8. 約束のアクアマリン①
あれから少し時間が立つが、なぜかミーユが戻って来ない。なんかトラブルかな?そんなことを思っていると、困った顔をしたルナレットさんが報酬の入った布袋を持ってやってくる。
「おいルナレット。何でお前がそれを持ってくる。ミーユはどうした?」
「なんか用事があるって、すごい顔して今さっき出ていっちゃって」
「え!?あのルナレットさん、その時、何か変わったことありませんでしたか?例えばライゼンバッハ帝国の皇女探しの件とか!」
今考えられるのはそれくらいしか思い付かない。ミーユが私たちに何も言わずに出ていくなんて余程のことだ。
「えっと確か……懸賞金が倍になったのよね。あとは西の山奥のゴーバーン村で皇女様らしき人物が目撃されたとか、あとは『黒蠍』と呼ばれている、山賊、盗賊の複合集団に捕らえられているかも。という情報が更新されたのよね」
「それだ……マードックさんの情報と同じ。ブレイドさん!私たちも急いでミーユのあとを追いましょう!ミーユはきっと助けに行ったんです。その秘宝を持つ女性を!」
「エルン……お前ミーユの事……まぁいい。アティ動けるか?」
「はい!ミーユさんは私たちの仲間です。疲れたなんて言ってられませんよね!任せてください!」
こうして私たちはミーユのあとを追って山奥のゴーバーン村に向かうことにする。正直もう日が暮れてしまう、それでもミーユの事が心配だからそんなことは関係なく進み続けている。
「そういえばブレイドさん、ルナレットさんが言っていた『黒蠍』っていう集団分かりますか?」
「存在自体は効いたことあるが、詳しくはわからん。山賊と盗賊の複合集団なら、山というのはあいつらに地の利があるな。まだ戦うとは決まっていないが気をつけたほうがいい。」
「もし戦うことになっても私がハンマーでボコボコにしますから安心してください!」
アティは俄然やる気を出している。それは頼もしいけど戦わないことに越したことはないけどね。そのまま私は進んでいく。
しばらくすると山道に入る。もう辺りは日が落ちて暗くなっている。
「暗くなってきましたね。ミーユは無事なのかな?もしかして『黒蠍』にやられてたら……」
「エルン。悪いことを考えるな。その考えで戦闘になったら冷静な判断が出来なくなるぞ。」
「ブレイドさん……すみません。」
確かにブレイドさんの言う通りだな。私は両手で自分の頬を叩き、悪い考えを吹っ切る。私たちがミーユを必ず助ける。その時ふと思い出したかのようにアティが話し始める。
「あのひとついいですか?その目撃された秘宝らしき物を持つ女性って皇女様なのでしょうか?」
「さぁな。ただ秘宝を持っているという事実は変わりないだろう。」
ミーユはその女性と何か関係があるのは間違いない。その答えをアティが教えてくれる。
「ミーユさん、今まで自分の事を認めてくれた人が1人しかいなかったと言ってました。もしかしたらその女性がそうなのかもしれませんね。そしてギルドで『黒蠍』という集団の事を知った。」
「オレたちに黙って1人で出ていくくらいだからな。それは間違いないだろうな。」
「ミーユ……」
ミーユを認める人、それならミーユは生まれてから誰にも認めてもらえなかったということだよね。そんな悲しい過去があるなんて、早くミーユを助けてあげないと。そのまま進んでいくと分かれ道にたどり着く。正直もう暗くてどっちの道がどこに繋がっているかわからない。
「分かれ道……」
「ミーユさんはどちらに行ったんでしょうか?」
「うーん……分からない。間違ったら時間の無駄だし、どうしますかブレイドさん?」
するとブレイドさんが私とアティに伝えてくる。
「考えても無駄だ。1つ分かるのはミーユは間違いなくその女性がいるところへ向かった。あいつは『
「確かにそうですね!ミーユさんはそのスキルで見た可能性がありますね……」
「ああ。ただ時間がないかもしれない。エルン、お前は1人でそっちの道を進め。オレとアティがこっちの道に進んでいく。お前のスキルなら大丈夫だろ?」
私は首を縦に振る。もちろんそれは大丈夫。それに私には新しい優秀な相棒もいるしね。私は左の腰に差している
「よし。それでいこう。エルン気をつけろよ」
「はい、ブレイドさんとアティもね。」
私たちは二手に別れて進んでいく。道は暗く先は見えない、正直どっちがミーユが通った道かはわからない、それでも私たちが必ず助けるからねミーユ。あなたは1人じゃないんだから!
