4. もう二度と ~ルナレット視点~
私は『閃光』の過去を話してエルンちゃんの家を出て、自分の家に帰ることにする。
正直。エルンちゃんは最後は笑顔だったけど、きっと迷わせてしまったと思う。やっぱり私はギルド受付嬢失格だ。
「はぁ……私何やってんだろう」
そんな独り言を呟いても答えてくれる人は誰もいない。私の家は王都の端っこの方にある小さな一軒家。一人暮らし。
両親は冒険者ではないけど、昔は結構有名なパーティーにいたらしく、そこそこ強かったらしい。でも今は引退して辺境の地に住んでる。
私が家にたどり着くと家の前に見知った顔がいる。
「ブレイドさん?」
「ああ。突然すまんな」
「私の家の住所知ってましたっけ?」
「他のギルド受付嬢に聞いたんだ。どうしても話したいことがあってな」
私の個人情報は漏洩っと。まぁ私もエルンちゃんの家の住所勝手に調べたから人のこと言えないけど。それにしてもこんな遅い時間でも、わざわざ来るなんて、きっとエルンちゃんのことだよね。
「とりあえず立ち話はなんなので中へどうぞ」
「いや、ここでいい。誰かに見られて変な噂とかになっても困るしな」
なんかそれは私の台詞のような気もするけど、ブレイドさんなりに気をつかっているみたいだし、まぁいいか。
「それでお話しってエルンちゃんのことですか?」
「……お前余計なことをするなよ。あいつは間違いなく『閃光』を越えるギルド冒険者になる。その可能性を潰すことだけは許さないからな」
ブレイドさんの目は本気だ。そしてブレイドさんは続けて話していく。
「エルンはお前のことを信頼している。だからもう迷わせるな。あいつの気持ちを考えるならな」
ド正論。ブレイドさんの言っていることは正しい。でも、私はその言葉を聞いて無意識に言葉を発していた。それと同時に大粒の涙も流してしまう。
「……私はエルンちゃんまで失いたくない。もう二度とあんな思いはしたくない……ただそれだけなのに……」
「おっおいルナレット……」
そしてそのまま号泣してしまった。今までのエルンちゃんへの感情、過去のシャーリーとの思い出色々なことが溢れてきて止まらない。
そんな私を見てブレイドさんが慌てている。そりゃそうだよね。いきなり泣き出したら誰だって驚く。だけど今の私は感情を抑えることができないでいた。
しばらく泣いて落ち着きを取り戻した私は改めてブレイドさんに謝罪をした。ふと我に返る。正直26にもなって恥ずかしい……。
「すみません。取り乱してしまいまして」
「いや……オレのほうこそすまなかった。少し言い過ぎた。」
そう頭をかきながらブレイドさんは謝ってきた。そして私の目をしっかりと見て話をしてくれる。
「とにかくだ。これはあいつが決めることだ。だからあいつがどんな決断をしても優しく見守ってやるんだな」
「はい。でも……ブレイドさんはそれでいいんですか」
「ああ?お前はオレのことも心配してるのかよ?余計なお世話だ。それにリーダーはエルンだ。あいつが決めたことなら従うさ」
「なんでそこまでエルンちゃんを?」
するとブレイドさんは少し間をあけてから私に話す。その顔は少し笑みが見えるようだった。
「あいつはまだ経験不足、すぐ調子にのるし、無茶ばっかりするし、まだまだガキだが、オレはエルンがかつての最強パーティーと呼ばれた『閃光』を越えると思っている。ただそれだけだ」
ブレイドさんの言葉にはどこか説得力があった。それは長年冒険者をしてきた経験からくるものなのか、それとも別の何かがあるのかわからない。でも一つだけわかることがある。それはブレイドさんがエルンちゃんを認めているということだ。
「それをエルンちゃんに言ってあげたらいいのに」
「言ったら調子にのるだろ?いいんだよ……オレは……あいつを導いてやれればな」
「そうですか……」
ブレイドさんが照れてるように見えるけど、気のせいではないと思う。きっとこの二人はお互いに信頼という感情が芽生えているのかもしれない。
だから私も信じようと思う。もしかしたら本当にこの二人がかつての最強パーティー『閃光』を越える日が来ることを。そして、その時ギルドのみんなに自慢しよう。この二人をパーティーに組んだのはギルド受付嬢の私だってことを。