回しに私に行けと言っている。ここでそんな言い方されたら断れるわけがないじゃない。
「……やるわよ。やればいいんでしょ?」
「やったー!アイリーン頑張ろうね!」
「アイリーンちゃんが来てくれるなら魔物が出ても心強いよね!」
エイミーとミリーナはすごく喜んでいるからいいか。私はエイミーとミリーナと共にその手紙の依頼を受けることになった。
次の日、私たちは山を下り、エルメスさんの家があるロンダル村に向かっていた。馬車に乗っている。やっぱりこういう時は馬車があるといいわよね。お金かかるけど。
馬車をしばらく走らせると周りには雄大な自然が広がっていて、のどかな風景が広がっている。少しの間見惚れてしまうほど綺麗な景色だ。ピースフルの景色も悪くないけどね。
「うわー自然豊かな場所だね?こんなところに住んでるなんてエルメスさんどんな人なんだろ?」
「さぁ?この前のルガーノみたいなやつじゃなくて、まともな人間だと良いんだけど……」
そんなことを話していると、ようやく村が見えてきた。村に入ると畑や家が立ち並んでおり、それなりに活気がありそうだが、規模は小さく、人口も100人くらいだろう。これならエルメスさんの家の場所はすぐに分かりそうだ。
村に入り、聞き込みをする。幸いなことに、村の人たちは親切ですぐにエルメスさんの家に案内してくれた。エルメスさんという方は優しい方らしく、村人たちにも慕われていたようだ。そして私たちが到着するとすぐに出てきた。
「あっ。あなた方が『なんでも屋』さんですか?わざわざこんなところまでありがとうございます。」
エルメスさんは優しそうな方で、顔色もよく、体調はかなり良さそうに見える。病気とかではなさそうだな。
「いえ。大丈夫ですよ。それでエルメスさん。早速お話を聞かせてもらえますか?」
「はい……。実は……私の村にいる女性のことなのですが……」
そして話を聞くとこうだ。ロンダルの村に1人の女性が住んでいる。名前はオフィーリア。歳は56歳だが見た目はとても若々しい方で、その彼女はもう何十年も同じ魔物と戦っているらしい。
しかし数年前から体力が衰え始め、その魔物との戦いの傷も増えていく一方だそうだ。このままでは危険なのでなんとかしてほしいと言う依頼らしい。
「要は魔物討伐になるのかしらね?はぁ。仕方ないけどさ。」
「なんで何十年も同じ魔物と戦ってるんだろうね?」
「エイミー、アイリーンちゃん。とりあえず。そのオフィーリアさんに会いに行こうか!」
こうして私たちはエルメスさんの話を聞き、そのオフィーリアさんに会いに行くことにするのだった。