1. また追放
「エルン。悪いが、これ以上お前とは一緒にいることが出来ない。今日限りでパーティーを抜けてもらう」
「……はい?」
こんな朝早くから大事な話があると言われて、私のことなんてお構いなしに所属するギルドに呼ばれた私はある程度は予想していたけど、所属しているパーティーのリーダーのクロスにそう言われる。しかも周りの目があるというのにだ。
やっぱり、今まで
「エルン。お前は今までオレたちのパーティーで何か功績をあげたか?」
「功績……」
「あげていないのは認めるな?実は先日お前の代わりに優秀な人材を見つけたんだ。だからお前には、パーティーを脱退してもらう」
クロスからエルンと呼ばれている私は、ふと視線をクロスの後ろに立つ仲間……いやもう元仲間と呼んでいい。そこに向ける。
戦士のグラッド
格闘家のリーナ
魔法使いのロード
そして、最近噂になっている聖女のような見た目の女性が立っていた。なるほど替えが見つかったから私を切り捨てると言うことか……
クロスがリーダーを努めているこのパーティーは、先日の少し高難易度の魔物討伐依頼を無事に達成し冒険者ランクがブロンズからシルバーに昇格したばかりだった。この昇格のタイミングでしかも替えの人員。前もって計画していたんだよねこれ?
やはりこうなってしまう。私は分かっていた。でもこのパーティーなら……と何度も何度も『追放』という裏切りを受けているのにまた期待をしてしまっていた。だが案の定いつもの展開になる。
まぁ何を言われるかは大体分かってはいるけど一応聞くことにする。形式的なものだから。
「あのさ。何もしてないことはないよね?それは酷くないかな?」
私のその言葉を聞いて、今までクロスの後ろに居て黙っていた元仲間たちが、ダムが決壊したかのように次々と私に言い放ってくる。
「笑わせるな。お前は何もしていない。それなら何をしたか言ってみろ?」
大剣を背負った大柄な体格の戦士のグラッドが言う。
「悪いんだけど。あんたこのギルド内で何て言われてるか知ってる?シルバーランクまでの『便利屋』よ?武器も体術も魔法も全て中途半端。この先あんたみたいな劣化版がいると、ギルドの依頼達成が出来なくなるのよ。おわかり?」
この強きな赤髪の女が格闘家のリーナ。
「まぁボクは少しは楽できたからどうでもいいけど……いなくても困らないしね」
このやる気のなさそうなのは魔法使いのロード。
『便利屋』。私はそう呼ばれている。確かにこのパーティーで特段目立つようなことをした覚えはない。それに劣化版と言うリーナの言葉もあながち間違いではない。私には得意なことが1つもない。無難になんでも出来るというのがポジティブな考えなのだけど。
だから私はシルバーランクに昇格したパーティーからいつも追放されてしまう。これで何度目だろうか。もう数えきれないほど追放されている。そしていつも言われる言葉は同じだ。『何もしていない』『パーティーの穴埋め』『その程度じゃこれから足手まとい』。もうウンザリだ。
「はぁ……分かったよ。丁度ギルドにいることだし脱退手続きをすませようか」
「それでいい。エルン。お前にはギルド冒険者は向いてない。おとなしく故郷に帰ることをおすすめするよ」
パーティーの脱退手続きをすませた私は、シルバーランクの冒険証をブロンズランクの冒険証に交換された。
またこの色の冒険証か……
クロスたちは新たな仲間と共に少しランクの高い任務を受けギルドを出ていった。その後ろ姿をただ呆然と見ていることしか出来なかった。そして私はまた独りぼっちになる。
私の名前はエルン=アクセルロッド。10年前に世界の危機、魔物の脅威から世界を救った伝説の最強ギルド冒険者パーティーの『閃光』に憧れて、2年前に田舎の村から単身で、この王都ローゼンシャリオにやってきた。
