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空き地

 これは二十代後半の男性、宮川さんの話である。


 宮川さんは小学生のとき、家の近くに苦手な場所があった。そこは雑草がびっしりと生い茂っている空き地だった。広さは学校のプールほどあり、柵などは設けられておらず、あたりにはいつも油っぽい鉄の臭いが漂っていた。両隣にある古い町工場から漏れ出てくる臭いだった。


 家から小学校にいくにも、駅にいくにも、友達の家にいくにも、その空き地の前を通らなければならない。そうやって頻繁に前を通る空き地だというのに、宮川さんはとにかくそこが苦手だった。

 正確には空き地にいる彼らが怖かった。

 彼らというのは親子と思われる三人だった。異様に痩せた父親と母親、それに五、六歳の女の子である。

 彼らは空き地の中ほどに並んで立っており、まるで人形かのように微動だにしなかった。目のあたりは影に隠れているものの、口もとははっきりと見て取れた。まるで顎が外れたかのように、口をぱかっと大きく開けている。

 そして、両親も女の子もまったく同じ声を発していた。


 おぉ、おぉ、おぉ、おぉ、おぉ、


 その声に意味があるのかどうかは不明だったが、三人はいつも同じ声を発していた。

 また、彼らが見えているのは宮川さんだけらしかった。宮川さんの両親や友達に彼らの話をしても、不思議そうな顔をされてしまうのだ。

 宮川さんは彼らのいる空き地が怖くて怖くて仕方なかった。なるべくなら近づきたくなかったが、小学校、近くの駅、友達の家――家からどこかにいくとなれば、必ず空き地の前を通らなければならないのだった。

 恐々と空き地の前を通ると、必ず彼らはそこにいた。親子三人で並んで立っており、大きく広げた口から同じ声を発していた。


 おぉ、おぉ、おぉ、おぉ、おぉ、


    *


 それから二十年ほどの年月が経った。

 宮川さんは大人になるにつれて、彼らが見えなくなっていった。今ではまったく見えていないのだが、例の空き地はまだそこに残っている。

 空き地の周囲はずいぶんと様変わりし、鉄の臭いがしていた町工場も建て替わった。小綺麗なファミリー向けマンションになって賑わっている。


 しかし、空き地はといえば、現在も空き地のままなのだ。空き地になにかを建てようとすると、なぜかトラブルにみまわれるからだ。


 建築用地として空き地を購入した人物が亡くなったり、仲介に入っている不動産会社が倒産したりした。視察にきた設計士や現場監督が、事故で大怪我をしたこともあった。

 そういったことが続いているため、空き地は今も空き地のままだった。


 もう見えなくなってしまったが、きっと彼らはまだそこに立っている。宮川さんはそのように思っている。

 異様に痩せた父親と母親、それに五、六歳の女の子。あの親子三人は今も空き地に並んで立ち、大きく広げた口から不気味な声を発している。


 おぉ、おぉ、おぉ、おぉ、おぉ、


 空き地で起きた数々のトラブルは、きっと彼らが関係しているのだろう。



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