11. 追放者の反逆戦 ~エピローグ~
勝負の日から2日がたった。私たちのパーティーはクロスのパーティーとの勝負に勝った。クロスが負けたことで全員から私とアティに謝罪の言葉が送られた。かなり納得のいってなかった顔をしていたけどね。そして関係ないオリバーとアリシアが一番謝っていたような気もするけど。
クロス達のパーティーは武者修行をすると行って東のウインダリア王国のギルドへ移ると最後に言葉を残して旅立っていった。まぁ私を倒すことを目標に強くなるのならあいつらには私の存在が常にいるという事。これに懲りて素直に人を見てあげることができればいいのに。パーティーとしての実力はあるんだし。
目的の依頼物をギルドに届けて私は無事シルバーランクへ昇格し、受付嬢のルナレットさんも自分の事のように喜んでくれていた。こうして私はギルド冒険者として在籍することができたのだ。まぁ追放されたら終わりなのは変わらないけど……そんな事しそうなのは私の目の前で昼間からお酒を飲んでいるこのおじさんだけだと思うけどね。
私はシルバーランクの冒険証を手に握りしめそれを見る。何回見てもいいものだ。輝きが違うよね!ブロンズとシルバーじゃ!不思議と笑みがこぼれてしまう。
「その顔うぜぇ。お前……何回そのシルバーランクの冒険証を見てんだよ?酒がまずくなる」
「いいじゃないですか!こんなに長い時間シルバーランクの冒険証を持ったことないんですから!」
「まだ2日だが?」
あ~うるさい!その2日だって持ったことないんだよ私は。嫌味か?そんな会話をしているとそこにルナレットさんがやって来る。
「相変わらず仲がいいわね。エルンちゃんとブレイドさんは。あっお酒ここに置いておくわね」
「どこがですか!?」
「ルナレットお前は眼鏡をかけろ。見えてないぞ」
「そう?仲の良さそうな2人が見えてるけどね?」
ルナレットさんは微笑みながら自分の仕事に戻る。ただ何かを思い出したかのように立ち止まり、振り向いて私にこう言ってくる。
「あっそういえばエルンちゃんって、このギルドでなんて呼ばれているか知ってる?」
「えっ『便利屋』ですよね?」
「前はね。今は『壊し屋』らしいわよ?なんかクロスのパーティーをたった1人で壊滅させて追い出したって噂してるみたい。やるわねエルンちゃん?」
全然嬉しくない。『便利屋』の次は『壊し屋』か……だからここ2日で、私の事を見る目が馬鹿にした目から恐怖で見る目に変わっていたのか。でも呼び名ならもっと可愛いのが私は欲しい!
「ところでミーユとアティはどうした?」
「なんか用事があるって昨日言ってましたけど?だから今日は来ないですよ?」
「はぁ?なら今日は休み。やる気起きねぇわ」
「ダメですよ!もう依頼は受けてるんですから。ほら行きますよ!」
私はブレイドさんの腕を掴みギルドの外へ連れ出す。なぜかルナレットさんがそのやり取りを見て嬉しそうに微笑みながら私とブレイドさんを送り出してくれる。そう今日は私がギルドに在籍してからシルバーランクの冒険者になって初めての依頼だ。
「まずはお届けの依頼と、あとハイゴブリン討伐とそのあと素材探しですね。」
私は右手の指を折りながらブレイドさんに伝える。それを聞いたブレイドさんが呆れた顔で言ってくる。
「お前。なんでそんなに依頼を受けてるんだよ?」
「いやシルバーランクになると同時に3つまで受けられるから、つい受けちゃいました。」
「子供かお前は。考えて依頼は受けろよ。2人でこなす量じゃねぇ。」
「今日1日でって言ってないじゃないですか!とりあえず行きますよ。出来るところまでやりますから」
◇◇◇
そしてその日の夜。依頼をこなして私とブレイドさんはギルドに戻ると少し遅めの祝賀会を開くことにした。なんとミーユとアティが企画してくれたのだ。こんなに歓迎されたことなんて1度もない。あと意外だと思うけど、ブレイドさんは酒が飲めれば何でもいいと言いながら一応参加してくれている。
「エルンさん。シルバーランク昇格おめでとうございます!」
「うん。ありがとう。アティもミーユもだよね」
「私はあまりランクとか気にしてなかったから。エルンとパーティーが組めてラッキーだったよ。ありがとね。」
お礼を言うのは私の方だけどね。ミーユが加入してくれたから頑張れたのは正直ある。ブレイドさんと2人だったらここまで頑張れたか疑問だ。もちろんアティにだって感謝はしている。とりあえず今はこの祝賀会を楽しまなきゃ!これはみんなで頑張ったお祝いだから。
そんな中、窓際の席で窓の外を見ながらブレイドさんは1人お酒を飲んでいる。そこにルナレットさんがやって来て何か話している。そういえばあの2人はなんか最初からすごく仲がよさそうだったよね?