無事にギルド試験にも受かって冒険証は持っているんだけど、さっき起きたようにいつもこうなる。シルバーランクに昇格すればすぐ追放されブロンズランクにまた降格する。正直、溜め息しかでない。
「はぁ……」
私が大きな溜め息をついていると、ギルド受付嬢のルナレットさんが声をかけてくれる。
「大きな溜め息ね。エルンちゃん大丈夫?」
「ルナレットさん……えへへ。またブロンズランクになっちゃいました」
私は作り笑いで対応する。しかしそんな私をいつもは励ましてくれるのだけど、今日だけは違ってルナレットさんは真剣な顔で話を続ける。
「あのねエルンちゃん。ギルドの決まりごとは覚えている?エルンちゃんは今回で29回パーティーを『解散』じゃなくて『追放』を受けているの。30回目の追放、または任務失敗の場合は冒険証の剥奪。そしてもう2度とギルドに在籍は出来なくなるんだよ?無能力者としての烙印を押されて」
もう29回も追放されているのか……笑っちゃうな。いや笑える状況じゃないけど。
「もう私は依頼を失敗出来ないってことですよね……」
「シルバーランクに昇格するまではね。そして……」
ルナレットさんは俯きながら追い討ちをかけるように、私に衝撃的な事実を告げる。
「おそらくこのギルドにはエルンちゃんとパーティーを組む人はいないと思うよ。もしパーティーを組んで依頼を失敗すればエルンちゃんと同じくギルド冒険証が剥奪になるから」
「……ですよね。私って冒険者に向いてないかも知れないですね」
「エルンちゃん……」
悩んでも仕方ない。潔く依頼を受けることにしようと思う。ここで失敗しても仕方ないし、おとなしく故郷に帰るだけだしね。そんな時奥のほうから大きな声が聞こえてくる。
「おーいルナレット!酒を持ってこい!もう空になっちまった」
「飲み過ぎですよブレイドさん。この前のお金も払ってないじゃないですか?」
「金は払う。オレはオレの好きなようにやる。OK?」
あの呑んだくれの男は確か……『死神』と呼ばれている人物だよね。名前だけは聞いたことがある。
パーティーを組めば仲間全員が危険な目に合うという曰く付きの人物。噂では伝説の最強ギルド冒険者パーティーの『閃光』に並ぶほどの実力者だと聞いたことあるけど、このギルドでは私と同じくらい嫌われている存在……一緒にされるのが癪に障るけど、ああいうのには絶対関わらないほうがいい。
しかしそんな私の期待を裏切るかのように目があってしまう。
「ああ?お前また追放されたのかよ。懲りないねぇ?『便利屋』さんよぉ?もう諦めて故郷で平凡な暮らしでもしたほうがいいぞ」
そんな煽りを受けて私だって黙ってはいられない。真っ直ぐその男に向かって歩きだし目の前に立って言い放ってやる。
「そういうあなただって『死神』と呼ばれていて仲間なんていませんよね?人のこと言えるんですか!?」
「生意気なガキだな……オレに啖呵を切るか」
「私は18です。ガキじゃありません!」
拳に力が入る。でも怯むわけにはいかない。あれだけバカにされて黙っていられるか。私は思いっきり睨みつける。すると相手も睨み返して私を威圧してくる。
それを見ていたルナレットさんが私にとっての運命の一言を言う。
「はいはい。2人とも落ち着いて。それなら2人でパーティーを組めばいいんじゃない?」
「……はい?正気ですかルナレットさん?」
「お前、オレにガキのお守りをしろっていうのか?」
とてつもなく突拍子ない提案がルナレットさんから出たんだけど……。
「私は本気ですよ?ブレイドさんは酒代の滞納がありますから、拒否権はないですよね?」
「あのな……」
「エルンちゃんももしかして怖いの?『死神』とパーティーを組むの?」
「怖くないですよ!こんな酒呑みのおじさんなんて!」
「なら決まり!ここにあなたたちのパーティーを認めます」
こうして、崖っぷちの追放29回の私とギルドで『死神』と呼ばれている酒呑みのおじさんの嫌われ者同士のパーティーが結成されたのだった。