3. 『閃光』の過去
私の家の前でルナレットさんが待っていた。私に大事な話があるみたいだけど……一体何なんだろうか。とりあえず私はルナレットさんを家に招き入れることにする。
「適当に座ってください。お茶入れてきますから」
「うん。ありがと。へぇ~ここがエルンちゃんの部屋か……うんシンプルだね」
あまり見ないでくださいルナレットさん……。私の部屋はテーブルとベッドくらいしか置いていない。お洒落女子のようなコスメやアクセサリー類などは一切無い。アロマや観葉植物とかもないし、殺風景な部屋だと思う。正直女子力ゼロだ。
私はルナレットさんにコーヒーを出す。しかしこのまま女子力がないと思われるのは嫌なので、見栄をはる。そう見栄。決して嘘じゃないから。
「いや~いつもは高級茶葉の紅茶を飲んでるんですけど、今は切らしててコーヒーですいません。」
「そうなんだぁ意外。でも私はコーヒー好きだから気をつかわないで大丈夫だよエルンちゃん」
微笑みながら私に言うルナレットさん。なんか普通に大人の対応をされてしまった。私は恥ずかしくなり顔を赤くする。
「うん。コーヒー美味しい」
「あのルナレットさん。ところで私に話って一体なんですか?」
するとルナレットさんは少し間をあけてから私の顔を見る。すごく真剣な表情をしているんだけど……。
はっ!もしかしてルナレットさんは怒ってるんじゃなかろうか。『あのさエルンちゃん最近調子乗ってない?』とか『誰のおかげでギルド冒険者続けられてると思ってるの?』とか言われたら私はショック死してしまうかもしれない。
「エルンちゃん」
「はっはい!」
私はビクビクしながら返事をする。
「ごめんなさい!」
「えっ?」
ルナレットさんの言葉に驚く。この人は何を言っているんだろうか。私は謝られるようなことをされた覚えはない。
「私、ギルド受付嬢として最低なことしちゃった。依頼を受けるかは冒険者が決めることなのに。本当にごめんエルンちゃん。」
ルナレットさんは私に頭を下げている。
「ちょっ!ルナレットさん頭をどうか上げてください!」
慌てて私は声をかける。そしてなんとかルナレットさんの肩を持ちあげて顔を上げさせる。
「ルナレットさんが私に謝ることは何もありませんよ。それに私のためを思って言ってくれたんですよね?だから謝らなくて大丈夫ですから!」
「エルンちゃん……ありがとう」
本当にルナレットさんは優しい人だ。でも、だからこそ私を止めた理由は気になる。
「あの……良かったら理由を聞いてもいいですか?」
「それは……」
「あっ話せないことなら無理には聞かないので。」
「……ううん。本当はブレイドさんが話すべきだと思うんだけど、こうなったら話すね。ブレイドさんが最強のギルド冒険者パーティー『閃光』だったのは知ってるよね?」
「まぁ……はい。」
「……『閃光』が解散したのは王国特級任務依頼のあとのこと。その依頼で1人の女性メンバーを亡くしたの」
亡くなった……それってブレイドさんが言っていた……。
「その子の名前はシャーリー。雷魔法と素早い槍術が得意で『雷神乙女』と呼ばれてた。私の親友だった子。」
やっぱりシャーリーさんだったか……。ん?待てよ。『閃光』で槍を使う女性って!私が憧れていたのはシャーリーさん!?まさかこんな偶然があるなんて……。
「あの日。『閃光』は今回と同じくある街の魔物討伐を依頼されていた。ブレイドさんはああ見えて参謀的な存在だから、仲間の配置と作戦を決めたの。もうその時の『閃光』には魔物に負ける要素がなかった。それくらい強かったの。でもあるアクシデントが起きてしまった」
「アクシデントですか?」
「……シャーリーが配置していた場所に本来いるはずのない『禁魔種』のケルベロスが現れたの。」
禁魔種。それはこの世界の暗黒大陸と呼ばれている場所でしか存在しないとされている存在。プラチナランクのギルド冒険者が複数人いて、やっと討伐できるレベルの危険な魔物のはずだよね?
「どうしてそんなところに禁魔種が……?」
「それはわからない。シャーリーは何とかその禁魔種ケルベロスを退けることができたけど、そのまま……ね。」
「そんなことが……」
「それからというもの『閃光』は変わってしまった。そして解散することになったの。」
なるほど。ブレイドさんの作戦でシャーリーさんは亡くなったというわけか……責任を感じているのかもしれない。
「だからさ。エルンちゃんにはそんな危険な目にはあってほしくないの。それが私が止めた理由。でも決めるのはエルンちゃんだから。私のことは気にしないで」
ルナレットさんは私に笑顔でそう言った。その後は普通に雑談をしてルナレットさんは帰っていった。
そしていつも通りの1人の部屋。私はそのままご飯を食べ、お風呂に入り、ベッドに寝転ぶ。
ふと天井を見上げながら考える。『閃光』の過去。最強と呼ばれたパーティーでも命を落とす。
王国特級任務依頼……
私は……正直迷っていた。