「あんなに両手に花なのに、こんな端で1人で飲んでるんですか?みんなに混ざらないんですか?」
「両手に花?どこがだよ。オレはあんなガキに興味はない。それに……オレみたいなのがいるとゆっくりできないだろう?同世代同士のほうがいい。こういう、依頼とは別のところではな」
「そうですか?エルンちゃんたちはブレイドさんと仲良くしたいと思っていると思いますけどね?」
「うぜぇ……お前そんなこと言うためにオレの所へ来たのか?仕事に戻れよ」
私はブレイドさんに言いたいことがあったのでブレイドさんの所へ行く。
「ブレイドさん。お酒つぎますよ?」
「ああ?……ああ……なんか気持ち悪いな」
「あのですね?素直にありがとうと言えないんですかブレイドさんは?」
私はブレイドさんの空いたグラスにお酒を注ぐ。本当にこのおじさんは反抗期の子供か?まるで私がお母さんみたいだ。そんなことはどうでもいいか。
「あのブレイドさん」
「なんだ?」
「その……ありがとうございます。ブレイドさんがいなかったら私はクロス達を見返したり、シルバーランクに昇格もできていなかった。本当にありがとう。」
「いちいち大袈裟なんだよ。まだシルバーランクだろうが。この先もっと大変なことも起きる。『閃光』と同じくらいのギルド冒険者になるにはそれくらいの覚悟が必要だ」
「あの……これからもずっと一緒にパーティー組んでくれますよね?私と一緒にこのまま、
私とブレイドさんはルナレットさんの提案でたまたまパーティーを組んだだけだ。ブレイドさんは元『閃光』。私みたいなそこらへんの一般ギルド冒険者についてくる理由もない。普段はギルドで呑んだくれてて、この可愛い美少女の私には文句や意地悪しか言わないけど、ブレイドさんは一応伝説級の人なんだよね。あまり人に素性をあかしていないようだけど。
(ブレイド君!私と一緒に世界一のギルドパーティーにならない!?いいよね?いいよね?決まりね!)
「………」
「ブレイドさん?」
「……甘ったれるな。何が世界一だ。そういうのはもっと実力をつけてから言うんだな?」
「痛っ!」
そういうとブレイドさんは返事をしないまま私の頭を軽く小突いて行ってしまった。
「う~っ寒。冷えてきたなオレも何かつまむか。おいミーユ皿をくれ!アティお勧めの料理はどれだ?」
でも……私には見えたんだ。ブレイドさんが笑っていたのを。もうそれは答えが出ているのでは?全く素直じゃない、私よりも年上のくせに。
「エルンさん何してるんですか。料理が冷めてしまいますよぉ~」
「あっゴメン。今行くね!」
私、エルン=アクセルロッドはこうして追放を29回受けたけど、ギルドで嫌われ者同士パーティーを組んだら、ある意味最強無敵になれたのでした。
でもね。これはまだ始まりの物語に過ぎない。そう私たちの物語はまだ始まったばかりだから。