22.　捜索しなさい　～王宮side～

　ここはフローレンス王宮のある一室。内装は落ち着いた雰囲気のもので統一され、窓の外には王都の夜景が広がっている。部屋の主であるクリスティーナ＝フローレンスは、大きなベッドの上で膝を抱えながらぼんやりと虚空を見つめていた。

「はぁ。アイリーン…無事だといいけど。」

　ため息をつきながらアイリーンのことを思う。あの後、あの憎き貴族の王宮魔法士のあの２人をアイリーンと同じく追放し、アイリーン捜索をするように仕向けたがその２人からはなんの連絡もない。

　それにもしかしたら既に死んでいるか、どこかで野垂れ死んでるかのどちらかかもしれない。まあ、あの２人はどうなろうと構わないのだが。

　それよりも今は自分の方が心配だった。自分がやったことは決して褒められたことではない。しかしそれでも自分はアイリーンのために行動したのだ。

　アイリーンとは王立学院時代からの親友だ。アイリーンのほうが自分より３つ上だが一番仲良くしていた。それは初めて会った時アイリーンに言われたあの言葉。

『ふーん。王女様って意外に普通なのね？私はアイリーン＝アドネス。よろしくクリスティーナ。』

　自分を特別扱いしない。それがどれだけ嬉しいことだったのか、きっとアイリーンは分かっていないだろう。生まれてから周りには自分の地位を知って頭を下げながら集まっている者しかいなかった。そんな中で対等に話してくれる存在がどれほどありがたかったか……。

　そんな事を考えていると扉がノックされる音が聞こえた。慌ててベッドから出て扉を開ける。そこには侍女長のオリビアの姿があった。

「お休みのところ申し訳ありません姫様。お客様がいらっしゃいましたのでご案内いたしました。」

　そう言ってオリビアは一礼する。

「こんな夜に？分かったわ。すぐに行くとお伝えしてちょうだい。それとお茶の準備もお願いね？」

「かしこまりました。では失礼します。」

　再び一礼するとオリビアは退出していく。一体誰が来たというのか？まさか父上だろうか？いや、それならオリビアがわざわざ部屋まで来る必要はないはずだ。だとしたら誰なのかしら？ 不思議に思いながらもとりあえず準備を整えて客間に向かう。そして中に入る。するとそこにはフローレンス王国第３騎士団団長のラスターがいた。

　突然現れた意外な人物に思わず目を丸くする。どうしてここに騎士団長がいるのかしら？

「夜分遅くに申し訳ありません。急ぎで報告がございます。」

「構いませんよ。それで何の報告ですか？」

　少し警戒しながら尋ねる。もしや他国が攻めてくるとか、凶悪な魔物が現れたとか、そういう事だろうか？でもそんな素振りは全くないようだけれど……。

「はい。実は……キングゴブリンの死体が見つかりました。王都から北東の森の中に住み着いており、人々を襲っていると言う情報があった魔物です」

「それがどうかしたのかしら？別にギルドの冒険者とかに魔物が討伐されたのでは？」

「いえ、問題なのはそれを誰が討伐したかなのです。キングゴブリンは手練れのギルド冒険者ですら逃げ出す程の魔物です。それを討伐する。それに……」

「それに？」

　ラスター団長は一旦言葉を切ってから続ける。

「どうやら…上級魔法で仕留められているようなのです。」

　……えっ！？︎上級魔法！？︎ちょっと待って！確か上級魔法の使い手はこの国では数えられる人物しかいないわ！？︎ ラスター団長の言葉を聞いて頭が真っ白になる。期待と不安が入り交じった妙な感覚になるが、なんとか冷静さを保とうとする。

「そのキングゴブリンを討伐したのは？まさか…」

「はい。アイリーン＝アドネスではないかと推測されます。もしかしたら凶悪な敵がこの国に紛れ込んでいる可能性もありますが。ほぼアイリーン＝アドネスで間違いないでしょう。」

「アイリーンが…それはいつの事ですの！？」

「ここ一週間の事かと。」

　アイリーンはどこかで生きている。そっと胸を撫で下ろし期待に笑みがこぼれる。よかった。やっぱりあの子は強い子だ。

「ラスター団長。それなら引き続きアイリーン捜索をお願いしますわ。彼女はこの国にとっても必要な人物なの。」

「王女のご命令ならば。我が第３騎士団はアイリーン＝アドネスの捜索に尽力いたします。」

　そしてクリスティーナは淡い期待であったがアイリーンとの再会を期待していた。彼女が帰ってきた時、自分はどんな顔をすればいいのだろうか？そんなことを考えながら眠りについたのであった。