21. 幸せになります
私は森の中に入っていったエイミーとキールを探しに行く。こんな短時間でどこに行ったのよあの子たち。村の近くならそこまで心配ではないけど、一応離れれば離れるほど魔物と遭遇することもある。危険なのは変わりない。
そうして森を奥へ進むこと数分。声が聞こえてきた。おそらくエイミーとキールだろう。私が近くまで来るとエイミーとキールが言い争っているのが聞こえる。というより口喧嘩か。
「魔法なんて使えなくたっていいんだ!」
「だからってサイラスの話聞かないとダメじゃんか!」
「オレは魔法なんて嫌いだ。魔法のせいで……オレの父ちゃんは……戦争で死んじゃったんだ!あんなにすごい強くて格好よかったのに……魔法なんか使えなければ戦争にだって行かずに済んだのに……」
なるほど、戦争で……キールの父親は魔法騎士だったのか。だからキールはふてくされてるのね。
「だからオレは魔法なんていらない!魔法は人を不幸にするだけだ!」
「そんなことない!魔法は人を幸せにしてくれるよ!アイリーンの魔法はすごい大きな魔物だって倒せちゃうし!ミリーナの魔法は人を救ってくれたり、土に栄養を与えて野菜も救ってくれるんだから!」
「そんなこと言って野菜おさげだって魔法使えないじゃないか!!」
「使えるよ!私だって魔法を使えるんだから!」
は?そんなことできないじゃないあなた。
「じゃあ見せてくれよ!」
「うん!分かった見てて!」
えっ!?ちょっちょっと待って!!どうすんのよいくらなんでも。茂みから出ようとした瞬間。エイミーは大きな声で言った。それは私がこの近くにいることに気づいているかのように。
「我願いまする。じゃなかった……野菜を守る大地の神様?えっと……高級ラディッシュ様!!私の呼びかけに答えてお願い~!!」
……はい?今なんて言ったのかしら。すごい適当な詠唱ね。私はため息をつきながら地面に手を当てる。
「なんだよ野菜おさげ!何も起こらないじゃないか!嘘つき!」
「嘘じゃないって!もう一回もう一回!もっと大きな声で……」
私は茂みの向こうから詠唱を始める。たまには『なんでも屋』の代表にもいい格好させてあげようかしらね。
《我願う。創造する大地の女神よ…我の呼びかけに答えよ。そして力を貸せ》
その言葉とともに地面が揺れ始める。揺れはどんどん大きくなっていく。あらら?少しやりすぎたかしら……。私は二人に声をかけようと茂みの外へ出る。
「おーい!大丈夫!」
「アイリーン!やりすぎ!」
「す……すげぇ野菜おさげ……本当に魔法が使えたのか!?」
「まっまぁね……!」
エイミーは胸を張る。まぁたまにはいいわよねこういうのも。
「すごいや野菜おさげ!魔法が使えるなんてすごいぞ!……父ちゃんもすごかったから……」
そんな時、反対側の茂みから魔物がやって来る。これはマズイかも。エイミーとキールは驚いて腰を抜かす。
「わわっアイリーン助けて!!」
「ひっひぃいっ!!」
「エイミー!キール!下がってて!」
私は急いで二人の前に立つ。オークか……ちょうどいいわね。魔法のすごさを教えてあげないと。
《我望む。我が魔力を糧として力を与えよ。大地を揺るがし、雷鳴轟け!》
私は右手を前に出す。すると黄色の魔法陣が現れ、そこから雷が落ちる。ドガーンッと大きな音を立てて雷は落ちた。そしてオークは黒焦げになって倒れている。ふぅ……このくらいでちょうどいいわ。やっぱり威力ありすぎるのも考えものだしね。
「やっぱりアイリーンの魔法はすごいね!」
「赤髪のおばさん……強いんだな!すごいや!」
「おばっ!?失礼ね!お姉さんでしょ!」
私はまだ22なんだけど……。ショックだわ。まさかおばさんなんて言われるなんて……確かにキールからすれば、私はおばさんかもしれないけどさ……もうちょっとオブラートに包んで言ってほしかった。とか子供に望んでも仕方ないか。私はキールに伝える。
「キール。あなたのお父さんは魔法で人々を救っていたのよ。あなたが今助けられたみたいにね?」
「あっ……」
「だから。あなたは魔法を嫌いになってはいけないわ。それは格好いいお父さんも否定してしまうのだから」
「そっか……そうだよな……ごめんなさい。アイリーンのお姉さん、野菜おさげ」
「ええ。帰ってサイラス先生に謝りましょう」
「うん!」
「ねぇねぇ私、野菜おさげじゃないよ!」
そして村に戻り、サイラス先生にキールは謝っていた。今回の『魔力測定』では魔法が使えるまでの素質を持った人物はいなかったけど、それでもキールは魔法が幸せになるものだと、もう一度信じてくれたならよかったかもしれないわね。
ちなみに報酬はエイミーの分の魔力鉱石にすることにした。意外に魔力鉱石って高価なものだしね。サイラス先生にも迷惑かけたし。
そして、そのあと私たちはそのまま家に帰ることにする。その道中、あの野菜おさげが私に聞いてくる。
「ねぇアイリーン。私さぁ訓練すれば魔法使えるようになるかな?何かあった時に便利だし!」
「便利って……まぁエイミーには無理だと思うわよ?」
「えぇ~ひどいよぉ!またパプリカみたいなこと言ってくる!」
「だってあなた勉強嫌いでしょ?それにそんな暇があるなら、大好きな野菜を育ててあげたほうがいいんじゃない?」
するとエイミーは『確かにそうだよね!』と言っていた。全く単純というかなんと言うか……。でもこの子はこういう子だから、魔法なんか使えなくても、きっと大丈夫だろう。まったく世話の焼ける代表だ。そんなことを思いながら野菜おさげと共に歩いて家に帰るのだった。