◇◇◇
-ゴーバーン村-
村は今危機が訪れていた。それは『黒蠍』の盗賊が村を焼き払おうとしていたからだ。灯りは松明のみで照らされた村の広場には村人たちとライゼンバッハ帝国から単身で第三皇女を探しにきた皇子のウィリアム=ライゼンバッハもいた。
「皇子!お下がりください!危ないですよ」
「ひっひっひ動くなよ?動いたらこの子供を生きたまま焼き肉にしてやるからな?」
「さすがボルトのアニキ!」
その部下に呼ばれている大柄のボルトと呼ばれている盗賊は村の子供を人質に取って脅している。そこに皇子のウィリアムが言う。
「卑怯者め。私が人質になる。子供をはなせ」
「ほう正義感の強い皇子だ?でもダメだ、この村は焼き尽くせと頭の指示なんでな?この村を焼き尽くして、捕らえた第三皇女を殺し、秘宝を奪う。そういう筋書きだ。」
「我が妹も殺すつもりなのか!?」
「ああ、だからこの事実を知るものは全員殺せ。それが頭の指示だ、さぁまずは村を焼き払え!」
盗賊たちには慈悲はない。この絶命の危機を翻すことなど到底できない。村人たちとウィリアムは神に祈るしかなかった。その時だった、とてつもなく鈍い音が聞こえ人質を捕らえていた部下の盗賊は吹き飛ばされる。
「ぐあああぁぁぁぁ!!!痛てぇよアニキ……腕がぁ!!」
「何だ!?」
そして
「何者だ!?」
「チッ……外したか。でも人質を助けられて良かったです!」
「ああ。上出来だアティ。ただあまり単身で乗り込むな?」
「すいません。人質を見ていてもたってもいられなくて」
そうだ、ブレイドとアティが進んだ先にはミーユはいなかったがゴーバーン村があった。異変に気づき助けにきたのだ。
「あの……あなたたちは?」
「ローゼンシャリオのギルド冒険者ですよ!第三皇女を探しに来ました。どうやらもう村にはいないみたいですけど……」
「あなたはライゼンバッハ帝国の皇子ウィリアム=ライゼンバッハとお見受けする。間違いないですか?」
「ああ、我が妹はこの村にはもうおらぬ。あいつらに捕らえられているんだ」
その発言を聞いてブレイドとアティはすぐに気づく。エルンが進んだ先にミーユもいるということに。そして大柄のボルトが言い放つ。
「残念だったな。第三皇女は頭が捕らえている。王家の秘宝はオレたちの物だ!」
「アティ。皇子と皆を頼む。あいつはオレがやる」
「わかりました。任せてください!皆は守ります!」
ブレイドはそういうと剣を抜き、ボルトの前に向かう。余裕があるようにその足取りはゆっくりと。
「なんだお前?まさかオレとやるつもりか?」
「見りゃわかるだろう?お前みたいなバカを相手にすると疲れるんだが?大人しく帰れ。帰るなら命は助けてやるよ」
「ああ!?ふざけ……!?」
その瞬間ボルトの左腕が落ちる。ボルトは何が起こっているのか理解できていなかった。あまりに速い斬撃。それは元『閃光』のブレイドの実力を見せつけるものだった。
「今なら左腕で勘弁してやるよ。もし帰らないのならお前は今ここで死ぬんだな?」
「ふざけるなぁぁ!!!!!!」
「バカ相手は疲れる……」
ブレイドの剣はボルトを斬り刻みボルトはその場に倒れ込む。盗賊に襲われていたゴーバーン村で『黒蠍』と対峙したブレイドとアティは圧倒的な力を見せつけるのだった。