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4. 初仕事します

4. 初仕事します




 朝の光が窓から差し込む。いつもとは違うベッド……王宮の部屋と比べると心地の良い朝とは言えないけれど、今の私にとっては寝る場所があることに感謝だ。


 私はフローレンス王宮の宮廷魔法士をクビになり、途中で出会った『なんでも屋』のエイミーに連れられて山奥の農村ピースフルで住み込みで働くことになった。


 私はここで初めての朝を迎え支度をし朝食を食べにリビングに行くことにする。この『なんでも屋』では家事は分担でやっているみたい。私もいつかは回ってくるのか……まぁ最低限はできるから心配はしてないけども!


 というか……良く考えてみたけど、こんな農村にお客様や依頼なんか来るのかしら?それに私は何ができるのか……不安しかない。そんな事を考えているとエイミーが私を見て話かけてくる。


「アイリーンどしたの?そんな傷んだラディッシュみたいな顔して?」


 傷んだラディッシュみたいな顔って?何それ怖いんだけど!それにこの子、いつも私のことラディッシュって言ってくるけど、もっとマシな例えがあるでしょうよ。傷んでるってことは腐りかけてるってことじゃないの!どんな顔よ!私が返事をする間もなく、エイミーは言葉を続ける。


「あっ分かった!嫌いな食べ物あるんでしょ~?ダメだよアイリーン。好き嫌いしちゃ?大きくなれないぞ?」


「違うわよ!子供か私は……」


 ……というかどこ見てるのよ。私は普通に胸あるわよ?


「じゃあどうしたのさ~?」


 この娘には悪意というものがないのだろうか?エイミーはテーブルの上にあったパンを口に放り込みながら喋る。


「ふぉんふぇふぃふぉうひゅったふぁい(それでなんで落ち込んでたの)?」


「ちゃんと飲み込んでから話しなさいよ……」


 行儀悪いわね……本当にこの子は大丈夫なのかしら?


「ゴクンッ!それでなんで落ち込んでるの?」


「別に落ち込んでたわけじゃないわ。ただ……この『なんでも屋』で、私は何ができるのかなって思って」


 すると今度は隣に座っていたレイダーさんとルーシーが口を開く。


「アイリーン。安心しろ。やることなんて沢山ある。それにお前さんには立派な魔法の才能があるじゃないか。それを生かす仕事をこなせばいい」


「そうよ。私たちは『なんでも屋』なんだから、やりたくないことはやらなければいいわ。どうせ誰かがやるしね?」


「もう2人とも本当にパプリカみたいなこと言うよね!」


 パプリカみたいなこと言うよね?ラディッシュの次はパプリカか……意味がわかんないわ。でも別に宮廷魔法士の仕事をしなくてもいいのだから。私がやりたいことをすればいいのよね。


 私は意味のわからないエイミーは放っておいて、2人になんでも屋の事を聞くことにする。何か依頼があればとりあえずやりたい人がやるらしい。


 基本簡単な仕事が多いらしい。畑を荒らす魔物退治や害獣駆除などもあるようだ。その辺りなら魔法が使える私にもできそうな気がする。


「さて私はお店の方にいこうかしらね。あと片付けお願いしてもいいかしらね。ミリーナとロイド」


「うん。やっておくねルーシーちゃん」


「はい。いってらっしゃい」


 そういうとルーシーはお店に向かった。まぁこの家の横なんだけどね。そしてミリーナは食器類を持ってキッチンに向かう。そしてロイドがみんなに声をかける。こうして初日の私のなんでも屋としての生活が始まった。



 ◇◇◇



 さて初仕事だ!と張り切っていたけど、開店しているお店で私はお客さんの来ない店内を掃除をしたり、品出しをしている。もう何度目だろう……この窓を拭くのは?とにかくやることがこれしかない。私がカウンターに目をやると椅子に座ってルーシーがうとうとしている。……大丈夫なのこの人?


 まさかこれで今日が終わるのかしら?そんなことを考えているとお店の扉が開く音が聞こえた。


 カランカラン♪ これは初めてのお客様だ!そう思った私は入り口の方を見ると、そこには見たくないあの野菜娘がいた。


「なんだ。エイミーじゃない?どうしたの?」


「いらっしゃいませ。でしょアイリーン?まったく挨拶もできないの?困るよ!」


 うっ……確かにそう言われたらそうだけどさ。私だって礼儀作法くらい知ってるわよ!そもそもあなたにだけは言われたくないからね?この野菜娘!と心の中で悪態をつく。すると椅子に座って半分寝ていたルーシーが聞く。


「ふわあ……なんか用事じゃないのエイミー?」


「あっ!そうそう一大事なんだよ!」


 一大事?こんな何もないのどかなこの村で何があるというんだろう? 私は不思議そうな顔をして聞いていた。するとエイミーは私の方を見て話す。


「あっアイリーン。力を貸して!」


「え?私なの?」


「うん!今すぐ私と一緒に村の広場に来て!」


「ちょっと!痛いって!エイミーあなたいつも馬鹿力なのよ!」


 エイミーは私の腕を掴んで無理やり歩き出す。一体何事なのだろうか?とりあえず私は黙ってエイミーに引っ張られていく。まったく……本当にこの子は忙しないわね……

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