23. 教えます
今日も今日とてこの窓を拭いている。カウンターを見ればルーシーが昼寝をしているし。全く平和なのはいいことなんだけどね。宮廷魔法士だった時は朝から晩までほぼスケジュールが管理されていたし、自由時間は大体、読書かお茶か……。なんか今思えば本当に楽しかったのかなって不思議に思う。
「さて……と、裏庭でも掃除しようかしら……」
私は掃除道具を持って裏庭に行こうとした時だった。入り口の扉に影が見えた。
「あら?本当にお客様が来たのかしら」
と思ったのだけど。そのシルエットは見たことがあるものだった。
「ん?あれは……ロイドじゃないかしら?」
そう思いながら私は扉が開くのを待つ。しかしいくら待っても扉が開かない、でもロイドの影は見えている。そして入口をウロウロして、また扉の前に見える。ここが農村ピースフルじゃなければ誰かに通報されているくらい不審な動きだ。
「どうしたのかしら……」
また緊張して開けられないってパターンよねきっと。はぁ……仕方ない。私はそのまま入口の扉を開ける。すると突然開いた扉にロイドは驚いて後ろに倒れそうになったけどなんとか踏みとどまったみたい。
「どうしたのロイド?ずっと影が見えてたけど。私に何か用かしら?それともルーシー?」
私は精一杯の笑顔で聞く。するとロイドは少し恥ずかしそうな顔をしながら言う。
「あ、あの……アイリーンさんに……」
「私?」
「その……これ……」
「えっ?」
そう言ってロイドが差し出したのは小さな魔法石だった。私は首をかしげる。いやだって魔法石は基本的に高価だし、私にくれようとしているわけじゃないわよね?ん?待てよこの色って……。ああ……そういうことか。
「あのロイド。もしかしてこの魔法石に魔力を込めればいいのかしら?まだ魔力が通っていないものね。」
たぶんそういうことだと思うんだけど……どうなのかしら?私がそんなことを思っていると、ロイドは首を縦に振った。
「そう。とりえず中には入って。何飲む?オレンジジュースでいいかしら?」
「……はい。」
ロイドを中に入れ、あえてカウンターのルーシーが寝ている横に座らせる。するとさすがにルーシーが目を覚ます。
「ん?あれロイド?ここ家だっけ?」
「寝ぼけてないで起きてお店見てて?私、今から魔法石に魔力を込めるから」
「ふーん。ねぇ私も見学しようかしら?」
「別に構わないけど……」
どうせ誰も来ないだろうし、万が一誰かが来てもまぁ分かる場所にいるからいいか。私はカウンターに魔法石を並べていく。えっと……10個ほどあるわね。とりあえずどうするかロイドに聞かないと。
「何をどうすればいいのかしら?」
「えっと……火属性を3つ、水属性を3つ、風属性を3つ、あと……土属性を1つ作ってほしいです。」
「はいはい。待っててね」
私は言われた通りに魔法石を作っていく。正直どれも簡単だからすぐにできてしまう。
「できたわよ。これでいいのかしら?」
「ふーん。そんな簡単にできるのね、へぇーいろんな色がついてるわね。」
「アイリーンさんありがとう。それで……お願いがあるんですけど……」
「なにかしら?」
ロイドは下を向いて顔を赤くして震えている。そして顔を上げるとロイドは大きな声で言ってくる。
「あのボクにも作り方教えてください!!」
「へ?ええ……いいわよ。」
私はそんな事言われると思ってなかったからびっくりしてしまった。私はロイドに説明をする。といってもほとんど同じ手順なんだけれど。ただロイドは真剣に聞いてくれる。やっぱりロイドって良い子よね。
「という感じかしらね。ちなみにロイドの属性は分かるの?」
「ボクは炎属性です。」
「属性って、アイリーンは色々作れているわよね?」
「ああ、私は大体の属性は使えるから。でも一番得意なのは炎かしらね。それで、できるかしらロイド?」
私は笑いながらロイドに言う。するとロイドは恥ずかしそうにしながら答える。
「はいやってみます」
そう言ってロイドは集中し始める。すると手には小さな光が集まってくる。
「あら……光ってきたわ」
「なかなか筋がいいかもしれないわねロイド」
するとロイドの手には火の魔法石ができていた。まだほんの少し赤く光るだけの小さいものだったけど間違いなくそれは魔法石と呼んでもいいものだった。
「できた……」
「良かったわねロイド。アイリーンの教え方がよかったのかもね?」
「そんなことないわ。うん。できてるけど、まだまだ魔力量が足りないわね。でも、魔法石になっているわ」
「そうですね……もう少し魔力量があれば……」
「それなら……こうすればどう?ちょっと貸してもらえるかしら?」
私はロイドから魔法石を受け取る。すると私の手元にあった魔法石は赤くなり、さらに強い光が放たれ始める。私はそれをロイドに返す。
「はいどうぞ」
「すごい……こんなに早く作れるなんて……」
「ロイドは魔法石を作るための魔力が足らないみたい。もっと練習したらできるようになると思うわ。」
「うん。ボク頑張る。だから……また教えてほしいアイリーンさん……ダメ?」
「ううん。いいわよ」
私がそういうとロイドは嬉しそうに微笑み、やる気満々の顔をしている。するとルーシーは横でニヤニヤしていた。
「なに?」
「いえ、別に~?意外に面倒見がいいんだなぁって思ってさ?それよりそろそろお昼にしましょうよ?私もお腹すいてきたし。」
なによそれ……。まぁでもこうやって誰かから頼りにされるのも悪くはないかもね。そんなことを考えながらお昼ご飯を食べいつものように過ごすのでした。